109.儚き花
「…………はっ! …………朝か」
頭がぼーっとする。体に力が入らない。
窓からは朝日が入り、部屋を照らす。
「……あれ?」
何だろう。昨日のことが思い出せない。
たしか、輝雪たちと風呂に入って、それで……。
「……何だっけ」
頭に靄が入る。風呂の後のことが思い出せない。
……とりあえず起きるか。
・・・
・・
・
「ふぁ〜、みんないるのか?」
居間に行くとすでに起きている者もいた。
「いや、まだだ」
「ん。おはよ」
「おはようお兄ちゃん!」
「うっす」
和也に九陰先輩に蒼。……ん?
「おい、輝雪は? あと蒼も。こんな時間に起きるのは珍しいな」
蒼は遅いとは言わないが早いとも言えない。和也も早い時はあるが輝雪の方が早いはず。
「あと九陰先輩。朝飯は作ってねえぞ」
「私が朝ごはん無いと起きないとでも?」
「ああ」
「……失礼」
むすっとした顔の九陰先輩。その顔好きだな九陰先輩。
「輝雪ならどっか行ったぞ。何をやってるかは俺も知らん」
「ほお。そうか。でも、好き勝手動かれるのは」
「おっはよー! 紅くん!!」
「せいっ!!」
「がはっ!?」
おっと、ついカウンターを入れちまったぜ。
「大丈夫か? 輝雪」
「うん、大じょ……いい笑顔だねえ紅くん!?」
「それほどでも」
「うん、この世の男子を魅了しそうなほどいい笑顔だよ紅くん」
「そうかそうか。良かったなそんないい笑顔が見れて」
「そうだね紅くん」
「ああ輝雪」
『あははははは』
「……和やかな会話の裏で相手の脛を蹴るのはやめろ」
「死ねえ!」
「甘いわ!」
「誰も殴り合いしろとは言ってない」
『じゃあどうしろと!?』
「お前ら、実は仲いいだろ」
全くもって心外だ。
「そういや輝雪。お前って何やってんだ?」
「ああ、それは料理を」
俺は風になった。
他の全てを置いて行くスピードで、周りの景色が後ろへ流れて行く。
そう、その瞬間の俺はパズズと契約執行状態の時のように、いやそれ以上のスピードで走りだした。
「何処に行くのかしら紅くん? あとお兄ちゃんと九陰先輩も」
しかし回り込まれてしまった!
「き、輝雪。俺はちょっと晶と焔たちのとこに行くからよ」
「既に電話しといたわ」
「俺は日課のランニングを」
「してないのは知ってるわ。お兄ちゃん、私より遅いくせにランニングなんか見たこと無いよ?」
「ちょっと見回り」
「しなくてよし」
和也までおかしな言い訳をし始めた。
だが、ここで諦めるわけにはいかない!
「俺には守らなきゃいけない明日があるんだ!」
「今をまず大切にね」
「輝雪、愛してる。だから通せ」
「ありがとお兄ちゃん。じゃあ愛する妹の手料理食べてね」
「くぅ〜ん」
「はいよしよし」
「あ! そういえば俺、タケルと殺し合わなきゃいけないんだ!」
「タケルって誰!? そして随分物騒な用事ねえ!? 絶対行かせません!」
「お、通信が入った。ちょっと世界守りに行ってくる」
「どこから通信が入ったのお兄ちゃん!?」
「みゃお〜ん」
「可愛いでちゅね〜」
「よし! ちょっくら死んでくらあ!」
「ダメだからね!?」
「輝雪。後は任せた」
「そんな死亡フラグは立たせない!」
「グルル……」
「がおー!」
「もうこれしか」
「さっきから何なのよー!」
『…………はぁ』
俺たちの未来は無いのか。
いや、死ねない。まだ墓参りを済ませていない!
そうだ! 輝雪が料理をすくってる間に!
「はい、用意出来たわよ」
「速え!?」
「残像よ」
もうダメだ。お終いだぁ……。
「もう、さっきから何をやってるんですか。さっさと食べてしまいましょう」
『あ!』
蒼が一口食べてしまった!?
「……むぐむぐ。ん? 結構美味しいじゃないがはぁ!?」
「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
命という花が、儚く散った。
「あ、あれぇ〜?」
蒼はすぐに意識を取り戻すも、輝雪の手料理が完全にトラウマとなった。
輝雪は料理禁止令を出された。だが、どうせいつかまた作るだろう。今から対策しなければ。
墓参りまでの道は遠い。




