131.チョロい
『………………』
「とりあえず、逃走に成功したから命令してもいいんだよなー?」
あの後、急遽始まった鬼ごっこという名の狩り。
捕まった人は鬼から命令を、捕まえられなかった場合は鬼に命令をだせるというルールだった。
俺を狩るのに全力を注いだ輝雪とルナ。しかし、どうやらそれは一つの作戦だったらしい。
俺を守るために動くであろう女性陣を捕縛しやすくするための罠、ということだった。
事実、何人かは捕まった。
「く、屈辱です」
蒼。お前は真っ先に俺を獲りにきたよな? 後で覚えとけよ。
「普通に逃げてて捕まるとはこれいかに……」
焔。完全に体力不足だ。
「……くっ」
九陰先輩。あんたこん中で一番速いだろうに……。
「いったい……なにがどうしてこうなった……」
音音。多分、お前が一番の被害者。
結局、生き残ったのは俺、和也、晶という男性陣だった。
……見事に男性陣だけだな。
「皆さん楽しそうですね〜」
相変わらず呑気……というか、この状況を楽しんでいる舞さん。
……最近わかったけど、ふわふわしたノリに勘違いしがちだけど、舞さんって結構……あれだ、まあ、そこまで優しい性格ではないよな。
「ま、ともかく俺たちからの命令、計三つをお前ら二人にこなしてもらうべきなんだが」
「とりあえず僕から。えーっと、捕まった人たちへの命令は禁止ね」
『なっ…………!!』
二人は絶句した。
まあ、だろうな。せっかく四人も、しかも普段はにらりくらり躱してしまいそうな蒼にも命令できるのだ。そのチャンスをみすみす潰されたとあっちゃあ、まあ残念なのはわかる。
……この二人の死角から、焔がこちらに向けて満面の笑みと親指さえ立ててなければ。これは焔の入れ知恵か。
さーて、俺からはどんな命令といこうか。
「だ、ダメよ紅くん! いくらなんでもメイド姿で紅くんの下半身のお世話なんて!!」
「そんで何でお前は下ネタに走るんだよ!? ……おい、そっちの捕縛された女性陣。やめろ、その蔑んだ目で俺を見るな。俺が言ったわけじない!!」
くっ、こんな目で見られても背筋が寒くなるだけだ。
「興奮して?」
「なんで興奮して背筋が寒くなるんだよ!! 恐怖でだ恐怖で! おい蒼、お前そっから一歩も動くな」
「チッ」
「お前は本当に俺が好きなの? 一時期は兄芋間での禁断の愛に走ろうとしてたよね? 兄を信じるという選択肢は無いのか?」
そして、今自然な流れでスルーしちまったけど、輝雪、今俺の考えを読み取ったよな?
「あーもう、さっさと決めよ」
「デッドorアライブ」
「死か生か!?」
いつの間にそんな物騒な内容になった。
「おいこら。ルナ、俺でも怒る時はあるぞ」
「きゃー! 紅くんにヤられるー! あの日みたいに強引にー!」
「おい待て! いつそんなことした! ……おい、やめろよ。晶と和也は何で一歩距離を取るんだ。捕縛組は何を一斉に構えてんだよ。おいゆき……じゃなくてルナ。さっさと嘘って言ってくれよ」
「そうね。この世界じゃやられてないわ」
まるでこの世界じゃない時にはヤられたかのように、こいつは言った。
……深く考えないようにしとこ。
「紅×和……ありですね」
考えたら負けだ。
「……もういいや。ルナは輝雪の料理を食っとけ。輝雪はルナと仲良くなるチャンスをやってくれ」
ここで変なお題を出そうものならすぐに変態扱いされるだろう。……くっ、輝雪とルナにはケモミミ付けてもらいたかった。
『ええぇ!?』
なぜこんなにも良心的な内容にしてやって驚かれるんだろう。
「輝雪ちゃんの料理って、死んじゃうじゃない!!」
「なんで監視対象と友達にならなきゃいけないのよ!」
『ふざけてんじゃないの!?』
「そ、そうか」
正直、ここまで拒絶されるとは思ってなかった。輝雪の料理はともかく。
……あ、晶と焔が顔を真っ青にしてる。すでにトラウマか。蒼は目が死んでる。意識が飛んでるな、あれは。
「まあ命令だから」
拒絶? 好都合だ。無理矢理やらせてやるぜ。
「うぅ……」
「次はお兄ちゃんか……」
和也ならそう酷い事も言わないだろう。多分な。
「月島は視覚と聴覚を無くした上達で一日を過ごしてもらう」
『っ!!?』
意外とエグい内容だった。
「ね、ねえ和也くん。私、君に何かしたかな?」
恐る恐る、という感じで聞くルナ。流石に予想の斜め上だったのだろう。
「前に殺されかけたからな」
後悔。
後で悔やむ。
ルナは自分の行動を今ほど後悔したことは無かっただろう。
「輝雪は紅とデートな」
『っ!!?』
妹に甘いな!?
そして何故に俺が巻き込まれる!?
「お兄ちゃん大好き!」
「約束だからな」
それで大半は「ああ……」みたいな雰囲気になったけど、俺が全くわからない!!
「約束ってなんだよ!?」
「魔狩りで頑張ったら紅とイチャイチャしていいぞ、と」
「勝手に俺を賞品にするなよ!!」
「輝雪は頼んだ」
「俺の意思を尊重しろ!!」
「知ってるか? 人間って理不尽な生き物なんだぞ」
「本当にな!!」
「私もそれはおかしいと思います!」
「そうだそうだ!」
「おかしい」
ここで捕縛組からの援護射撃! 助かったぜお前ら!
「まだ赤飯の用意が出来てません!」
「そうだそう……ええ!?」
「こんなところに伏兵……」
なんだかあっちで俺の人権を無視した裏切りが発生してるっぽい。
「なんで蒼ちゃん!」
「まあ、輝雪ならいいかなと」
「………………」
「やめてください九陰さん。私の欠片ほども残ってない良心が痛みます」
「それって痛んでないよね!?」
「なぜ輝雪……?」
「だってほら、九陰さんって……彼女より妹っぽくないですか?」
「……照れる」
なんか九陰先輩が引き込まれた!?
「私は!?」
「……知ってます? 主人公の幼馴染ポジションって、実は一番主人公の彼女になれないポジションなんですよ? ……まあ、どっかで聞いた情報ですが」
「どっかで聞いただけの確証もない情報だけで否定された!?」
「あとあれです。私、あなたの事が大嫌いなんですよ泥棒猫」
「凄くいい笑顔で言われた!?」
……ダメだ。援護は期待できねえ。
すると、袖をくいくいと引っ張られる。
向くと、輝雪がいた。
「……ダメ?」
「しゃーねーなー」
『弱っ』
しょうがないじゃん! これでも輝雪、容姿はかなりいいんだから! 上目遣いでお願いされたら断るわけにはいかねーじゃん!
「……紅。お前、初期よりチョロくなってないか?」
それを言われて、咄嗟に反論出来ない自分をぶん殴りたかった。




