135.世界の秘密
「第一回・秘密大暴露 〜世界の秘密を教えちゃうぞ〜 スペシャルー! いえー!」
『いえー』
……なに? このノリ。
えーと、整理だ。
とても真面目な顔したルナに秘密話すから来いって言われて、ルナの部屋に行って、輝雪がお菓子持ってきて、和也が飲み物持ってきて、九陰先輩がお菓子を食べにきて、そしたらルナがシリアスを捨て始めて……。
猫たちは日向ぼっこをし始めるし、こんな状態で大丈夫か?
「大丈夫だ。問題ない」
「和也。少し黙れ」
ネタぶっこむな。
「使える状況では使いたくなるからな」
「ああ、まあわかる」
笑えば(ry)とか、目が、目(ry)とか、あ、ありのまま起こった事を(ry)とか、使えそうだったら使いたいよな。
「そこ! 私語は慎む!」
「だが断る」
ふっ、言えた。
「殴りたい、その笑顔」
「がはっ!?」
おい! 今結構本気だったろ!?
「何しやがる!」
「ネタをぶっこんでみた」
「いいぜ。表に来いよ。男女平等パンチくらわしてやるよ」
「紅くん如き、生身でも勝てるわ。……叫べばね!」
「卑怯だぞてめえ!」
「いや、それ以前の問題なんだか」
『………………」
「おいそこ。黙々と菓子ばかり食べるな」
俺とルナが睨み合う外で和也が苦労している気配がする。
「てめえ、いつまでも勝ってられると思うなよ」
「あらごめんね〜? 怒っちゃった? 怒っちゃった?」
「……殴ってやろうか」
「当てれないくせに」
「ポッキー美味しい」
「ポッキーゲームしましょうよ」
「は、恥ずかしい」
「私色に染めてあ・げ・る」
「お前ら少し黙れ」
『はい!』
この場を支配したのは絶対的な恐怖だった。
空間に染み渡る濃密な殺気は、這い上がってくるように体を支配し、脳の中に無理矢理に認識させた。
『これ以上騒いだら、殺す』
と。
実際はしないとわかっていても、頭の中のセーフティが、和也に従えと強制的に命令を下すのだ。恐ろしい。
気配を出すも消すも自由な和也だからこそ出来る技だ。素でかなりチートだな、こいつ。わかってたけど。
「さっさと世界の秘密を教えたらどうだ」
「うぅ、そうだね。じゃあ、紅。よ〜〜〜〜く聞いてね。一回しか言わないから」
「おう。どんと来いよ」
「この世界の秘密っていうのはね……」
場に緊張の糸が張る。
世界の秘密……ついに明らかに。
「この世界は、実は繰り返されているのよー!」
「な、なんだってー!?」
……。
…………。
………………。
……………………。
「で?」
「終わり」
…………………………。
「終わりかよ!?」
「終わりよ!」
「逆ギレすんな!」
一言。
かなり凄いことではあるが、秘密だ。期待し先延ばしされてた分、がっかり感が凄い。
というか、この中では俺だけが知らない事実なので、騒いでるのが俺だけだよ凄く恥ずかしい。
「で、繰り返されているってどういうことだ」
「あ、急に戻るんだ。まあ、実際大したことなのよ」
「大したことなのか」
「大したことなのよ。実行犯はマキナ・チャーチで崇められている存在。デウス・エクス・マキナ。そいつを倒せば全て終わる……!」
「っ」
一瞬。
ルナの体から強烈なプレッシャーが出る。言葉を失うぐらいに。
「で、でもよ。繰り返されているんだろ? 未来なんか、変えれるのか?」
決定されてるんじゃねえのか?
「紅くん。パラレルワールドって知ってる?」
「は?」
「つまりはifの世界よ。たった一人が選択を変えるだけで、この世界は大きく動くわ」
「それがどうしたよ」
「わからないの? “記憶を保持した人間が、前回とは違う行動を取ったらどうなるか”。この意味はわかる?」
「…………あ」
そっか。ルナは前回の世界の記憶を、いや、それより更に以前の記憶までも保持している。だから、新しい選択肢を唯一、意識して選べるわけだ。
「じゃあ、そのデウス……長いからマキナでいいや。マキナを倒す未来になるまで、この世界を繰り返すってことか?」
「……ええ。そうね」
「それって、確実に勝てるじゃねえか!」
何のためにやったかは知らねえが、マキナって奴もバカだな。わざわざこちらの勝ちを確定させてくれるなんて。
……しかし、ルナの顔は浮かない。
「ルナ。どうし」
「紅。今は」
「和也?」
和也に肩を掴まれ、静止させられる。
輝雪も、九陰先輩も、全員が顔を俯かせる。
どういうことだ?
「あ、そうだ。紅のことだから、どうせ私だけが特別みたいに思ってるんでしょうけど、紅もだからね?」
その声音は、何とも空元気、と言えたものだった。そのおかげで、反応が遅れてしまった。
……また、俺だけ気付いてないのか。
「お、俺?」
「紅くんに覚えはない? 不意に変なイメージが、頭の中に浮かんでくること」
「……ある」
「紅も、私と同じ前回以降の記憶を引き継げる者よ」
「……はぁ!?」
「私ほどはっきりはしてないけどね。だから、紅も私と同じように未来を自由自在だよ!」
「いらなっ!? あ、もしかして俺が変な異名付けられて命狙われている理由って……」
「それのせいだね!」
「マイガッ!」
な、何ということだ。この記憶のせいで、狙われている?
「いらねええええええええええええええええ!!!」
この記憶に救われた事もあるが、そんな事も忘れて今だけは切実に、ただこんな記憶はいらないと思った。
*
「いいのかい? あのこと話さなくて」
「カグヤ。……いいのよ、別に。話さなくてもいい情報なんてあっても、紅が悩むだけだから」
「……そうか」
“私の死は決定している”。
マキナのせいだ。あいつにわたしの時間を根刮ぎ取られた。
しかし、言うことはできない。紅が、きっと全力で止めにくる。それに巻き込まれて、紅は何度も死んでしまった。
もう、巻き込まない。
「これは全部、私が引き受けることだから」
皆は私が守るんだ。




