122.スロー
「じゃあ! もう蒼は襲われてるのか!?」
「そうよ。だけど大丈夫。すでに一人向かってるから」
「一人って」
「舞さんよ」
舞さん。そう聞いても俺の不安は消えない。
俺は舞さんの戦闘を知らない。だから信用しようにも出来ない。
というか、冷華さんがこっちに来てる事でさえ、俺は衝撃でしかない。
「大丈夫だ、紅」
「和也」
「舞さんは、強いぞ」
……ほんと、単純っていうか、和也は断言するから信じれる。いや、和也が断言するから信じれる、か。
「……わかった。なら任せる。問題は音音か」
今初めてあいつのこと呼んだ気がするけど、今はどうでもいい。
「場所は俺がわかる。問題は、護衛対象が三人いるってことだ」
「ああ、俺と晶と焔か」
「……違う」
「は? 何が違うんだ?」
「……護衛対象は氷野、火渡、月島だ」
「……なんで?」
「あはは。ごめん、無理しちゃった」
「……月島雪音の力は夜になればなるほど強い。……だが、今の時間はほぼ朝。……転移にかなりの力を使っている」
「っ!」
しまった。それじゃ雪音は戦力になれない。
これじゃあ、護衛対象は三人どころか四人……あれ? じゃあ何で三人って。
「ははぁ、読めてきたわ」
「輝雪は何かわかったのか?」
「あなたよ紅くん。音音ちゃんを助けるのは」
「……はぁ?」
こいつは何を言ってんだ?
「急げ。魔獣がいつ出るかもわからんぞ」
「はぁ!? 魔獣!? 数日前倒したばっかだぞ!?」
「紅。よく聞け。魔獣は最近になって活発化してきた。俺たち魔狩りは同時期に確認されたマキナ・チャーチ。こいつらが魔獣を何らかの方法でこちらにし向けていると考えている」
「和也。何言って」
「常に最悪の状況を考えろ。そして、それを防ぐ方法もだ。今はお前とパズズが音音音音を助けに行く。これが最善だ」
「で、でも俺は今、契約できねえんだぞ?」
「大丈夫」
そこに割って入ったのはルナだった。
「紅。行って」
「……お前」
俺は、こいつから本当の意味でこの世界の秘密を知らない。予感はあるが。
だから、何故ここまで断言できるのか、少し不思議だった。半信半疑、と言ったところだ。
だが、ルナの目を見たら、そんな不安も消えた。
「紅! かっ飛ばしてきちゃって!」
「頑張って主人公」
「焔と晶まで……。主人公じゃねえっつの」
でも、いつだってこいつらから元気もらってんだ。こういう時、心底心強い。
「紅くん。任せて。必ず守る」
「……行って来い」
「……ああ、はいはい。どうしても行かせる気なんだな。わかったよ。……パズズ!」
「はいはい。行くんでしょ?」
「おう」
和也から場所を聞き。パズズを肩に乗せ、さ、行くぞ。
「待った」
「うわっ!? ……九陰先輩。今から出るとこなんすけど」
「うん。“だから”待って」
「は?」
「投げる」
「……何を?」
「紅を」
そう言って、すでに契約状態の九陰先輩は言った。
『久しぶりにはっちゃけるぜー!』
「人力人間花火」
「いや、待て待て待て。九陰先輩!」
九陰先輩は有無を言わさぬ握力で俺の腕を掴み、回転し始める。
「ちょ、ちょっとっ!?」
三回転目で俺の足は遠心力で地を離れ、体はぶん回される。
「たーまやー」
『行っけええええええええええええええええ!!!』
「おおおおおおおおおおおい!?!?」
そのままハンマー投げの要領で、俺は思いっきり注を舞った。
「末代まで呪ってやらああああああああああああああぁぁぁぁぁ…………」
俺の叫び虚しく消えた。




