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113.銀色の音

「パズズ! 契約執行だ!」


 折角の墓参りだってのに、邪魔しやがって! せめて夏休み中ぐらい黙ってやがれ!!


「あ、いや無理です」


「よっしゃやるってええ!?」


 今なんと!?


「いやだから。無理ですよ」


「何で!?」


「いやほら。変異型のせいで女になってるじゃないですか」


「で?」


「私の装備、男用ですし」


「そんなのあんのかよ!!」


「そりゃありますよ。そこら辺繊細なんですよ。いや、ケモミミとか付いて中身が犬になるとかだったら出来たんですけどね」


「何それ怖い。え? じゃあ何か? 俺が女だから無理なの?」


「はい。女なので無理です」


「そういう大事な事は教えとけよ!!」


「いやー。まさか一週間で魔獣と再戦することになるとは思わないじゃないですか」


「でも出来ない事がわかるって事は前例があるって事だろうが!!」


「おお、紅にしては鋭い」


「余計なお世話だ!!」


 やばいぞ。最後の手段はパズズに人化してもらうことだが、燃費が悪いしどこまで持つかわからん。

 とりあえずは逃げれるだけ逃げるか。


「とりあえず電話しましょう」


「あ、そうか。援軍」


 俺がここにいるなら和也たちもいるはず。

 電話を取り出すためにポケットに手を……あれ?


「……紅。携帯を忘れたとか言いませんよね」


「ま、まさか」


 そ、そんなわけが無い。無いんだ!

 だが、そんな願いとは裏腹に、ポケットの中をどれだけ探しても携帯は見つからなかった。


「……逃げるぞ!!」


「無いんですね……」


 うるさい。

 そこから動こうとした時、影が上から降りてきた。


 *


「お姉ちゃんは今契約出来ない!!?」


「ああ。だが俺なら場所がわかるし、発信機も付いてるから大丈夫だろ」


「発信機通じるんですか?」


「携帯も通じるからな」


「……あ、本当ですね」


 全く、紅はどれだけ不幸に愛されてるんだ。別地域に移ったからって、一週間とか早過ぎだろう。


「今回は獣型か。どうする」


「撃滅殲滅全滅根絶やしにして日の光を二度と拝ませない」


「は〜い。とりあえず殺し尽くすに一票」


「お姉ちゃんを回収のち八つ当たりという名の殺戮ですね」


「殺りながら紅を探す」


『………………』


 最近、女が怖い。

 氷野も凄い微妙な顔をしている。

 というかナチュラルに物騒な言葉を吐くって、恐ろしいな。


「……紅の場所には俺と晶で行く」


『何で!?』


「お前らがそんなんだからだ……」


 何かもう、いろいろ不安だ。


紅妹(クレナイイモウト)も来い」


「今更ですが、お姉ちゃんは名前で私は苗字に役職なんですね」


「妹が役職なんて初めて知ったぞ」


「お兄ちゃん! 何で蒼ちゃんは連れて行くのよ!!」


「発信機で場所がばれるからだ」


「チッ」


「おい風紀委員長」


「私は! ほら、晶くんに蒼ちゃんも行くなら私もいいでしょ!」


「この二人は動けるからいいが、お前は俺一人じゃカバーしきれんぞ火渡。死にたいなら来い」


『ズルい!!』


「じゃあ行くぞ氷野、紅妹」


 ああもう、こいつらは。


「大変だね、和也くん」


 俺の味方は氷野だけなのだろうか。


 *


「ぬおおおおおおおおお!!!」


「あやや、獣型ですね」


 冷静に分析してる場合か!!

 というか、相手は俺の因縁の相手、狼の姿を模した魔獣だった。


「ええい! 俺は餌じゃねえぞ!!」


「わんわん!」


「今回の魔獣は随分と犬っぽいなおい!」


 見た目は凄い凶悪だ。

 目は細長く、赤く光っている。体はゴワゴワとした毛で覆われ、黒い瘴気のようなものが出ている。爪は鋭いよりも傷が付いてて使い込まれてる感じだ。体も大きく、動けば重々しい音が鳴り響く。

 その姿で、鳴き声は「わん」だ。シュール過ぎる。


「ええい! おすわり!」


「わん!」


「え?」


「おや?」


 本当に座ってしまった。これはどういうことだ。


「なあパズズ。参考までに聞くが、魔獣を飼い馴らす、ゲーム風に言うならテイムって出来るのか」


「何故ゲーム風に言うのかは理解不能ですが、不可能のはずですよ」


「じゃあ何故あいつは座ってるんだ?」


「さあ」


 普通に尻尾を振っておすわり状態だ。

 言葉だけ見れば可愛いが、実際は凶悪な見た目の怪物がしてるおすわりなんぞシュール以外何ものでもない。


「うーん」


「とりあえず逃げた方がいいのでは?」


「そうだな。逃げるか」


 俺はトンズラする事を選び、さっさと逃げる事にした。

 というか、体力もそろそろ限界。女の体重い。動きにくい。

 そして、目を背けた瞬間だった。


「わぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおん!!!」


「んな!?」


 あいつが急に鳴いて!?


「しまった! 能力!」


「んな!?」


「“だるまさんが転んだ”です!」


 “だるまさんが転んだ”とは。

 カウンター技であるらしく、焦った人間が「止まれ!」「来るな!」等の言葉を吐くと本当に止まる。そこから目を逸らし、逃げようとすると敵のステータスがアップするのだ(後で和也から聞いた)。

 魔狩りの人からしてみれば、完全にでかい隙なので逆にチャンスらしいが、今の俺にとっては致死率100パーの最悪な技だ。


「わん!!」


「やばっ!?」


 目で追え……!?


「紅!!」


 パズズが目の前に飛び出し、人化する。

 風の壁を作り出す。

 だが、それは余りにも防ぎ切れる物ではなく、相手の爪は俺とパズズに圧倒的速さで近付く。


『危ない!!』


「っ!!」


 記憶。

 “ここから先の記憶”。


「パズズ!」


「紅!」


 少し。少しでいい。

 時間を稼げばいい。

 パズズを抱き寄せ、全力で後ろに飛ぶ。

 魔獣の爪はそれを倍にするスピードで迫る。

 だが、一瞬。ほんの一瞬“稼げた”。

 “銀色の缶”が俺たちと魔獣の間に入り込む。

 ドンッ! という打楽器の音。

 瞬間、銀色の缶が光り輝き、炸裂する。


「わおん!?」


 “氷”。

 ただの氷じゃない。氷の壁だ。巨大な巨大な壁だ。

 銀色の缶は氷の壁となり魔獣の進行方向を塞いだ。


「こ、これは」


「大丈夫ですか」


 見知らぬ声。“見知っている声”。

 声のした方向に顔を向けると、真っ白な学生服のような服に、大きい太鼓のような銀色の楽器を持った少女。

 ……“やっぱり”この戦場でそんな武器はシュールだな。


「ああ、助かった。音音(ネオン)


「はいそうですか。……あれ? 何で私の名前を」


「話はあと! 逃げるぞ!」


「え? え?」


 俺は少女の手を取り走り出す。

 ついでに魔獣は、人化しているパズズの手によってトドメを刺されていた。ザマア。

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