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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
領土戦での日常
162/248

161.どっちが悪人?

 二度と、殺させはしない。

 その言葉は無意識だった。

 俺は別に異世界トリップして勇者やってたとか、過去に壮絶な戦いに巻き込まれて誰かを守れなかったとか、そんな事を体験した事は、無い。

 だけど、今は自然とそう思い、口に出た。

 ……記憶、だろうか。

 だとしたら、都合がいいのかもしれない。

 過去何百回何千回という世界で磨き上げられた俺の力を、今ここで、


「出し切るぜ!」


 過去に例を見ない暴風が吹き荒れる。


 *


 早い。

 何が、と言われれば、ただ簡潔に“成長力が”としか言えないだろう。

 あれが本当に、ほんの少し前、春に初めて魔狩りに触れ合った者の力なのだろうか。

 ……少し違うか。

 紅は、“記憶”を持っている。どうやらその“記憶”を持っているのはごく一部で、俺はその他大勢に紛れているわけだが。

 一つの世界での経験が、次の世界への力になる。それより前の世界での経験も全て引き連れてだ。

 強くてニューゲーム。

 ふとその言葉が思いついた。

 紅は、それを実現しているのだ。

 何度も死に、経験を持って次に生かす。

 だとしたら、ああ、なんて……


 ……なんて、不安定な力なのだろう。


 紅が紅である以上、それは紅が歩んできた道だ。なら、大筋が変わっていても、紅自身の行動には一貫性というものがあるだろう。

 紅が紅であるが故の行動。

 だったら、今回紅は言った。

 “必要なら殺す”。

 なら、殺したのだろうか?

 紅はその前の、その前の世界よりも前の、ずっとずっと昔の世界で、“殺し”続けていたのだろうか。

 忘れていたでは済まされない。

 紅は急激な成長……思い出すのと同時に、いつかは殺した記憶までも思い出すのだ。

 それこそ、俺の記憶では全く足りないレベルでの記憶だ。

 血が滴り、肉が飛び、怨念が撒き散らされ、ただ自分の体を赤く染めていった記憶が、膨大な量で待ち受けているのだ。

 それでも紅は進むのだろうか。

 だとしたら、それはもう、人の道では無いだろう。

 人を捨て、武人にならず、修羅を抜け、辿り着くは鬼の道だ。

 赤鬼……紅鬼。

 戦いに身を投じた、血と屍のみが積み上がった道。

 ……紅は、どこに向かうのだろうか。

 もし、もし本当に“鬼”の道を進むのだとしたら、その先にあるのは……


「和也くん」


「……舞さん」


「信じてあげてください」


「………………」


 難しい頼みだった。

 もし本当に“そうなってからでは”遅いのだ。

 それでも……俺は信じられるだろうか。

 ……否。

 例えどんな人物であろうとも、疑わしいモノには気を配る。身近な人物だからと言って手を抜いて、いざ敵の資格だったら目も当てられない。

 だから……


「頼むぞ、紅」


 どうか、人間でいてくれ。


 *


『来たな!!』


「ああ、ぶん殴ってやるよ」


 いつかのようにな。

 あの時より力も溢れる。頭も冴える。


「舞さんはもしもの時のために休んでてくれ。刀夜に九陰先輩はどうせもう動けるだろ。ル……でもないしゆでもない……いいや。月島を引き続き守っててくれ。和也と輝雪と冷華さん……あと、大空だったか? 後ろの方から大量の空気の乱れを感じる。多分援軍だから相手しててくれ。俺はこの双子を殺す」


 スラスラと出てくる言葉に少なからず驚かなくもない。

 “これでベスト”だという考えを口にしただけだったのだが、もしこれが前回の記憶の引継ぎだとしたら危ないかもな。

 烈の鬼化でだいたいわかってる。“今回の世界はすでに前回の世界とその物語の本筋がズレている”ことは。

 あまり前回の記憶に引っ張られないようにしなきゃな。


「こ、紅……いや、わかった。一人たりとも通しはしない」


「張り切っちゃうぞー!」


「刀夜見てて。私頑張る」


「というか二人とも起きてたの!? あと紅は何で私を名字で!?」


「……おっと」


「月島 雪音。あなたにはたっぷり教育的指導をするから覚悟」


「……あ、あはは」


「じゃあ私はお言葉に甘えますね〜」


 皆は指示通りに動いてくれる。もう心配は無いな。

 俺は目の前に“敵”を“殺す”ことに集中する。


「……僕らを殺すってゲイル」


「……僕らを殺すってエレキ」


『死ぬのはお前だあああああ!』


 繰り出される雷と風。

 しかし、雷は前回同様、真空状態を一瞬作り、周囲へと流す。風は単純にパワーで勝てる。

 あまえいにもノロい。

 あまりにも弱い。

 だから、長期戦など考えず、最初から全力で、突っ込む!!


『っ!!』


 俺は大地を駆けるように空を縦横無尽に飛び回る。


「は、速い!」


「ぼ、僕だって!」


 同じ“風”の使いであるゲイルがこちらに接近してくる。

 だが、力の差は歴然だ。

 こちらに突進して剣を突き出してくるゲイルの攻撃を避けた後、おれは容赦無くガラ空きの腕を折る。


「ぎゃあああああああああ!?」


「ゲイルー!」


「うっせえ! 黙ってろ!」


 空中宙返りで勢いをつけた踵落としをゲイルに当て、落とす。

 これで完璧だ。

 次は。


「う……」


「そっちから襲ってきたんだ。今更命が惜しいなんて無しだぜ?」


「た、助けて! 誰か!」


「この世界に助けなんかねえ」


「マキナ様が助けてくれる!」


「そうか。なら死んでから願え」


 俺は風を拳に集め、放った。


突風(ガスト)一撃(・インパクト)!!」


「うわあああああああ!?」


 俺の一撃が、エレキに届


「待ったああああああああ!!」


 く前に、一筋の“炎”が俺とエレキの間に落ちる。


「仲間が稼いでくれたこの時間……絶対に無駄にはしねえ! 覚悟しやがれ魔狩り野郎!!」


「……邪魔くせえのが来たな」


 あれは……蒼が襲われたっていう炎のマキナ・チャーチだろうか。

 なら、油断せず戦闘状態を維持した方がいいな。

 その時。

 後ろにいた月島から一言言われた。


「どっちが悪人かわからないわね」


 仲間を信用しろ仲間を。

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