111.墓参り
「あ……」
「むっ」
げっ。烈。
今最も会いたくない奴。……いや、まあ。多分わからないよな。
「何をしている紅紅」
『なにぃ!?』
これは驚いた。全員が驚いた。知らぬ間に合流していた晶と焔でさえ驚いた。
「は、え……は……?」
「なに鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている」
「いや、何で俺だって」
「お前を見た瞬間脳が拒絶反応を起こした」
「……さいですか」
どうやらこいつのセンサーは超高性能らしい。
「ふん。お前も墓参りか」
「悪いかよ」
「墓に埋まるなら何も言わん」
「埋まってたまるか!」
こいつは毎度毎度……。
「だが」
「ん?」
「これはあくまで俺の意思であり、お前が従う必要は無い。……残念ながらと言うべきか、由姫ならお前が来てくれたら喜ぶだろうからな」
正直、意外だった。
少し前のこいつなら絶対妨害すると思ってたから。
「勘違いするな。今はまだ俺がお前を超えていないから、上でもない俺が下ではないお前に命令するのがお門違いだからとおもっているからだ」
「じゃあ、超えたら指図するのかよ」
「当たり前だ。例え由姫が望もうと、お前だけには絶対に会わせたくない」
だが根本は全く変わっていないようだ。
それが呆れるであり、安心もする。
あんな事の後でも、変わらない事は凄いと思うし。
「じゃあ今は通らせてもらうぜ」
「いつかはブラックリストにしてやるからな」
「言っとけ」
墓地のブラックリストってなんだよ。
晶と焔は憎々しげに烈を睨む。……まあ、こいつらは俺を庇ってくれてる奴らだからな。
その時、蒼と烈の目が合う。
烈は俺たちの横を通り過ぎる時に、蒼と言葉を交わす。
「由姫のこと、感謝する」
「好きでやったこと。礼を言われる筋合いはありません」
それだけ。
だが、満足したように烈は行ってしまった。
「蒼ちゃん、今の」
「行くぞ」
俺は焔の言葉を遮って言った。
蒼は、特に昔の蒼は何かあれば俺に言う奴だ。俺も聞いてない事なら、それは蒼にとって、本当の意味で大切な事だということ。なら、それを聞くのは無粋ってもんだろ。
「ありがとうございます。お兄様」
「お姉ちゃんで統一するんじゃなかったのか」
「……そうでしたね」
由姫がいなければ、俺たちはどうなっていたのだろう。
でも、少なくとも蒼の人間性は改善されてないし、俺も高校になっても正義を免罪符にいろいろ無茶やってるガキになってただろう。
……まあ、こんなこと考える方が無粋か。
・・・
・・
・
「紅くん。ここが……?」
「ああ。由姫が埋まってる」
俺たちは、ついに「陽桜家ノ墓」の前に着いた。
墓はすでに掃除されお菓子も置かれ、線香やろうそくも付いている。烈がやったのだろう。
「……悪い、みんな。ちょっと一人にさせてくれ」
「……わかった。行くぞ輝雪」
「え? お兄ちゃんいいの?」
「良いも悪いもない」
「お姉ちゃん。またあとで」
「待ってる」
「声かけてね。僕も、言いたい事あるし」
「私も」
「……ああ」
本当に、俺の周りって恵まれてるよな。
皆がいなくなった所で、俺は墓と、“由姫”と向き合う。
「……一年ぶりだな、由姫」
返事は無い。当たり前だな。
「こんな姿をお前が見たら、どう思うんだろうな」
本当に、あり得ない事になったもんだ。女体化ってなんだよ。
「高校になってから、本当にいろいろ、ラノベの世界だけだと思ってたファンタジーに巻き込まれたんだ。そこで、俺は化け物と戦ってんだ。現在進行形でな。凄えだろ」
多分、一番濃い時期だ。
あれ以上の驚きと体験なんて、絶対泣いただろうな。
「いい奴らにも、恵まれた。……恵まれちまった」
そして、和也たちと出会った。
「小さい世界を、俺の今ある日常だけを守れりゃいいと思ってたのに、いつの間にかスケールのでけえ話になってるし、信頼されるし、本当、息苦しいよ」
優し過ぎて、苦しい。
「俺はお前を殺したってのに、こんな恵まれて、今にも罪悪感が胃が潰れそうだよ」
高校に上がるだけで、ここまで環境が変わるとは思わなかった。
だからこそ、最悪だ。
「もし俺が謝ったら、お前は怒るのかな」
あなたを殺したのに自分だけ幸せになってごめんなさい。
そう言ったら、由姫はどう言うのだろう。
やはり、怒るのだろうか。あの由姫の事だ。笑って済ますはあるまい。
「……俺はあと、“何度死んだら”いいのかな」
それは特に意識した言葉では無く、空気中へと霧散していった。
*
「夏休み、か」
今年の夏はイベント目白押しだ。
いろいろなハプニングが、言い換えるなら“試練”が、きっと紅に降りかかる。
「どうにかしたいな……」
でも、歴史は変わる。絶対に。何故なら、紅は“今までよりも”強くなっている。
「……守ってみせる。今度こそ」
“あいつ”の気が変わらないうちに。
「雪音」
「カグヤ。どうしたの」
「……あまり、無理しないで」
「……するよ。精一杯するよ。一分一秒だって無駄にできない」
何故なら、“この夏休みで”全ての決着がつくのだから。
魔狩りも。
私の死も。
紅たちの未来も。
「今に全て、かかってるんだから」
心残りは残せない。
あ、いや一つだけあった。
「紅の家、行きたかったな」




