107.狂気を感じた
「あら〜、紅ったら可愛くなっちゃって」
「いや、だがお父さんは信じてたぞ! 紅のような主人公体質の持ち主ならいつかやってくれると!」
「死ね! いや、殺す! テメエはここで殺すううううう!!」
「うわあああ!? 紅落ち着いて!!」
それが親の第一声であった。
「息子に向かって言う言葉か!!」
「いや娘だ!!」
「息子だクソ親父がー!!」
晶が押さえ付けてなければ俺の右手が相手の心臓を捉えているところだ。命拾いしたな!
「まあまあ。紅落ち着きなさい。お客さんの前よ」
「ふん! 着替えてくる」
「どれ、息子の着替えを手伝うとするか」
「娘じゃなかったのかよ」
「何を言う。お前は正真正銘俺の息子だぞ? さて、もちろん下着はブラああああああああ!?」
「部屋に入ってきたやつは殺ス」
『……はい』
全く、心を落ち着かせる事もできんのか……。
*
「ふっ、さすが俺の娘……息子だ」
「たしかに可愛かったわね」
「お父さん。挨拶忘れてますよ」
「おっと、俺としたことが。失礼したなお客さん。俺の名は紅白。愛を込めて白お父さん、と呼んでくれ。おっと、野郎は無しだが晶くんは大歓げふっ!?」
「やだなー白さんったら。……殺しますよ?」
「ふっ、最近の子は積極的でよろしい」
……あの攻撃を食らってケロっとしてるあたり、さすが紅と紅妹の父親ということか。
だが、紅の性格から厳格な性格かと思えば、意外とそうでもなかったな。
「私は紅水鳥と言います。家族の名前が名前でよく緑か翠に間違えられるんですが、水の鳥でミドリです。特技は泳ぎで趣味は拷問です」
「あ、はい……いやちょっと待て」
「今おかしいの入ってませんでした?」
「驚いた」
拷問と聞こえたが気のせいか? 気のせいのはずだ。
「私と白さんが出会ったのは高校の頃だったかしら〜」
「ああ、懐かしいな」
な、なんだ。急に馴れ初めの話が始まったぞ。
氷野と火渡は何度も聞いた事があるのかげっそりしている。
「あの頃の私はミズドリじゃなくてチドリって言われてたわねー」
「あ、あの。ミズドリって? あとチドリって千鳥ですか?」
そこに比較的こういう話が好きな輝雪が聞く。
……だが、こういう話を聞けば真っ赤になる輝雪だが、その顔はどちらかと言うと引きつった笑いしか無い。
「ああ、ごめんなさいね。水鳥ってミズドリとも読むでしょ? そして名前の水から別の液体に変わっちゃったのよ。あの頃はやんちゃばかりしてたから」
「え? もしかしてチドリは千鳥じゃなくて」
「ええ、血鳥よ。懐かしいわね〜」
「はっはっは。お父さんも死ぬかと思ったぞ」
「いやねー。死ぬ間際くらい見極められるわよ」
「何回半殺しにされたことか……懐かしい」
「それでも何度も向かってくるあなたが、私は好きよ」
「ああ、私もだ」
そう言って抱き合う夫婦。
そしてドン引きの俺たち。
「おほん。説明しますと、お母さんは高校生時代、血鳥という名で恐れられていた所謂スケバンであり、お父さんは打たれ強過ぎるドM予備軍です。二人は出会った瞬間に運命を感じ、何度も殺り合った仲というこちであり、大学卒業後、ついにゴールインした、ということです」
狂気を感じた。
同時に、紅妹のような人物が生まれたのも納得だった。
「……僕、ちょっと自分の家に帰りますね」
「わ、私も!」
「おや? いいのかい晶くん焔ちゃん」
「ええ。後でまた来るので」
「それじゃまた!」
そう言って、氷野と火渡は去って行った。
……嫌な予感がする。
「さて、君たちの名は?」
「俺は」
「お嬢さん方の名は?」
「…………」
ブレない人だ。
「あなた?」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛いー! 骨が軋む音がするー! だがそこがいい!」
「そう? じゃあもっと」
「うぎゃあああああああ!!」
ごきん、と何かが外れる音がした。
「あら、脆いわね」
「つつっ、全く。お客さんの前だぞ? 少しくらい手加減しろよっと」
ごきん、と何かが元に戻る音がした。
「では、改めてみなさんのお名前は?」
「木崎和也です」
「木崎輝雪です」
「黒木九陰です」
『お世話になります』
俺たちは悟った。逆らってはいけないと。
「ええ。お嬢さん方には私の下の息子も世話にい"い"い"ーーーー!?」
「ダメよ。あなたの息子は私専用よ?」
「ああ、済まなかったよ水鳥」
「まあ、こんな親なので。あ、私部屋に行きますね」
もはや、俺たちはその場から動けなかった。
何が正しい行動だったのか、わかる人がいるなら教えてほしい。
「ふむ。ではお嬢さんのスリーサイズを」
「紅との出会いを聞きたいわ」
「いや、スリーサイズだ」
「また折りますよ?」
「ふっ、望むとごおおおおおおおおおお!?」
目の前のカオスな状況を、ただ無心に見続けた。
*
「ふぅ、こんなもんか」
黒のYシャツに膝当たりまである長めの半ズボン。スカートはスースーするから助かった。
問題は、
「……胸、だな」
そう、胸だ。
それなりに大きいようで、Yシャツの上から膨らみが見える。
本当なら潰したいが、残念ながらサラシなどのような物は無い。
「……はぁ」
どうしたものか。
「ん?」
そこで、携帯が鳴った。通話……ルナか。
「もしもし」
『もしもし。紅ちゃん元気ー?』
「切るぞ」
『じょ、冗談だよ紅くん! というか、紅くんはもう少し私を労わってくれていいと思うんだよ!! 私も子どもなのに、何で私だけアパートで留守番なの!?』
「お前は見張るためにアパートに置いてるようなもんだし、しょうがないんじゃね?」
『うぅ……これだけは何万回やっても慣れない』
「何万回、ね」
『……そういえば、何だかんだで紅くんだけにがこの世界のこと教えてなかったね。今教えよっか?』
「いや、帰ってからでいい。それに、そこまでヒントが露骨だと、バカでも何となくわかるさ」
『……それが例え、バカらしい真実でも?』
「バカみたいなでっけえ力があんだから、ありえんだろ」
『……そっか。そうだね。……おっとー! 雰囲気に流されて重要な事を忘れてたよ! どうして私だけアパートなの!』
「さっき言ったろ!」
『それでも納得いかない!』
「諦めな。じゃーな」
『あ、ちょっ』
切った。
その後何度か着信が着たので着信拒否しといた。
「……はぁ」
『ふっ、望むとごおおおおおおおおおお!?』
「……何やってんだが」




