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124.No.1の実力

「割けなさい」


「んな!?」


 戦闘は圧倒的だった。

 空間が割れ、乱れ、見るも無残な光景が目の前に広がる。


「くっそ! 遊んでんじゃねえぞババア!」


「あら。なら、これは受けれますかね?」


「っ!!」


「あっ!」


 一瞬だった。

 その一瞬で、相手の右腕は“飛んだ”。


「つまらない……幕引きにしましょうか」


「て、てめええええええええええええええええ!!!」


「降りろ。次元幕(ディメンション・カーテン)


 オーロラのように輝く幕が降りると同時に、空間が大幅に削れる。いや、抉れる。


「……すごい」


 一切の攻撃を受け付けず、完全勝利(パーフェクト・ゲーム)。さらに、あの空間を割るような攻撃。見た感じ、広範囲攻撃でもなさそうだ。

 断面を見ると恐ろしい事になってるが、横を見ると殆どわからない。薄い刃のようなもの。

 しかもだ。これはどうやら自動(オート)ではなく手動(マニュアル)。高度な空間認識能力が必要だ。少しずれれば、その薄さからして擦りもしないだろう。

 その攻撃で、だ。この、東雲舞という女は、あの明らかに上位の存在であろうマキナ・チャーチの一人を倒したのだ。


「慣れとか、そんなレベルじゃない」


 昔から人外とか化け物とか言われ慣れてるけど、流石にこの勝負は、というか舞さんは圧倒的過ぎる。

 まさに、最強。


「うーん。しくじりましたかね。これは。久しぶりの戦闘で遊びすぎちゃいました」


「え?」


「そこにいるのでしょう? 時乃(トキノ) 廻間(ハザマ)さん?」


「見破られていたか」


 っ!

 急に背後から現れた気配に一気に警戒を強める。

 それなりに戦闘技術は高めていたつもりだったが、まさか気配を感じ取れないなんて。こんなの、木崎和也以来。

 後ろを向くと、ぞこには西洋風の銀色の軽鎧を付けた人物がいた。輝雪が黒騎士なら、こっちは白騎士かしら。


「君が本気になる前に回収できてよかった。我はお前に負けない程度には実力はあると思うが、だからと言って楽々勝てる相手とも思ってないからな」


「あら、その言い方ですと長期戦になれば自分が勝てると思ってるように聞こえますが?」


「そう聞こえたなお前が我には勝てないと思っているところからくる被害妄想だろう」


「吠えているだけの獣に何も言われたくない」


「牙も爪も折れてるような獣に凄まれてもね」


「折れているかどうか、試してみますか?」


「吠えてるだけだと思うなよ。我も怒る時は怒るぞ」


「………………」


「………………」


 表面上はただ普通に嫌味を言い合うライバルに聞こえますけど、実際はそうでは無い、いや、その程度で済んでない事を紅蒼が伝えます。

 殺気ビンビンで一般人ならいるだけで卒倒しそうなレベル。

 話すたびに巨大な力の余波か、地にヒビが入ります。

 さらに二人とも構えが一見ただ立ってるように見えて、隙あらば必殺の一撃を狙う状況です。

 はっきり言って、敵に狙われてしまうほどの自分の有能さが今は凄く憎い。


「……やめておきましょう。互いに、ハンデを守りながらは厳しいでしょう」


 ハンデとは私と先ほど右腕を切断された火の人ですね。はい。

 ……私がいなかったら問答無用で襲うんですね。いや、襲うじゃありませんでした。殺るんでした。


「そうだな。なら、ここは好意に甘えて退散させてもらおう」


「好意? 何を言ってるんですか?」


 その瞬間、東雲舞の右腕が閃いた。


「っ!!」


 音もなく、先ほどまで廻間、という人がいた場所に穴があいた。

 ……空間に、穴が。


「うそ……」


 しかも、ただの穴ではない。強いて言うなら、平面から立体。二次元から三次元。先ほどまでの恐ろしく薄い、というか、厚さがあるのかさえ疑わしい空間の断面とは違う、“広い攻撃範囲の空間破壊攻撃”。


「慈悲です。私としても、少々整理したい事があるので、その整理出来るまでの時間をあなたにあげた。それだけです」


「……そうだな。先ほどの、牙も爪も折れてるような獣、というのは撤回しよう」


「……うわぁ」


 ホントに意味がわからないです。

 いつの間にか目測で六十度ほど円運動をしている時乃 廻間に対して空いた口が塞がらないです。

 廻間は、後ろを向き(当然、隙は見せません)、一言。


「さらばだ、隠した爪を出した獣よ。こちらも、ただ吠えるではなく、咆哮にレベルを上げておこう」


「次は殺し合い、ですかね」


「死ぬのはお前だがな」


 そう言って、去った……いや、“消えた”。まるで、最初からそこにはいなかったかのように。


「な、何だったんですか」


「まあ、宿敵と言いますか〜」


 口調も間の抜けた語尾の伸びた口調に戻っていた。オンとオフの入れ替わりが少し激しい。

 だが、一つ気になった事があったので、まずそれを聞くことにする。


「……マキナ・チャーチ、なんですか」


「………………」


 援軍に来た、ということはマキナ・チャーチ。

 しかし、マキナ・チャーチの存在が知られたのはごく最近。なのに、二人の口ぶりから察するに、それなりに長い付き合いなのだろう。

 長い付き合いなのに、何故かごく最近その存在が知れたマキナ・チャーチの人物を助けた。

 少し引っかかりを覚える状況だ。


「……彼は〜、隣の領土のNo.1なんです〜」


「隣、ですか?」


「はい〜。たま〜に行われる互いの領土をかけた戦闘、領土戦では〜、私は彼と〜、彼は私といつも戦っていました〜」


「じゃあ、彼はマキナ・チャーチでは、無い?」


「……いえ〜、それ以上に厄介な人物かもしれませ〜ん」


 全然危機感の感じられない喋り方だが、顔は険しいまま。

 隣の領土のNo.1であり、マキナ・チャーチを助ける人物。

 たしかに、この状況が“そのままの意味を表すなら”。


「……凄く大変じゃないですか」


「……近々〜、もう一度戦うことになるかもしれませ〜ん。……多分〜……すぐに」


 それは、確信に似た言葉だった。

 思わず、息を飲んでしまう。


「……このあと、どうするんですか」


「そうですね〜」


 東雲舞はぐるっと空間を見回して、一言。


「とりあえず〜、世界が崩れそうなので割れた空間の修復〜、ですかね〜」


「サラッと世界規模!?」


 どんなに最強だが最凶だが、有能すぎるとか言われても、私はきっとこの人以上の事は出来ない。

 そう悟った紅蒼。十五回目の夏だった。

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