146.コロシアム
「着いたぞ紅」
「……おう」
「どうしました紅く〜ん」
「……何処なんすか、ここ」
周囲は緑に覆われている。
気が、草が、植物が茂っている。
森。
かなりの奥地だ。
さらに目の前には、コロシアム。ここは日本から遠く離れた場所なのだろうか。疑問は尽きない。
「ここは日本の各所に設置されている決闘場だが?」
「各所!? 他にもあるのか!?」
「普段は人払いの結界が張ってあって、このように自然に囲まれた場所であることが多いです〜。あと、決闘場が一つだけだと移動が不便なのでこういう形になりました〜」
「なるほど」
「おっそい!!!」
不意に、どこからか女性の声が聞こえる。
「誰だ!」
「ふん! このあたしを知らないとは、随分と無知な魔狩りね!」
その人物は巨大な木の、枝の上に立っていた。
短パン着用だからパンツどうのについては大丈夫だ。
「なに嫌らしい目で見てんのよ!!」
「危なっ!?」
木の上から石を投げつけられる。
先端はかなり尖っており、純粋な殺意が感じられた。
「しょうがないから何も知らない無知で無様なあなたにあたしの名前を教えてあげるわ!」
「血眼うっさいわよ」
「木崎さ〜ん? ここからあたしのかっこいい自己紹介が始まるところなんだけ」
「ああ、千真 奈孤ってお前か」
「あら。知ってるの。なら話ははや」
「というか輝雪。いつの間にここにいたんだ?」
「車で一緒なんだから、いつの間にって事は無いでしょう」
「そりゃそうだ」
「無視してんじゃ無いわよ!」
どうやら相手はかなり焦れているようだった。
目からはむき出しの闘争本能が垣間見える。まるで血に飢えた獣だ。
「血眼。あんたとは勝負の場で決着をつけてあげるからこの場は収めてくれない?」
「何よその上から目線。気に入らない」
「……そうね。私もあんたのその不遜な態度が大嫌いよ」
「あら。あたしは十分に自分の立場を弁えてると思うわよ。あなたと違って、あたし強いから」
「戦闘狂だから戦闘が出来るのは当たり前でしょ。というか前提条件でしょ。そういえば、あんたから戦闘を取ったらどうなるか興味があるわね。いいわ。今日であんたの唯一を奪ってあげる」
「いつもお兄ちゃんの後ろでびくびくして自分すらも騙して生きてきたそりゃもう存在自体が滑稽な奴に負けるわけが無いでしょ。覚えてないの? あんたとあたしの戦績」
「ええ覚えてるわ。だから、今日でそれも終わらせてあげるの。ほら、私優しいから。いつまでもプレッシャーの中で生きるのはお辛いでしょう?」
ダメだこいつら。水と油過ぎる。
これ、どうしよう。
「はいストップ」
「止まれ輝雪」
「ビーフさん!」
「お兄ちゃん!」
あれが噂の美意歩志中さん!?
意外に……ああ、うん、可もなく不可もなしな見た目だ。
「行くわよ奈孤。こんなとこで話してもどうにもならないわ。決着は勝負で付けなさい」
「行くぞ輝雪。こんなことしても時間の無駄だ。どうせ対戦相手はあいつなんだから、ここは退け」
『は〜い』
「さすが保護者……」
この場を丸く納めやがった。
……両者は互いに睨み合ってるけど。
「見てなさい。撃ち抜いてやるから」
「ふん。斬り裂いてやるわ」
血眼たちは去って行った。
忍者のように枝から枝へと飛ぶように移動して。
……ナチュラルに人間離れなことを。
「俺たちも行くぞ」
「はーい」
「おう」
俺は多大な不安を残しながら、コロシアムへと移動した。
・・・
・・
・
「……でけえ」
「紅くん。口空いてるとバカに見えるわよ」
「……言い方ってもんは無いのか」
「紅。輝雪。そろそろ並んで」
「うぃーっす」
「はーい」
冷華さんに言われて並ぶ。
それにしてもデカい空間だ。
さらには何だろうか。
屋根は無いのだが、空が歪んで見える。
結界?
「ここなら現実世界でも、力をフルに使える。いちいちエルボスに行かなくてもすみます」
すでにスイッチONの舞さん。
というか、使えたんだな。こっちでも。まず使うという発想が無かった。
そういえば、いつだったか俺が銃で撃たれそうになった時、風で助けてくれてたな。
「来たわよ」
輝雪が言うと、逆側から人が現れる。
今回の対戦相手だ。目の前に並ぶ。
さらに、黒い羽が上から落ちる。
上を見ると、カラスがいた。
『みなさん。集まりましたね』
「しゃべっ!?」
『お静かに。紅 紅さん。そういえばあなたは唯一のイレギュラーでしたね。簡単に自己紹介を。私は大空と申します。動物を操る能力があります。どうぞお見知り置きを』
「は、はぁ……」
本当にいろんな奴もいたもんだ。
「いたか。大空」
『ひゃう!? 和也さん!? ……ごほん。それでは、両チームとも五人ずつ集まったようなので試合を始めます。両チーム準備を始めてください』
なんか今。反応が変だったような。
「皆さん。移動しますよ」
『はい』
何だったんだろう。
・・・
・・
・
「なあ。あのカラス」
「ああ。あれはお兄ちゃんの許嫁よ」
初っ端から爆弾だった。
「ああ。俺の彼女だ」
爆弾じゃない。空間交差だった。
「お前彼女いたの!?」
「いつ俺が彼女がいないと言った」
「言ってないけど! 言ってないけれど!!」
「いいからもう試合が始まるぞ」
「いや待って!? 凄く気になる! 気になるから! 集中出来ないから!」
『それでは第一試合を始めます。木崎 和也さん、鍋野 美意歩志中さん。中央へ』
「じゃあ行ってくる」
「必勝ですよ」
「頑張って」
「お兄ちゃん、ファイト!」
「おいいいいいい!? 」




