157.最終兵器
「はぁ、はぁ」
「舞さん。大丈夫か」
「和也くん……大丈夫です」
エルボス。
本来は先に輝雪たちを拾う筈だった。
しかし、今は時間が必要だと舞さんが判断したのだろう。
なら、この時間を有効利用しなければ。
「【回復】」
鎖に特性を付加。
舞さんの今もなお血が流れ出るお腹に鎖を巻く。
これで、少しでも塞がれば……。
「冷華さんは周囲の警戒を」
「任せて。本業は射撃手だから。遠くまで警戒出来る」
「助かります」
どれだけ時間が稼げるか。
それが鍵だ。
「和也くん。あなたの影の能力は、イメージにその性能がかなり左右されます。焦らないでください。私は……大丈夫ですから〜」
「……舞さん」
無理をしているのは明らかだ。
だが、言うとおりではある。
そもそも、俺は回復とはどういうイメージなのかがわからない。
熱なら分子の高振動。盾なら攻撃を弾く。大鎌なら長い柄に内側に反った刃。
なら、回復とは何だろう。
傷を塞ぐ? 治癒能力の向上?
言葉で言うのは簡単だ。だが、いつも俺自身の思考が邪魔をする。
いつも、“殺し”しかした事がないくせに。
「和也くん。あまり、囚われてはいけませんよ」
……見透かされているか。
「それにしても、紅くんを気絶させたのは間違いでしたかね」
「いや、咄嗟に動くことは出来なかっただろうし、変に抵抗されてもロスだ。気絶させておいて正解だ」
だが、戦力が落ちているのは否めない。
何か、何か一つだけきっかけがあれば。
「あ、いいこと思いついた」
「いいこと? 何を思いついたんだ冷華さん」
「愛を叫ぶ」
「その心は」
「獣が来る」
「世界の中心でなんたらかんたらはいい」
「和也。叫んで」
「何がやりたいんだ……」
というか、獣って何のことだ。魔獣か? 逆に呼んではダメだろう、それは。
「和也。叫んで」
「何故俺が……」
「和也はこの世界の理を理解していない」
「何だと……」
月島が言っていたこと以外にも、この世界には秘密があったと言うのか。
「それはね」
「それは?」
「御都合主義」
「………………」
期待して損した気分だ。
「ほら、和也。愛を叫んで」
「なぜ俺が……」
「愛は次元を超える」
「冷華さんがやればいいだろ」
「刀夜とはまだ相思相愛になってない」
「いや、そんな本気で悲しそうな顔をするな。いやしないでください。俺が悪かったです。やりますから、やりますから泣かないでください」
「あらあら〜」
どうしたこんな目に会うのだ。
もういい。さっさと叫んで終わらせよう。
「好きだ」
想像以上に恥ずかしい。
顔から火が出そうだ。
「もっと」
「……好きだー」
棒読みなのは許してほしい。
「気持ちを込めて」
「……手本を」
「刀夜ーーーー!! 大好きーーーーーー!!!」
「………………」
「和也。ワンモア」
外堀を埋められてしまった。
……これって、叫ぶしかないのか?
「ワクワク」
「舞さん。録音やめてください」
くそ。
こうなったら心を閉ざ
「心は開いて気持ちを込めて」
してはいけなんですか。
………………。
恥ずかしさは、一瞬。
「すぅぅぅ……好きだーーーーーーーーーー!!!」
『おお!』
はぁ、はぁ、叫んだぞ。
……。
…………。
………………。
「何も起きないじゃないか!!」
「和也くん。落ち着いて」
「誰のせいだ誰」
『…………ぁ〜』
「の。……ん?」
今、聞き覚えのある声が。
『……ですか〜!』
「来た」
「本当に来ちゃいましたね〜」
「ま、マジか」
……いや、なんで、ここに、あいつが!
「本当ですか〜〜!!」
「月!?」
大空
大空 月
俺の彼女にして婚約者。
動物を操る能力を持つ。
本部に所属する魔狩りだ。
「がはっ!?」
「きゃんっ!?」
上空何mかは知らんが、結構な上空から落ちてきたようで、その衝撃は恐ろしいものだった。
「……ぐ、あ」
「カズ兄カズ兄! 好きって本当ですか! 本当ですか!」
「あ、ああ。本当だ……だから一旦下りてくれ」
「あ、はい」
しばらく立てそうにない。
だが、意地で【回復】は継続させる。
「……大変ですね〜」
「愛こそ最終兵器」
「あ、愛!? あぅぅ〜……」
……どうするか、この状況。
*
「っ!!!」
「どうしたの月島さん」
「また名前が被った気がする……」
「名前?」
「ルナってあだ名の方の」
「え? ……あ〜。そういえば和也の」
「いるんですか!? 教えてください九陰先輩!」
「お、落ち着いて」
作者のミスで大幅に修正しました。12/8




