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116.終わらない影響

『お、落ち着いて紅くん! 私が悪かった!』


『自分を見失わないで……!』


『ストップ、ストーーップ!!』


『おね……お兄ちゃん戻ってー!』


「……上で何が起こってるんだ」


「あの変態が何かしてるんじゃないんですか?」


 変態……ああ、紅か。

 だが、紅が何をやるとは思えんが……。あ、いや。そういえば昨夜に紅がおかしくなったとか輝雪たちが言ってたか。


「……行ってみるか?」


「行きたくない……とは言えないですよね」


「済まん」


 紅妹の監視でいろいろ大変だろうに、嫌いな紅の様子を見に行くとは。なんと責任感の強いことやら。輝雪に爪の垢を煎じて飲ませたいな。


「行くか、混沌の地へ」


「あ、安息が無いことは決定事項なんですね」


 そうは思いたくは無いがな。

 まあ、大袈裟に言おうと家の中、不慣れとは言え普通の大きさの家。十数秒で着くだろう。

 たしか、紅妹の部屋か。


「そういえば、お前は紅妹の部屋に入ったことは?」


「ありますよ。お宝本交換などに」


「……そうか」


 男子高校生ならエロ本などという想像も出来なくもないのだが、この中学生女子が言うには不適切な単語があったような……。

 気にしてはならない。知ったら何かを失う。


「部屋はどういう感じなんだ? 不確定要素は潰しておきたい」


「ああ、たしかに年下の女子の部屋に急に入り込もうとする男子高校生と、字面だけ見ると危険な状況ですからね」


「何かが起こってるかもしれない部屋に入ろうとする人二人だ。何故わざわざ危険な字面にする」


「そう言うと、たしかに聞こえはいいですね」


「自分で自分の事を結構なひねくれ者とは思っていたが、お前はそれ以上だ」


「お褒めに預かり光栄です」


「褒めてない」


「テンプレなので回収しとこうかと」


「いちいち疲れるような事を」


「回り道したっていいじゃない。みつお」


「言ってないだろ」


 うーむ、音音音音(オトネネオン)。意外と強敵かもしれん。

 そんなこと話してる間に、結局聞く前に部屋の前に着いてしまった。


「……開けますか」


「……ああ」


 そして、バッと扉を開く。


「あ、お帰りなさいませごしゅ」


 バンッ、と扉を閉じた。


「……今のは」


「知らない。長い髪をツインテールにして満面の笑みを浮かべながらメイド服でメイド喫茶の対応をしてくる奴など俺は知らん」


「目は綺麗なエメラルドグリーンでした」


「緑色の目なんていっぱいいる」


「いませんからね」


「漫画の世界に」


「現実から目を背けないでください」


 一度深呼吸して呼吸を整える。

 ……今のは幻。もう一度開ければ普通の光景があるはず。

 バンッ、と開ける。


「うわああああああああん!!!」


「晶落ち着いてー!」


「晶さん大丈夫です! 似合ってます……じゃなくて似合ってませんから!!」


「ちょっと紅くん! 止まって!」


「和也! 手伝ってカズ」


 閉じた。


「……あのー」


「知らない。メイド服を着た男の娘に慰めてる幼馴染にもう一人のメイドとそれを抑えている輝雪と先輩なんて知らん」


「めちゃくちゃ正確に情報把握してますね」


「とにかく俺は知らん。戻るぞ」


「そうです」


『待ったあああああああああああああああ!!!』


「チィッ!」


 逃げるのが遅かった!!


「ちょっとお兄ちゃんこの状況どうにかしてよ!!」


「後生だから……!」


「和也さーん!」


「和也くーん!」


「ええい! 落ちつけえええええええ!!」


 どうやら平和は続かないようだ。


 ・・・

 ・・

 ・


『もしもし。月島ですけど』


「紅がおかしい理由を言え」


『……いきなりね』


「知ってるようだな」


『まねー。“前の世界”でもそうだったし』


「なら」


『でもこんな事で読者様にこの世界の秘密を教えちゃっていいのかなー』


「いいから言え。さもないと」


『わーわー! 言う! 言うから!』


「ふんっ」


『全く、和也くんの殺気は怖いんだから……』


 あんなの気の解放だろうに。まあ、こういう時に脅しとして使えるのは便利だが。

 言うならば、覇◯色の覇気。


『まあ、ざっくり言うと読者も薄々気づいてると思うけど、この世界は繰り返されてるのよ』


「そうだな。記憶は残らないとか」


 ここらへんの説明は本編でやってないところで受けたな。


『そう。でも、紅はその影響を受けにくい。まるで、時に囚われているかのように、ね。繰り返せば繰り返すほど、紅くんは徐々に前の世界の記憶を鮮明に思い出すの。で、その記憶は前の世界の影響も一緒に持って来るの』


「影響……変異型か」


『そうよ。紅から幻覚が見えるとかそう言うの聞いたこと無い?』


「いや……」


「私ありますよ」


「急に思い出したかのように現れるなパズズ」


「猫とは自由気ままなのですよ」


「……ある奴がいた」


『そう。紅は気づいてないかもだけど、その幻覚、前の世界の記憶を紅は結構頻繁に思い出してるのよ。で、それに引っ張られるように変異型の影響も出るってわけ。性格女化、耳に尻尾が映えて獣人化、透明化、幼児化、いろいろな影響が紅の中にあるわ。結果はそれ』


「輝雪ちゃーん!」


「にゅわー!? 紅くん!?」


「……戻す方法は?」


『時間経過。それ以外無し』


「……そうか。わかった」


『うん。それじゃー』


 そう言って、電話は切れた。


「……とりあえず気絶させとくか」


 どうやら紅家にもう一日お世話になるようだ。

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