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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
普通じゃ無くなった日常
11/248

10.パートナー

「あ」


俺は木崎部屋を後にして、廊下に出た所で部屋の前に佇んでいる存在に気付いた。


「…パズズ」


黒い毛並みにエメラルドを思わせるような深緑の瞳。俺の相棒、パズズだ。


「…(コウ)


声は少し震えていた。中での話を聞いてたんだろう。あれ?でも俺は気にしない、て言った筈だが?


「お腹…空きました」


「………」


中での話は聞いてないみたいだな。


・・・

・・


「………!」ガツガツ


「凄い勢いで食べるな」


「余程お腹が減ってたんでしょうね」


「可愛い~♪」


だが不自然だ。クロとコクが言うには本来、パズズたちの栄養は神の加護らしいのだ。だからこそ、生まれて一カ月以内に力に目覚めて加護を受けないと死ぬ。エサを食べさせても気休めにもならない。逆に言えば、エサはいらないのだ。俺もその事には喜んだ。お金はあるが、使わないに越した事は無いからな。

なのに、目の前でパズズはちゃんと食べている。そのスピードと言ったら飲み込んでるのに等しい。

……後でクロとコクにでも聞くか。


「さてと」


「何処に行くの紅?」


「ああ。服買いにな」


最近手持ちの服が小さくなってきたんだよな。


「私も行ってあげようか?」


「断る。お前の着せ替え人形になんのはゴメンだ」


「ひっど~い」


焔は非常にめんどくさい。何故なら自分の事は適当なのに、俺と晶の幼馴染二人にはいろいろ口出ししてくる。いわゆるお節介だ。

はっきり言って服の好みなんて無いから妥当・安いの二拍子そろってるものであれば何でもいいのだがな。焔は似合う服を本気で探す。そして時間掛かるしものによっては値段も高いのを平然と渡してきやがる。困ったものだ。


「ニャー」


「ん?」


パズズが俺に近づいて来た。何だ?て、おわあ!?


「おい!頭に乗んな!」


「あははは!パズズが紅の頭に乗った乗った!」


「焔の次はパズズですか。紅の頭の上はパズズの特等席ですね」


「ニャー」


嬉しそうに鳴くなー!おい!


「それじゃ行ってらっしゃーい」


「………はあ」


パズズを降ろそうとすると暴れるし、結局乗せたまま行ったのだった。


・・・

・・


「…もう喋っていいんじゃないか?」


「…ですね」


頭の上で猫、パズズが喋る。ちなみに、現在は服を買い終え人気が無い公園だ。パズズが喋っても何の問題も無いし、誰かが近付いてもパズズ曰く、「風の動きや音で察知できます」との事だった。器用だな、おい。


「で、ついて来た、て事は何か聞きたいんだろ?」


「………はい」


パズズはゆっくりと息を吐き、喋る。


「あなたは、どうするつもりですか?」


「は?」


何を?


「戦うか戦わないか、です」


「…ああ」


その事か。


「戦うよ」


「…っ」


パズズは何かに耐えるように喋る。


「…あなたは、無理して戦わなくていいんですよ?輝雪さんも和也さんも、好い人です。それにあなたは“こちら”には来ていない友人もいるのでしょう?」


パズズの言うことも最もだ。輝雪も和也も多分、俺が戦わないと言えば受け入れたろう。

だが、俺は戦う事を選んだ。何故なら、


「お前には言った筈だ。俺は平和を手に入れる為に戦う、て決めたんだ。それに中途半端は嫌いだ。嫌ならパズズは来なければいい。俺はお前がいなくても戦う」


「!だ、ダメです!」


パズズは慌てる。まあ、当然か。パズズにしたら四人目のパートナーが死に近づく行為なのだから。


「あなたは何もわかっていない!死ぬと言うのがどういう事か!あなたが死ねば悲しむ人が沢山いるのですよ!?私だって!」


そこで区切られる。


「私だって、きっともう、立ち直れなくなります」


その言葉は妥当な言葉だ。俺が何も知らなければ多少疑問を持ちつつも、まさかパズズに、過去に三人のパートナーがいて、しかも死んでいるなんて思わないだろう。

だが俺は知っている。その言葉の裏には以上なまでの“死の恐怖”があることに。

人によっては知っている事を話さない、という選択をする人もいるだろう。だが、俺は話す事にした。これから長い付き合いになるのだ。隠し事は極力無しにしたい。相手の事であれば尚更、な。


「パズズ。俺はさ、お前が前に三人の人と契約してるのを知っている」


「!!!」


ま、驚くわな。


「情報源はクロとコク、木崎双子だ。今はそんな事はどうでもいいがな。とにかく、俺はお前の過去を知っている。その上でお前と組みたいとお願いしてるんだ。ダメか?」


「…どうして…ですか?」


「大切なものを守るには力がいる。俺にとって、お前のその力は魅力的だった」


そう、これが答えだ。力無き正義は意味が無い。それと同じ。正義だか悪だか、そんなめんどくせー枠にはまるつもりは無いが、何かを実行しようとする時、力は絶対にいる。


「…ですが、その力によって三人の命が消えてるんですよ?私はもう、…私のせいで誰かを死なせたくない!」


パズズの悲痛な叫び。そして心からの本音。だが俺は、その言葉に苛立つ。


「…ふざけんな」


「…え?」


「『私のせいで誰かを死なせたくない』だと?何様のつもりだ!あの戦いは試合じゃねえ!殺し合いだ!誰かが死んで当然だ!それを自分のせいだと?舐めてんじゃねえよ。誰がお前のせいで死ぬんだよ。お前は力を与えてるだけだろう?使ってるのは契約者だ。死んだらそいつのせいだ」


「……っ!」


「お前は俺がそんなに信用できないか?」


「………」フルフル


パズズは首を左右に振る。


「だったら俺に任せろ。俺は死なない。死ねない理由があるからな」


言いたい事は全部言った。後はパズズ次第か。


「………戦いは、辛いですよ?」


「当然だ。辛く無い戦いなんて無い」


「覚える事はいっぱいありますよ?」


「生き残る為なら何でもする。戦わない以外でな」


「怖くはないんですか?」


「怖いさ。でも、お前だって体験してる事だ」


「…私は我が儘です。あなたの戦い方にドンドン口を出しますし、生活にも文句を言うかもしれません。それでも良いのなら…よろしくお願いします」


パズズの言葉には若干の恐怖が混じっていた。俺はそれを落ち着かせるように言った。


「戦いはパズズの方が先輩なんだしダメなとこがあれば指摘はしてほしい。生活も、これから一緒に暮らすんだから文句はあって当然だ。多少妥協はしてもらうがな。だから…これからよろしく頼む」


「…ありがとう」


こうして、俺とパズズは本当のパートナーになった。

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