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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
領土戦での日常
142/248

141.束の間の蒼

「ふぁ〜、なんかここんとこ毎日怒涛のようにイベントが起こるな……」


 特に昨日なんか心が抉れられたしな……自業自得なわけだが。

 気分を一新させるべく、ベランダに出て朝日を浴びる。


「ん〜〜〜〜……」


 思いっきり伸びをする。

 ふぅ。いいもんだな、朝って。

 そうだ。簡単に朝食でも作ろうかな。野菜余ってたしサラダ良さそうだな。野菜スープも作ろうかね。ああ、卵もあったな。オムライスは朝からだとキツいだろうか。


「はぁ。領土戦まで日も無いし、出来るならゆっくりと……うん?」


 なんだ?

 不意に、太陽に重なるように黒い点。……人? 逆光でよく見ることが出来ない。

 ……嫌な予感がした。


「……こっちに来てる!?」


 黒い点は徐々に大きくなり、形をはっきりさせていく。

 その影はまるで、人が何かにぶら下がってるような……。


「…………ぁぁぁぁあああああああああ!! 退いて退いて退いてええええええええええええ!!!」


「っ!?」


 聞き覚えのあるどころでは無い。

 風にたなびく黒い髪。

 俺と同じ緑色の目。


「蒼おおおおお!?」


「お兄ちゃんそこ危な」


 言葉はそこで途切れる。

 次の瞬間、俺は空から降って来た蒼と正面衝突を起こし、破砕音を起こしながらベランダから部屋へと戻った。


『なにごと!?』


 飛び起きる晶と焔。

 うん。出来れば俺もそっち側にいたかった。

 というか、いったい何で……


「パラシュート……なんだよ」


 腹部への大ダメージを受けながら、そう言った。


「あはは……つい……」


 バツが悪そうに答える蒼。

 いや、ほんと。何処の世界に“つい”でパラシュートを使い突進してくる妹がいるだろうか。

 ……ここにいたわ。


「ぐふっ」


「お兄ちゃん!?」


 すまん……少し、眠らして……く…………。


 ・・・

 ・・

 ・


「はっ!?」


「紅! 起きた!?」


「あ、危なかった。呼吸が止まるなんて……」


「ひ、秘密にしておいてくださいね」


 不穏な単語が聞こえる中、俺は目を覚ました。

 ……呼吸が止まるなんて?


「まさか人体急所に偶然蹴りを入れてしまうとは……」


「もう少しズレてたら死んでた……」


「処置が間に合って良かった……」


 え? え?


「というか、晶さん。呼吸が止まったとわかった瞬間、よく躊躇いなくやりましたね……」


「き、緊急事態だったんだからしょうがないでしょ!」


「そうだよ! 絵面的には男女のキぐはぁっ!?」


「バカですか泥棒猫」


 躊躇いなく? 緊急事態? 絵面的には男女の?

 …………え?


「いえ。もう泥棒猫ですらありませんでした。いやはや、私も落ちぶれたものです。こんなぽっと出の女に泥棒なんて出来る訳が無いのです。そうですね。泥棒猫は今日から自惚れ猫に改名させてあげましょう」


「な、なにおう! あなただって新しい男見つけて毎日毎日電話したりメールしたり監視したり盗聴したり彼氏の爪や髪の毛を後生大事に持ってたり発情しまくりじゃない! この発情豚!!」


『やんのかごらぁ!』


「はいはいストップストップ」


 ……結局なんだったのだ。


「で、蒼ちゃん。今日来た用事は?」


「ああ。蘇生方法を新しく開発したので興奮したあまりちょっと葉乃矢さんに会いに来ちゃいました。テヘ♪」


『あー、なるほ……え?』


 今すごくさらっと言ったけど、なんか凄いこと言ってませんでしたか?

 蘇生方法?


「あ、これ企業秘密ですので」


「嘘じゃないんかい!」


「私が嘘を言ったことでも?」


「あるよ! めっちゃあるよ! 普通についてるから!」


「いつから嘘だと錯覚していた?」


「なん……だと……」


「ふふ。お兄ちゃん、私は天の道を行き全てを司ってるんだよ? このぐらい朝飯前だよ」


「どこのカ◯トだ。というか、映画では時空すら遡ったあのシスコン兄貴でも蘇生方法は見つけてねえよ」


「伏せカードオープンだよお兄ちゃん」


「死者蘇生ってな。随分お手軽な蘇生方法だな」


「お兄ちゃんを指定するよ」


「俺は死んでたのか!?」


「いつから生きていると錯覚していた?」


「なん……だと……て、いいんだよもうこのネタは!!」


「あ……うん。……そう、だね。知らない方がいいことも……あるよね」


「え? なにそのマジな感じ。やめてって。生きてるよね俺? なあ!?」


「大丈夫だよお兄ちゃん! お兄ちゃんもちゃんと蘇生させてあげるから!!」


「死んでんじゃねえかああああああああああああ!!!」


 驚愕の新事実。紅 紅はすでにこの世を去っていた。

 ……いや、まあ。俺は何度も死んでるようなもんだけどな。記憶あるし、徐々に思い出してるし、過去の世界全て死んでるし。


「さて、冗談はこの辺にして」


「で、どういう用件だ」


「……なんか、兄妹漫才が始まると、僕と焔は間に挟まれないね」


「置いてけぼり、反対」


 あ、忘れてた。


「えーとね。ハノがさ他の女と親しそうにしてたからちょっと殺りに行こうかなって」


「ほぉ。葉乃矢のことハノって呼んでんのか」


「うん!」


「こんなに蒼に愛されてるのに他の女に色目使うとかありえねえな。しょうがねえ、いっちょお兄ちゃんも葉乃矢を殺るのに力を貸してやるよ」


「ありがとうお兄ちゃん!」


「……会話の内容がおかしいと感じずにはいられない」


「私、どうして紅を好きになったんだろう」


「というか、昨日あんなことあっても、やっぱり紅は紅だね……」


「これ、止まるのかしら」


 さてと。


「何処に行くの紅」


「ちょっとチェンソーを買いに」


「どうして!?」


「大丈夫だ。証拠は残さねえよ」


「お兄ちゃん!」


「あ、蒼ちゃん。やっぱり止めて」


「チェンソーは大きく重い。取り扱いに難しく、しかも人間相手には即死攻撃です。それではただの金の無駄です」


「……そうか。悪りぃ。どう惨たらしく殺るかばっか考えてた。だよな。やっぱ時代は暗殺だよな」


「いえ、誘拐のち調教です。前のハノは死に、newハノに生まれ変わるのです」


「最高じゃないか」


「最低だよ!!」


「どこまで話を盛り上げるつもり!? 冗談ならそろそろ止めよ!?」


『……え?』


『本気だった!?』


 ふう、まあこれ以上無駄に話しても無駄か。


「で、調教はどのように?」


「男と女ならやっぱり手足固定した上で私がハノの前でストリップ、でしょうか」


「ヤりたくてもヤれないストレス」


「溜まってきたところで焦らしながらマシュマロのように柔らかく甘い経験をさせます。もちろんイかせやしません」


「なるほど。あとは時間の問題か。なら俺は時間を稼げばいいな? 一週間でいいか」


「はい。余裕です」


『ダメだこの兄妹。早くなんとかしないと……』


『いやいや冗談だから(ですから)』


『もういやああああああああああああああああああ!!!』


 あ、壊れた。まあすぐ復帰するだろう。二人とも成長してんだから。


「紅、なんか性格悪くなった?」


「うぅ、紅がここまでするとは」


「いやいや。どうせ夏祭りだろ」


「あ、はい」


「……ああ、なるほど」


「最初からそう言いなよ!!」


「ついでにハノとはすでに話をつけてますよ?」


「まあ、蒼なら当たり前だな」


「ほほう、お兄ちゃんも成長しましたね」


「今を見るようにしたからな」


「最後の会話だけ見るとまともなのにね」


「最初の方を見るとゲスなんだよね」


 まあ、パラシュートまでは予測出来なかったけどな。


 ・・・

 ・・

 ・


 夜。


「お待たせハノ」


「お、おう」


 蒼は見事に浴衣を着こなす。

 名前通り、蒼い浴衣で、金魚の絵が書かれている。

 身内贔屓無しにしても可愛い。


「じゃ、行きましょうか」


「ああ、そうだな。……その、浴衣似合ってる」


「本当ですか?」


「ああ。すっげえ可愛い」


「………………」


 くそがくそがくそがあああああ!

 蒼も顔を赤らめやがってえええ!

 怨怨怨怨怨


「僕たちは護衛でしょ!」


「あだっ!?」


 そ、そうだった。

 蒼と葉乃矢。二人はぶっちゃけそこまで強そうには見えない。不良に絡まれる可能性がある。

 そうそう絡まれる事は無い、と思いつつも蒼も俺の妹。なかなかにトラブルに巻き込まれやすい。

 ということで、俺の風紀委員特権だ。不良共を一掃する(九陰先輩含む他風紀委員も夏祭りでは毎年事件が起こるらしく総動員だ)。

 そして焔はお留守番だ。


「おい、あの女良さそうじゃね?」


「よし、行くか」


 ターゲット発見。サーチアンドデストロイ。


「んじゃあ俺がちょっと」


「ちょいとお兄さん。俺と話をしようぜ?」


「んあ? 誰だよお前」


「風紀委員」


『っ!!』


 脱兎のごとく逃げる不良を捕縛、そして八つ当たり。


「最後の八つ当たりいらないよね」


「言うな、晶」


 この後も、ひたすらに俺はゴミ処分を続けていた。


 ・・・

 ・・

 ・


「疲れたー」


「まさか十組も捕まえるとは」


 俺もここまでとは想定外だ。

 こんなバカな事をするのが十人以上もいるとか、信じたくなかった。


「でも、これで蒼も……」


「きゃあ!」


「蒼!!」


 しまった! 最後の最後で!


「ちょっと! 離してください!」


「いいじゃねえか。俺と来いよげひゃひゃ」


「っ!」


 くそ! 蒼はどんなに強くとも人の子! 浴衣じゃ動きにくいはずだ!


「あの野郎……今すぐぶちのめして」


「紅待って! あれ!」


「ああ?」


 バキッ、と打撃音。

 蒼たちの方を見ると、葉乃矢が不良の手を掴み蒼から離していた。


「何やってんだ……」


「ああ? 誰だお前」


「何やってんだって、聞いてんだ!!」


 葉乃矢が本気で怒った瞬間だった。


「紅、行こう」


「……ああ」


 あの後、殴り合いに発展したそうだった。

 だが、まあ心配はいらねえだろ。他の風紀委員も時期に来るだろうし、何より、葉乃矢がいるしな。


 ・・・

 ・・

 ・


「蒼。何やってんだ?」


「影の功労者にメールかな」


「そうか。家族思いだな」


「違うよ。私はただ、お兄ちゃんが大好きなだけだもん」


「そうか」


「勿論、ハノもだよ」


「お、おう」


「ふふっ」




 宛先:大好きなお兄ちゃん


 件名:RE:

 今日はありがとう。世界一大好きなお兄ちゃん♪













「キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


『紅うるさい!』

紅がシスコンになっていく…….。何がどうしてこうなった。

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