114.いろいろあった二人
「頭はっけええええええええん!!!」
「サーチアンドデストロイ」
『落ち着いてねー』
『目が回るぅ〜』
「わんわんおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
一際巨大な個体を難なく見つけることが出来た私と九陰先輩は、すぐに殺戮行為に移る。
「が、頑張れ〜」
とりあえず火渡さんはもう少し体力を付けなきゃいけないと思う。
狼とかろうじて認識できる程度の形を保っている獣型。鳴き声と見た目のギャップがかなりシュール。だが、油断してはならない。奴は十分に人を瞬殺出来るだけの力を持っているのだから。
「斬って斬って斬り刻む!!」
私は刀身に【分裂】の特性を付加させる。刃が三つに増え横に並ぶ。
影はオリジナルよりも効果は劣るから、劣った分は想像力で補うしかない。
……これら一つ一つが敵を斬るための武器!
「くらいなさい! 四枚下ろし!!」
適当な技名を叫びながら敵へと向かう。
普通なら、攻撃のタイミングを悟られる戦闘において最大の禁忌ではあるが、魔獣相手なら叫んだ方が力も入るし想像しやすい!!
「セァッ!」
「わおん!?」
敵の足の腱を斬り裂く。
だけど、まだ終わらない!
私は【分裂】を【斬撃】特性に変更する。
【斬撃】特性とは、斬撃を“飛ばす”、“伸ばす”特性である。刀オンリーの私はよく多用していた。
だけど、ただ変えるだけでは終わらない。
私やお兄ちゃんの影は、厳密には“徐々に”上書きするものである。そのため、【分裂】に【斬撃】を上書きしても、ほんの数秒間は【分裂】と【斬撃】の特性を両方宿した状態となる。
性能は五分五分になるが、二つの特性を付加させた一撃は、十分に凶器となる。
「もういっちょ!」
私が刀をもう片方の前足に向けて振る。すると、“三本の斬撃”が飛ぶ。
思惑通り、相手の腱を切断する事が出来た。
これが私の奥の手。二重影。タイミングがシビア過ぎてお兄ちゃんには使えない、私の技。
「よし! 絶好調!」
支えが無くなり胴体が落ちてくる。私は足に【特化】特性を付加させ、倍になった脚力で素早く退避する。
「九陰先輩!」
「終わった。問題ない」
私が前足を斬る間に、後脚を斬り捨てた九陰先輩。流石過ぎる。
「わおおん!?」
地べたにへばり付くように、無様に倒れる魔獣。
後は首を斬り落として終わりだ。
さて、と。とりあえず……
「八つ当たり。完了」
お兄ちゃんに溜まった怒りを刃に込めて、私は首に向けて刃を振り下ろす。
*
「……晶。紅妹」
「うん」
「はい」
「……帰るか」
「そうだね」
「ですね」
『おい!!』
紅救出チームであった俺たちは、迅速に紅を見つけ出す事に成功した。
危惧していた魔獣との遭遇もあったようだが、捜索途中で紅が別の人物、多分魔狩りの人間と行動した事がわかった。
おかげで魔獣に殺される心配もぐっと下がり、一安心……と思っていたのだが。
「誤解だ和也!! これは俺が男だという証明を!!」
「蒼ちゃん!! 不可抗力なの!! この露出狂が勝手に!」
「ふざけんな! 誰が露出狂だ誰が!!」
「あなたよ!」
「ああ!?」
いったいどんな会話があったのかは知らない。
だから、俺たちが見た光景だけを教える。
“服を脱ぎ下着姿の紅に、その体を触っている魔狩りの少女”。
その光景が、そこにはあった。
「お前が男なら上着ぐらい脱げるどうのうって言うから!」
「女物の下着も付けて股にぶら下がっているものも無くてどっからどうみても女よ!」
「だから訳があるって言ってんだろ!!」
「どっちにしても変態よ!」
「お前だって俺の体をベタベタ触ってたろうが!!」
「そ、それこそ不可抗力よ!!」
晶は遠い目を、蒼は死んだ魚の目を、俺は
「おっと」
背後にいた魔獣を狩りながら、とりあえずこの場をどうしたものか考えるのであった。




