13.死んでたまるか!
今回は暴力シーンがあります。
結構派手にやっています。
「不幸を見事に呼び寄せましたね」
「…うるせー」
何かいろいろ残念だ。何が残念かって?とりあえずあれだ。そんな頻繁には出ない魔獣が昨日出て今日も出る、どう考えても俺が呼び寄せたとしか考えられない。考えたくないけどな!
「とにかく契約執行しますよ」
「また長ったらしい詠唱か?」
「いえ。本契約は既に完了してますので短縮契約で済ませることが可能です。お望みとあらば本契約で行いますが?」
「短縮契約で頼む」
今は緊急時。あんな長ったらしいのなんかやってられるか!
「いきます」
パズズがそう言うと、魔法陣が足元に出る。
「我が契約者・紅紅に大いなる風の加護を与えよ!」
魔法陣の輝きが強くなり、俺の服装も変わっていく。
真紅のロングコートにその上からベルト。黒のズボンに漆黒のグリーブ。そして腕全体を覆うナックル。
「よし!今回も頼むぜパズズ!」
『あなたも死なないでくださいね』
俺は風風を体に纏わせる。
・・・
・・
・
ゴォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
「…パズズ?」
『はい』
「あれが魔獣の群れか?」
『それ以外に何に見えますか』
普通ならきっと、『いいえ、何にも』的な感じで前の自分のセリフを上書きするのだろう。だが、今は状況が違う。
そう、あれは
「黒い、海だな」
現在俺はビルの上。地上を見ると異常な数の魔獣が蠢き、見事に黒い海を作り出していた。
『いつまでもビビってないで行きましょう』
「和也を待つのは?」
『却下です』
「だが」
『契約解除して無理矢理落としてあげましょうか?』
「行ってやらあああーーーーー!」
行くぜ!I can フラー…て、待て!
「お前が見殺しにするような真似できるかああああーーーーーーーーー!!!」
『もう遅いですよ』
勢い余ってダイブしちゃったよ!くそ!こうなったら…
「行くぜ。…突風の一撃!」
右手に集中させた風を自分の落下する先に叩きつける。大量の風の奔流が魔獣を潰し、切り裂き、抉り、飛ばし、千切り、殺していく。
ブオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
「…っ!」
魔獣の叫び!?スピーカーを大音量で耳元で聞かされたみたいだ…!う…せえ!
『後ろです!』
「チッ!」
俺は咄嗟に回し蹴りで蹴り飛ばす。
『来ますよ!』
「!!」
前の奴はパンチしたら拳が貫通し血が飛び散る。左右から来た奴らの攻撃をしゃがんで回避する。四方八方から来る奴らを風で吹き飛ばす。
「多すぎだろ!」
『流石に一人は難しいですね。ですが被害が出る前に食い止めなければいけないのも事実』
「…ぐっ」
キツい。殴り、蹴り、吹き飛ばす。きんな単純作業でも俺には厳しい。
『範囲系の攻撃覚えた方が良さそうですね』
「それは次の…課題だ、な!」
俺の拳がまたも魔獣の体を捉える。狙いは比較的柔らかい喉!
「らあ!」
貫いた!魔獣をまた一頭仕留める。
「まだだ!」
魔獣の体を貫通した手を思い切り抜き、その勢いで後ろからくる奴に裏拳をかます。
「ハア、ハア」
『バテてる暇はありませんよ』
「…わかってるよ!」
態度が変わらないパズズの図太さに半ば呆れながら俺は魔獣の群れへと突っ込んだ。
絶対に生き残る!
和也side
「…フッ」
ズシャ
俺は現在、魔獣と紅の気配があるところに急いでいる。だが、他のやつならたいして急がないだろう。紅のいるところには大量の魔獣がいる。その中から人間一人探せというのはどんなに気配察知ができても難しいだろう。
だが、俺の気配察知は強力だ。その気になれば日本全域、いや世界中の気配を探れる。そのため、俺と紅の間の距離は俺の気配察知にしてみれば目の前にいるも同然だ。
魔獣の群れから離れ独断行動をとってる魔獣を片付けながら紅の所へと向かう。
「お兄ちゃん!」
「輝雪か」
輝雪が合流した。その姿は私服のままだ。
「…既に戦闘モードね」
「当たり前だ」
俺の姿は至ってシンプル。漆黒のローブに手には鎖鎌。死神を連想させる姿だ。これはコクとの契約を執行した俺の戦闘時の格好だ。
「私はそこら辺の単独行動してる奴殺ってるわ。紅くんはよろしくね」
「お前も、これ終わったら片付けを再開しろよ」
「はーい。…じゃなくて!これ!」
「…ああ。これか」
手渡されたのは黒い筒状の缶だった。
「それじゃ、紅くんよろしくね」
「ああ」
輝雪が離れていく。
「さて。俺も」
ガアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
「……………」
シャーーーーーーーーー
鎖鎌の鎖が襲いかかって来た魔獣を絡めとり、巻きつき、圧縮する。魔獣の姿は鎖によって見えない。俺は鎖に送る力を多くする。魔獣の形はいつしか楕円形で、元の体積を考えると随分小さくなっている。力は緩めず、そして
ブシャアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
鎖の隙間から血が吹き出る。魔獣が潰れたのだろう。だが、今はそんなことどうでもいい。
「行くか」
俺はその場から離れ、魔獣の群れへと向かった。
紅side
殴る。蹴る。それが俺の攻撃方法。
後々、風がもっと上手く使えるようになればもっと増えるかもしれないが、今は関係無い。
狙いは喉だ。魔“獣”と言うだけあって、体構造に違いは無い。
喉を貫き、風で千切る。首を飛ばせばまず死なない奴はいない。
俺はパズズのサポートももらいながらひたすらに殴り、蹴り続ける。
だが、
『レーザー二時の方向!来ます!』
「チッ!」
魔獣はこういう技も使うようになってきた。流石にキツい。・・・範囲系の技、絶対作ってやる!
とにかく、俺は必死に横へ飛ぶ。
ドガアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
「いちいち威力大き過ぎだろ!?」
何度ツッコンだかわからないが、とにかく叫ぶ。じゃなきゃやってられるか!
『後ろ!』
「!?」
飛んですぐ後ろからの追撃が入る。俺の集中力はもはや尽きかけていた。咄嗟の反応が遅れる。
ヤバイ!
ドゴオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
「か…は…!」
魔獣の体当たりが俺を捉える。俺はビルを貫通し吹き飛び、二つ目のビルで止まる。
「……ぐ」
『紅!大丈夫ですか!?紅!』
ああ、大丈夫だ。頭が痛くてクラクラして、吐き気もあって頭からなんか暖かい液体が流れて、身体中に力が入らなくて腕が変な方向に曲がっているが、大丈夫だ。
『大丈夫じゃ無いです!』
「…一度、立て…直す」
俺はゆっくりと立ち上がる。だが、目の前には絶望に突き落とすような状況が見えた。
魔獣がレーザーの撃つ準備をしていた。
俺に向けて。
「!?」
『紅!』
ダメだ。体が重い。イメージができねえ。
………クソ。
無様だな。あんだけ息巻いて、結局この様か。
…生きてやる。
生きて、魔獣を倒して、俺は、俺の平和を…
魔獣が、レーザーを放った。
『ダメえええーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
パズズが武具モードから人間モードになり俺の前に立つ。
…ダメだ。
パズズはもう俺の“日常”だ。平和な日常を守るために俺が戦ってんだ。ここで、ここでパズズを殺していいわけねえ!
「う…ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
届け!
間に合え!
俺は必死に手を伸ばし、そして
ドガアアアアアアアアアアアアン!!!!
無慈悲にも、レーザーは着弾した。




