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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
領土戦での日常
163/248

162.回想

 また殺した。

 燃え盛る業火の中で、俺は足元に散らかっている“肉塊”を無感情に見下ろした。


『……紅』


「パズズ……俺たちだけが残っちまったな」


 大切な人は誰も残っていない。

 どうしてこうなったのだろう。

 俺たちは、ただ今の日常を守ろうとしただけなのに……。


(あは)


「っ! 誰だ!」


(へ〜。まだ戦う意思があったのか。驚きだよ)


 頭に直接響いてくるような声。

 酷く幼い子どものようでもあり、どこか人間とは違う“異質さ”を併せ持つ声。

 不気味だ。

 姿も見えないのに、全てを見透かすように話すそいつは、とても恐ろしかった。


(何人殺したの?)


「……え?」


 こいつはいきなり何を……。


(だから、君は何人殺したの?)


「俺が……殺した……?」


 ……双子のマキナ・チャーチに、炎使いのマキナ・チャーチ。


「……三人だ」


(うっそだー)


 ドクン、と強く脈が打った気がした。

 だけど、気のせいだ。……気のせい、のはずだ。


「……三人、だ」


(違うよ)


 クスクスクスクス。

 そいつは、ただ笑った。


(月島 雪音は君を庇って死んだ)


 ……何だ。何を言ってるんだこいつは。


「……月島が死ぬわけねえだろ。あいつは、“不死”なんだから」


(不死ではないよ。自分が一番よく知ってるんじゃない?)


 ……わからない。

 わからないわからないわからない。

 わかりたく、ない。


(君がその不死の一部を持ってるんじゃないか。ピースの一つを失ったパズルはもうパズルとして機能しないんだよ?)


 不死というパズルから、一ピースだけ俺が抜き取ったために、不死としてその月島の“不死性”が機能しなくなった。

 ……そう言いたいのだろうか。


(そうだよ)


 こいつは心も読めるのか。

 そもそもこの声の主は


(いったい誰なんだ、だよね?)


 クスクスクスクス。

 笑いながらそう言った。

 すると、突如靄が消えるように目の前の“何もないはずの空間から”、一人の子どもが現れた。

 白い肌に中性的な顔。小柄とも大柄とも言えない、中肉中背と言ったような体つき。銀の瞳と髪。銀色は晶で見慣れていたはずだったが、そいつの銀色は、どこか違った。

 人っぽさを感じない。


(やあ。僕の名前は“デウス・エクス・マキナ”。人の手により創り出された“神”だよ)


「デウス……エクス……」


 マキナ。

 最後の部分を呟く前に、そいつこそが全ての根源だと、諸悪の根元だと悟った。


「パズズ! 行くぞ!」


『はい!』


 元気良く、威勢良く、頼もしい返事だ。

 クスクスクスクス。

 マキナはまた笑う。


(パズズ? パズズって、この猫のこと?)


 マキナの手には“黒猫”がぶら下がっていた。


「……は?」


(まさか自分のパートナーがわからないなんて言わないよね?)


 息が荒くなる。心拍が早くなる。焦点が合わない。

 ……嘘だ。


「だって、パズズはここに……。おい! パズズ! 返事を!」


(無駄だよ。“幻聴”に、“幻”に逃げるのはもうやめようよ。子どもじゃ無いんだから)


「違う! 契約執行状態ならパズズが、パートナーがいなきゃいけないはずだ! 今の俺は風を操れる。なら、パズズだって俺と」


 シュン、という静かな効果音と共に、鏡のような物が出現した。

 そこに写っていたのは……


「……鬼?」


 赤い、朱い、紅い、鬼。

 ……俺?


「……違う。俺じゃない……! 誰だよこいつは!!」


(いーや君だよ。……でも、このままだと埒が明かないね。よし、全てを教えてあげよう。ボクは優しいから)


 知りたくない。

 何も見たくない。

 何も聞きたくない。

 何も、何も……。


(月島 雪音は君を庇って死に、君は激昂して鬼化した。ああ、なんて素晴らしい愛だろう。愛していたからそこまで怒れるんだ。そこまで、憎めるんだ)


 鬼化? ……俺が?

 そんな、そんなはずは……。


(そして理性を失った君は全てを壊した。敵も味方も、全部。今の君は、全てを発散して少しだけ理性を取り戻しただけさ。すぐにまた暴れる)


「そんなはずがあるか!」


(ほう? 何故だい)


「例え俺が鬼化しても、他の皆が俺に殺られるわけがねえ! 俺が、俺だけが生きてるわけがねえ!」


(君は自分の力を理解していない。鬼化はパートナーの力を百パーセント“奪い取る”。そして“本能的に使いこなせる”んだ。君の力は、というよりこの猫の力は、他を凌駕していた。誇ってもいいよ)


「そ、そんな……」


 世界が色あせて行く。

 灰色だ。

 俺が、俺の守りたいもの全てを壊した。


(大丈夫。ボクがその苦しみから解放してあげるよ)


 クスクスクスクス。

 マキナは笑う。


(さあ、死んで。そして、また新しい物語を初めておいで。僕の暇つぶしのためにね)


 光が迫る。

 だが、もう体が動かない。

 俺の体は、何の抵抗もなく光に呑まれ、力の激流にその身を壊され、消滅していく。


(……本当に君は面白いよ。最高のオモチャだ)


 クスクスクスクス……

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