154.最終試合:時空
「紅! 無茶するなと言っただろう!」
「いでっ!」
和也に殴られた。
「無茶はしてねーだろ無茶は!」
「どこがだ! なんど焼かれたと思ってる! 怪我を見せろ!」
本気で心配してくれるのは嬉しいんだけど、“怪我”は無いんだよなー。
「大丈夫だって。もう治ったし」
「そんなわけが」
「和也くん。静かに」
「舞さん。だが……」
「大丈夫ですよ。ですね紅くん」
「……ああ」
俺は光の龍に食われた(実際は焼かれただけだが)左足を見せる。
そこにはすでに、傷の痕は残っていなかった。
「なっ……」
「俺が烈とやり合った時だ。マキナ・チャーチの野郎の雷で焼かれた時、俺はルナからツクヨミの【不死性】を少し分けてもらった。おかげで俺の体は多少のダメージはすぐに回復する。……立て続けにダメージを食らうか一撃で殺されれば意味を成さないがな」
「……そうか」
今更ながら人間離れしてるな。
自らトラックにぶち当たりに行く趣味は無いから、確かめようも無かったが。
「とりあえず紅くん。ちょっとこっちに来てください」
「ん? 何すか」
俺は普通に舞さんの前に移動した。
何も考えず、反射的に、ただ一歩踏み出した。
この時気付いていれば良かった。
舞さんの語尾が、伸びていないことに。
「セイ」
「がっ!? な……んで…………」
無抵抗の腹に、強烈な一撃を入れられる。
何故……。
「無茶した罰ですよ? 紅くん」
「……う」
やはり舞さんも怒ってたようで、そのまま俺の意識は闇に沈んだ。
*
「ふう。とりあえずしばらくは大人しくなりますね」
「……荒っぽいな」
「睡眠。かっこ物理」
「まあ、ここからは少々荒っぽいですので、気絶してもらった方が楽でしょう」
紅くんは少々慌てっぽいところがありますしね。
私の戦いはお世辞にも地味とは言えませんし、確実に紅くんはパニックになるでしょう。
なら、いっそこうした方が早いでしょう。
『それでは最終試合を始めます。東雲 舞さん、時乃 廻間さん。中央へ』
「それでは行って来ます」
「無茶はしないで」
「………………」
「大丈夫ですよ和也くん。必ず勝ちますから」
「……ああ」
こんなに心配してくれる人がいるなんて、幸せ者ですね。私は。
・・・
・・
・
「来たか」
「ええ」
久しぶりの空気ですね。
何とも言えない、戦場の空気感。
「時間と空間。時空、か。ある意味、お前の能力と俺の能力は根本的に似通ってるかもな」
「そうですね。昔から、いつだって引き分けてしまいました」
「勝敗は決まらず、お前は空間を壊し過ぎて、俺は体力を使い過ぎて能力を使えなくなる」
「互いにデメリットが多過ぎて、力の制御も難しい。おかげでいつも短期決戦が基本。それでいて決着は付かないのはどうしてでしょう」
「だが、それも今回までだ」
「ええ」
今回は何時もとは違う次元の戦いになるでしょうね。
どちらも、新しい力の使い方を身につけた。
今までの経験は役に立たない。
なら、
「すぐに決める」
「すぐに決めます」
先に一撃当てた方の勝ち。
後からの逆転も、見切りも、通じない。
攻撃を当てる。
たった一つの勝利条件。
『それでは、最終試合を始めます』




