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119.兄妹愛

「朝だ!」


「夏だ!」


『海水浴だー!』


「帰る支度しとけよー」


 無駄にハイテンションな焔と輝雪を黙らせながら、俺は荷物……と言えるほど多くも無いが、まとめていく。


「こっちはOK」


「俺も完了だ」


「僕も」


「残りはお前ら二人だけだぞ。急げよ」


「どうしてそんなにあっさりしてるの!?」


「もうちょっと泊まろうよ!!」


 うるさいなーこいつら。

 というか海とか。


「もう少し泊まるにしても海は無いな。海は」


「無い」


「無いな」


「無いね」


「随分とあっさりしてるね!?」


「海に嫌な記憶でもあるの!?」


 嫌な記憶……嫌な記憶かー。


「何故か通報された」


「子連れ……妹扱い」


「逆ナンがな」


「男用の水着で行くと監視員に注意されるんだ……」


 ほんとね、何故だろうね。

 焔と蒼と一緒にいると何故か通報されんだよな。晶は言わずもがな。


「というか、九陰先輩はそういうの気にするんだな」


 あまり気にしない人だと思ってた。


「体格はいい。しょうがない。でも、勝手に妹認定されるのは嫌だ。後ろに並ばれたというだけで見知らぬ人と兄妹に間違わられた事もあった」


 あ、体格は気にしないんだ。

 ……焔といい九陰先輩といい。普通、幼児体系は気にするんじゃないか?


「紅におんぶしてもらえるもん」


「隠れる時とかにちょうどいい。小回りも効く」


「ああそうかい。あと勝手に人の心を読むな」


「読んでないよ。推察だよ」


「読んでない。勘」


「それで当てれる方がびっくりだよ!!」


 疲れるなー、こいつら。

 というか焔。おんぶはそろそろ恥ずかしいからやめてくれ……と言ってもやめないだろうな。


「とりあえず輝雪、火渡。荷物をまとめてきたらどうだ?」


「はいはいお兄ちゃん。ちぇ、紅くんの黒ビキニ見れると思ったのに」


「本当にね」


「おい。なんだそりゃ」


「まとめてきます!」


「きまーす! 晶も来て!」


「え!? 何で僕まで!?」


「おい!」


 くそっ、油断も隙もねえ。


「あ、兄者。いたいた」


「おい蒼。何だその兄者って」


「いやあ、流石にお姉ちゃんも飽きたし、お兄ちゃんだと輝雪と被るし、だから兄者」


「普通にしとけ普通に」


「お兄ちゃんと兄ちゃん。お、が抜けるだけで一気に大人しい系か活発系にわかれて不思議」


(あん)ちゃんと呼ばれるとワイルド系だな」


「兄だけだと説明口調に聞こえるな」


「呼び捨ては嫌われてるかも」


「あ、でも(あん)ちゃんってワイルド系というより子犬系じゃありません? 人懐っこいというか、お兄ちゃん大好きー、というか」


「輝雪は昔は無言で服の裾を握りながら俺のあとを何処にでも付いてくるような奴だったな」


「へぇー、輝雪が」


「意外」


「写真とか持ってないんですか?」


「流石にそんなのは持ってるわけが……あった」


『あったの!?』


「気付かぬ内に財布に入っていた。入れた覚えは無い……ん? 裏に何か書かれて」


「お、見せてみろよ。なになに?」


「おい、紅。勝手に見るな。普通俺が最初に見るだろう。えーっと、『私のこと忘れないでねお兄ちゃん』」


「いつのですか?」


「この財布は中学の時に買ったものでな……ああ、そういえば中三の修学旅行。あいつは風邪で行けなくて、親も仕事があったから輝雪は一人で家にいたな。その時かもな」


「去年の話か」


「精神的に不安になって、自分の事を修学旅行先でも思ってくれるように財布に写真を忍び込ませたんでしょうね」


「輝雪は一人になれないから。たったの三日間でも和也に会えないのは寂しかったのかも」


「学校のいる時間考えれば和也が最も一緒にいるからなー。……あれ? じゃあ親もいない時はどうやって過ごしたんだ?」


「クロと話してたんだろ。……ああ、そういえばあの頃から仲良くなってたな」


「仲悪かったの?」


「輝雪は俺と親以外信じないからなー。基本外面は偽物だ。だからクロも去年まではそうだったんだが、そうか。修学旅行か」


「逆に今になってようやく理解したんですか……普通修学旅行前と後でそんなに違うなら気付くでしょうに」


「輝雪が心配だったからな」


「シスコンめ」


「シスコンですね」


「シスコン」


「……この話の後だと否定出来ないのが辛い」


 今にして思えば、俺と晶と焔の時のフレンドリーな感じも、実は演技だっていうことか。末恐ろしいどころか既に恐ろしいだな。

 ん? じゃあ今はどうなんだ? ……まあいいや。気にせんどこ。今も演技だったら泣ける自信がある。


「そういえば写真は」


「幼少輝雪」


「いや、これ中学の時のなら普通中学の……何故小学生時代の写真をチョイスした」


 見えざる神の手、かな。うん。


「見せて見せてー」


「……いや、これは」


「先輩命令」


「それは酷くないか?」


「俺も興味あるな」


 和也が渋る写真。どんな輝雪が写ってるのやら。


「こ、これは無理だ」


「九陰さん」


「蒼ちゃん」


『ゴー!』


「いつの間に名前で呼び合う仲になったお前ら!?」


「チィッ!」


 流石に和也も分が悪いか?

 と思っていた時期が俺にもありました。

 いなし、かわし、抑え込み。和也は二人の攻撃を最小限の動きで回避する。


「あまり暴れるなよ」


「なら助けてくれ」


「報酬はしゃ」


「やはりいい」


「だよな」


 まあ、こうやって渡り合ってるのも和也お得意の気配察知で相手の行動を全て感覚的に先読み出来るからだろうな。天然チートめ。


「くっ、届かない!」


「でも、負けない」


「例え骨砕かれようと」


「肉を切り裂かれようと」


「この意志と命ある限り」


「戦い続ける」


『そう、恥ずかしい写真のために!』


「最後で台無しだよ馬鹿野郎」


 最初だけ見れば主人公のセリフなのに。


「くくく、いいだろう。貴様たちの意志、決意、魂、全て我が粉々に打ち砕いてくれる!」


「和也、頭でもうったか」


「いや、ここは乗るべきだと判断した」


『隙あり!』


「しまった!」


「お前は馬鹿か!?」


 和也のなかなか見れない失態。

 天然チートだけじゃなくて普通に天然の一面もあったのか。


「どうしたのよさっきから騒いで……え? その写真……ダメー!!」


「よっと。……え?」


「この写真……」


 俺も後ろからチラッと見ると、そこには驚きの画があった。


「キャアアアア!!」


 バシュッ!! と物凄い勢いで写真を取られた。だが、中身はきっちりとその目に焼き付けてしまった。


「おい、それ」


「だ、ダメ! 忘れて!」


「いやだって」


 それは


「まさか、実のお兄さんとのキスシーンとは」


「小学生とはいえ、まさかの頬や額じゃなくて普通にキスするとは」


「ファーストキスの相手が互いに兄妹か」


 写真には、親に撮ってもらったのか顔ドアップだった。

 そして、輝雪と和也のキスシーン。撮られる瞬間にしたのだろう。


「いやあああああああああああああああああ!!!」


 何だろうなこの既視感。俺はどこかで輝雪と似たような状況を見てるような……。


「大丈夫ですって輝雪。私もお兄ちゃんがファーストです」


 ああ、似たような状況どころか中心だった。


「皆に見られる……なんて」


「どうしたの!? 凄い悲鳴がって輝雪!?」


「真っ白!? これ錯覚だよね!?」


 よほど恥ずかしいのか、燃え尽きる輝雪。和也も頭を抱え、ため息を付く。

 ……というか、これで起きない俺の親っていったい。

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