14.俺に元気では無く力を下さい
俺がパズズを庇い、魔獣のレーザーが当たる瞬間だった。
突如俺の目の前に黒い影が飛来し魔獣のレーザーをくらった。
ドガアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
耳を劈くような轟音が鳴り響く。
爆風、衝撃、閃光。
俺の五感全てが真っ白になる。
「?」
だが、それだけだった。どこか体が痛いわけでは無いし、手足も動く。
ゆっくりと目を開けると、腕の中には顔を真っ赤にしたパズズがいた。なぜ真っ赤なのかはわからないが、
「無事で、良かった」
俺はとにかくホッとした。パズズはさらに真っ赤になったが。
それよりも、いったい何が。
「間一髪、だな」
「!!」
何故声をかけられるまで気付かなかったのか疑問に思ってしまう程自然に、そいつは目の前に立っていた。
漆黒のローブに草刈りに使うような鎌。だが、それは絶対的な力を感じさせる。魔法陣のようなものを体の前に展開させている。あれでレーザーを防いだのだろうか?
全体的な印象としては“死神”が一番しっくりくる。
「全く、無茶をする。この数相手に単身で挑むとわな」
「お前は」
誰だ?という言葉を何とか止める。
俺はこいつを知っている。この声を聞いた事がある。こいつをは
「和…也。和也なのか?」
「そうだが?」
…何だろう。味方より敵って感じがする。
「お望み通りKILLしてやろうか?」
「す、ストップストップ!そして心読むな!」
あ、危ねえ。パズズと契約執行してたとしても絶対負ける。それだけの力の差がある。
「さて。ここからは俺も加わるぞ」
「あ、ああ。だが、っ!」
い…てぇ!
「紅!け、怪我を!」
「まあ、魔獣の突進をくらったんだ。契約執行してたとしてもダメージは残るだろう」
ク…ソ!
だが、俺がそんな状況でもここは戦場だ。敵は無慈悲にも襲いかかる。
グォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
「来たか」
「…パズズ」
俺は契約執行する。無いよりはマシ、いや無ければ死ぬだろう。俺も戦闘体制に入る。が、
「ここは俺がやる」
和也が止める。
「だが!」
「お前には仕事がある。見せ場は作ってやるから休んでろ」
『ここは一回休みましょう。まだまともに動ける体ではありません。契約執行時は回復促進の効果もありますが、そんな急激なものではありませんし、この調子だと逆に体が壊れます』
「…わかった」
たしかに、ここで俺が行っても足を引っ張るだけ。だが、
「和也一人で大丈夫なのか?」
『…クス』
笑われた。
「見ていろ」
「お、おう」
ジャラ
和也が魔法陣のようなものを解除した瞬間何かが垂れ、和也がそれを持つ。…鎖?
「鎖鎌か?」
「ああ」
和也は短くそう答えると一気に加速し、魔獣の中へと突っ込む。て、大丈夫なのか!?
『始まりますよ』
「何が…」
俺は途中で口を噤んだ。目の前の光景に衝撃をうけたからだ。
地面から黒いものが出て鎖を漆黒に染める。その鎖を和也は振り回す。それに触れた魔獣はまるで豆腐を切ってるかのように切断されていく。爪や牙で攻撃してもあの小さい鎌を触れさせるだけで折られ、斬られ、両断され、絶命する。
俺の時は“殺し合い”という表現がせいぜいだ。だが、和也のは“殺戮”だ。
『…コクの属性は影。主な使用方法は影に一つだけ特性を付加させること』
「特性を付加?」
『はい。例えば、あの鎖に纏わせてる影には“切断”の特性を付加させています。それにより、触れたものを“切断”できる。鎌には最初から備わっているので、多分“振動”の特製を付加させることで斬れ味を増大させているのかと。
私たちを守った時の盾も“硬化”を付加させ防御力を上げて防いだのだとおもわれます』
「…凄えな」
『ですが、あういう能力は使う側も相当の練習、実践を積まなければなりません。私たちの能力は想像により具現するものですから』
そして、和也自身の実力も高いのだろう。俺はまだ、パズズの力に乗っかってるような状態だ。和也とコクの関係はきっと対等なものだろう。輝雪とクロもまた。
「…追いつきてえ」
いつか、和也たちと肩を並べられるぐらいになりたい。
『あなたならきっとなれます』
パズズの言葉は、どこか確信に満ちていた。
『信念は人を強くする。あなたにはたしかな“芯”がある。あなたがそれを忘れない限り、あなたはいくらでも強くなれる』
「…ああ。強くなろう。一緒に」
『…はい』
その時だった。
ブォォォオオオオオオオオオオオオオ………
「っ!な、何だ!?」
今和也が相手にしてるよな魔獣の鳴き声は激しく、トゲトゲしい攻撃的なものだった。
だが、この鳴き声は違う。重苦しく、巨大なプレッシャーを感じさせる。絶対的な力を感じさせる。
「…来たな」
「か、和也!何なんだよこれ!」
『あっちです!』
俺はパズズに言われ、パズズの意思が向いている方向を見る。そこには
「嘘……だろ?」
あれは…何だ?…魔獣?あれが?冗談…だろ?
そこにいたのは、只々巨大な…魔獣だった。
「紅。見ろ。あれが今回の魔獣を率いる頭だ」
頭。つまりはリーダー。つまりはボス。つまりはトップ。
和也の目が言っている。さっき言ってた俺の“仕事”とは、あれを倒すこと。
「行って来い、紅」
………無茶だろ。




