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123.落ちてきて

「…………あ」


 ふと気付いた。

 ……何で私、蒼ちゃんから離れてるの?

 たしかに、今まで蒼ちゃんから遊びに誘われたことはあったけど、護衛の任があるから一定距離は離れないようにしてたのに。


「……まあ、戻ればいいか」


 変態や和也さんたちが来たからきっとど忘れしたんだ。やっぱり慣れない事はしないに限るね。

 来た道を通ろうとすると二つの影が目の前を塞ぐ。私は思わず身構える。


「やっほお姉さん」


「こんにちはお姉さん」


「あ、……えーと」


 金髪でサラサラした髪に青い目。外国の子だろうか? その割には日本語がペラペラだ。体格から見て小学生だろうか? 見た目はそっくりだから、多分双子かな。

 でも、どうしてこんな場所に? 観光名所どころか、名産品も何も無いのに。


「えーと、どうしたのかな?」


「えっとねー。迷子!」


「んっとねー。迷子!」


「迷子?」


「うん。そうなんだ」


「お父さんとお母さんのお父さんとお母さんに会いに来たの」


「でも退屈だから抜けてきちゃった」


「外で遊んでたら道がわかんなくなっちゃった」


「だから人に聞こうと思ったんだ」


「それでお姉さんに今会った」


「だから僕たちのお父さんとお母さんのお父さんとお母さんの家に案内してほしいの」


「お願いお姉さん」


「お姉さんお願い」


「あ、えーと」


 交互に紡がれるセリフは私を混乱させるに十分だった。

 なんか、目が回る子たちだな。

 でも、まあ大丈夫……かな?


「いいよ。君たちの家はどこ?」


「それはね」


「それはね」


 一歩。

 私は彼らに近付いた。

 一歩。

 彼らは“踏み切った”。


「っ!?」


 突如、突進してくる金髪の双子(?)。咄嗟に回避し、その手に握られてるものを見て驚愕する。


「ナイフ!?」


 銀色の凶悪な輝きを見せる刃。十分に人を殺せるだけの殺傷力を持った武器。

 それを、私に突き付けてきたのだ、この子たちは。


「あなたたち、何を」


「転移」


「しまっ」


 視界が光に包まれる。次、視界が回復した時には、すでにエルボスだった。


「ニーナ!」


「初登場がこんなところ!?」


 いいから言うこと聞きなさいっての! この緊急事態に!


「わかったわよ! 我が契約者、音音音音に大いなる氷の加護を与えよ!」


 契約執行した私はすぐに戦闘モードに意識を切り替える。


「あんたたち……マキナ・チャーチ!」


「そっ。僕はゲイル」


「僕はエレキ」


「嘘。僕がエレキ」


「僕がゲイル」


『さあ、どっちがどっちかな?』


「……ふざけてるの?」


『ふふ、正解は……返信のあとで!』


「っ!」


 私は銀の缶を投げ、ティンパニを叩く。

 その瞬間、銀の缶が炸裂する。

 氷の槍が双子(?)へと伸びる。


「遅いよ」


「ノロマだね」


 だが、それは防がれた。いや、“溶かされた”。


「ふふ、その程度?」


「はは、この程度」


「……雷」


 片方の手からは、雷が出ていた。

 雷の熱……。


「相性は最悪……」


「ふふ、お姉さん」


「はは、お姉さん」


『邪魔だから、死んで?』


 名前がそのまま能力。

 なら、雷と、もう片方は風。

 どちらも動きが速くなるタイプだろう。なら、ティンパニという大きな移動制限を抱えた私では、逃げきれない……!


「くっ!」


「バイバイお姉さん!」


「死んじゃえお姉さん!」


 これは、くらう!


「…………ぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」


 だが、私と二人の間に、何かが落ちる。

 ……“落ちる”?

 いや、待て待て待て。今、叫び声が聞こえたんだけど!?


『……ねえ、叫び声聞こえなかった?』


「気のせい……だといいなー」


 もくもくと視界を遮る砂煙。

 ……さっきの声、どこかで聞いた気が。


「あー、死ぬかと思った」


『ギリギリで間に合って良かったですね』


「ああ、本当にな」


『まあ、何はともあれ』


 瞬間。風は吹き乱れ、場を荒らす。


「戻ったあああああああああああああああ!!!」


 そこには、聞いたような声を張り上げる、見たこともない不良顔の男性がいた。

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