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120.別れてから

「忘れようとしたのに、というか忘れてたのに……」


「乙」


 うーん。輝雪は完全に気を落としてるな。どうしたもんか。


「和也。どうにかならんか」


「どうにもならん。引きずるしかあるまい」


「そうなるかー」


 面倒だな。本当に。

 いや、というか俺が引っ張るわけじゃ無いし大丈夫か。


「ということで紅。頼んだ」


「だが断る」


 俺が引っ張るわけじゃ無いし大丈夫か。


「………………」


「おい輝雪。無言で服の裾を掴むな。マジで」


「い、いいじゃない」


 頼むから離せ。今すぐ離せ。


「何で俺なんだよ」


「お、お兄ちゃんとは今その、顔を合わせづらいし」


「晶は」


「私は紅くんが一番安心するの!!」


 俺はお前が一番怖い。

 おい、いつこんなフラグ建てた。こいつちょっとあの夜から少し積極的すぎやしないか。

 頼むから少し距離を取ろうぜ。


「紅くんが一歩下がったら私は二歩下がって紅くんの胸に飛び込みわ」


「うん、やめろ」


 …………とりあえず結論は出た。

 このままじゃ埒が明かない、と。


「……わかったよ。さっさと行くぞ」


「はーい!」


「いいお返事ですね……おい、やめろ。腕組むな! 胸押し付けんな!!」


 誰か俺と立場代われ。


 ・・・

 ・・

 ・


「こんにちは、変態」


「よお、クソ後輩」


 そして埋まらない溝。

 しかし、俺はすでにこいつを敵認定している。容赦はしない。慈悲はない。


「男物の服を着てノーブラとか完全変態の行為ですよ」


「黒だから透けにくいしそもそも俺は元は男だ。いつ戻るとも知れんのに、んなもん付けてたら戻った時それこそ変態じゃねえか」


「あなたはいつまで自分を男だと思ってるんですか。アホですか」


「お前も、さっさと俺を魔狩り関係者だと認めやがれ」


「和也先輩。こいつすぐに排除すべきです。我々の秘密を知り、その上変態です」


「だからパズズっていうパートナーがいるだろうが」


「契約できないじゃないですか。どうせ用心棒か何かでしょう。心の底から同情します」


「お前こそなんちゃってインテリとなんちゃって吹奏楽部のくせにそのキャラ守るのに必死だな。せいぜい化けの皮剥がされないよう気をつけろよニセモノ」


「武器は自分では選べないのだからしょうがないです。過去には料理全く出来ない人がフライパンを武器に戦ってましたよ」


「フライパンは殴れるからいいだろうが」


「フライパンの使用方法を全く理解出来てないようですね」


「お前だって自分の武器……つーか楽器のこと知らねえだろ」


「先生に教わったので完璧です」


「どうせ某情報サイトだろ」


「ウィ◯ペディア先生をバカにしてはいけません」


「言ったな。はっきり言ったお前」


「はっきり言いましたよ、はい」


「………………」


「………………」


 音音音音(オトネネオン)

 蒼の監視兼護衛兼友人。

 そして俺の永遠の敵だ。


「どんだけ仲悪いのよ」


「というか玄関先で喧嘩しないでください。お兄ちゃんも、音音ちゃんも」


『チッ』


「そこは息が合うんですね……」


 くそ、何故こいつがここにいる。どうせ和也あたりの監視だろうがな。


「おーおー。美少女紅くんもここでおさらばか。お父さん寂しいぞ。さ、俺の胸に飛び込んでくわらば!?」


「もう、あなたったら〜」


『……うわぁ』


「お父さん、お母さん。珍しいですね」


「父さんも母さんもどうした。いつもならいないのに」


 俺と蒼は慣れたもんだが、周りはそうもいかんらしい。

 父さんは普段から暴走するため、母さんが“少し過剰に”止めるのだ。

 ほら、今だって父さんはぐったりし、頭にはモザイクがかかり、母さんの手には赤い液体が滴っている。


「ふふ、娘たちの新たな出発を見逃すわけないでしょ」


「私見送りですけど」


「あら、紅だって今は娘よ」


「おいおい。俺は男だって」


「なーにを言う!!紅はどっからどう見ても美少ごっ!?」


「おいクソ親父。次ふざけた事抜かしたらその頭踏み砕くぞ」


「ダメよ紅くん。喜んじゃうでしょ」


「ふっkー、美少女からの責め苦なら喜んで「ポキっとな♪」ぎゃあああああああああああ!!!」


 少し昔のアニメにあったようなノリで指を折りやがった。さすが母さん。容赦ねえ。


「いやいやお兄ちゃん。お兄ちゃんもお父さんの小指を踏みつけてるからね?」


 大丈夫だ、問題ない。相手はあの父さん多少のダメージは逆に喜ぶ変態(オトコ)だ。


「ふっ、さすが我が娘「おーらよ」息子だああああああ!! 痛い痛い痛い! 容赦ないのはいいけどせめて限界ギリギリを見極めてから」


「そらよ」


「ぎゃああああああああ!!」


「わー。だいじょうかとうさーん」


「史上稀に見る棒読みだよ紅くん!?」


「おいおい輝雪。p俺がただ情け容赦なく踏みつけてただけだと思うか?」


「思うから言ってんのよ!!」


 ふっ。この紅紅。見くびられたものだ。


「大丈夫だ」


「どこが!?」


「父さんを見てみな」


「……え?」


「この感覚……まさか紅。お前、すでに限界ギリギリを見極めていたのか!?」


「そうだ。やり過ぎると拷問にうるさい母さんからお仕置きされっからな。俺はもう昔の俺じゃない!!」


「い、いつのまにそんな技術を」


「母さんの教育の賜物さ」


「ふふ、紅。立派に育ったわね」


『なにこの家族。怖い』


 ほざけ。


 ・・・

 ・・

 ・


「そんじゃあな、蒼」


「また来るね」


「今度は泊まるからね!」


「世話になった。音音(オトネ)も頑張れよ」


「ばいばーい!」


「また」


「はい。お兄ちゃんも、皆さんも、お元気で」


「変態以外はお元気で」


「死ね」


「あんたがね」


 その後、またも罵倒の応酬が始まりかけたところで周りからの強制ストップが入り、俺たちは帰った。


「ふぅ、いろいろ大変だったな」


「そうねー」


「笑い事ではないぞ……」


「あの雌豚も相変わらず元気よねー」


「焔はそろそろその呼び方やめたら?」


「いいところだった」


 そんな感じで、電車内で思い出を語りながら楽しんでいんだ。

 何事もなく終わって、俺はホッとしていた。

 そして、油断していた。

 いや、これは油断とは少々違うかもしれない。何故なら俺たちは“知らなかった”のだから。


「それにしても、何もなくてよかったな」


「紅くんがいるから絶対大事件起こると思ってたのに」


「魔獣が出た」


「あの程度じゃねえ〜」


「みんな凄すぎだよ……ね、紅。……紅?」


「……ん? いやわり、聞いてなかった」


「どうしたの? 具合悪い?」


「いや、そういうわけでは」


 その時。

 電車がすれ違った。

 ガタンゴトンと大きな音を出しながら。

 そして、全ての視覚聴覚から得ていた情報が一変した。


「いだっ!」


「っ!」


「きゃっ!」


「っと」


「にゃあ!?」


「え!?」


 全員が“落ちる”。何故か“地面に落ちる”。


「どうなってんだ!!」


 すぐに周りの状況を確認する。

 ……いや、しなくてもわかった。ここは……


『エルボス!』


 全員の声が重なる。

 だが、一体何が


「みんな来て!!」


 リンとした声が空気を伝って鼓膜を震わす。

 この声は、


「雪「ルナって呼んでね」ルナ!」


 いちいち細けえな。

 というか、ルナだけではない。刀夜と冷華さんまで!?


「というか、これはどういう……」


「急いで!! 早く戻らなきゃ、二人が死ぬ!」


「いやいやちょっと待て! 理解が追いつかないんだけど」


 ……いや待て。二人? このタイミングで? ……まさか


「そんな時間はない!! 蒼ちゃんと音音(オトネ)ちゃんが殺されちゃう!!」


 ひなたぼっこをしてたかのように暖かい胸の内に入り込んだのは、冷たく殺意と狂気の混じった戦慄だった。

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