104.諦めが肝心
引きこもった。
いや、勘違いしないでほしい。これにはちゃんとした理由がある。
まず、俺は今女だ。変異型を倒したせいで女だ。
なんかホルモンバランスを逆転させるとかで、男らしい奴は女らしく、女らしい奴は男らしくなるらしい。
俺の場合は見た目不良が見た目美人になったというわけだ。
…………どうしてこうなった。
まあ、そんなわけで一時的な効果らしくその一時的が過ぎるまで、俺は仮病で一週間を乗り過ごすしかなくなった。
まあ、紫は魔狩りを知らないから、俺が女になってたら驚くだろうからな。
「ただいまー!」
「ただいま」
「お、おかえり」
時刻は夕方。晶と焔が帰ってきた。
「やっぱ紅が女って慣れないね」
「うるせえ」
「でも紅、美人だよ!」
「……嬉しくねえ」
全くもって嬉しくなかった。
「やっぱり、戻ってないね」
「そうだなー」
今日は夏休み前日。終業式の日だ。あれから一週間。結局俺の体は戻っていない。
そして、
「紅くん! 今日こそメイド服を!」
「自分の部屋に戻りやがれ!!」
輝雪の暴走が収まらない。
こいつは一週間、俺の体を隅々まで洗う役まで勝ち取って(緊急女子紅のお風呂番ジャンケン隊かで輝雪が優勝した)、本当凄い羞恥プレイまでしたと言うのに、さらにコスプレまで要求する。
本当、お風呂が辛い。
「何でよ! あ、メイド服が嫌なのね? わかったわ。巫女服もあるから安心して!」
「着ねえよ!!」
「何で!? メイド服、巫女服、チャイナ服、ナース服、婦人警官、動物耳、白ワンピース、ゴスロリ、シスター服、他にも着てもらいたい服いっぱい用意したのに!!」
「嫌だよ!! そこまで来ると逆に狂気を感じるよ!!」
とりあえず輝雪が怖い。超怖い。
「……ダメ?」
「上目遣いでもダメ!」
一週間もこのやり取りをやっているとさすがに慣れた。
「はぁ、明日までには戻らねえかな……」
「墓参りだもんね」
「最悪このままいくしかねえな……」
「行くには行くんだ」
「当たり前だろ」
「何だったら着てくれるの?」
「俺の服なら着てやる」
「最悪私の服を!」
「それが一番やばいだろうがあああああああ!!!」
一瞬、輝雪の服を着るのを想像して、一瞬いいかなと思った思考を頭から追い出す。
「紅くん凄い真っ赤だけど」
「お、お前が変なこと言うからだろうが!!」
輝雪の私服は動きやすさ重視はいいが、露出が多い。輝雪に周りからの視線が気にならないか聞いたら、「とっくの昔に慣れた」と言った。だが、俺は絶対無理だ。
「俺っ子……これが目覚め?」
「何に目覚めたんだよ……いや、やっぱ言わなくていい」
もう輝雪の限界がわからない。
「はぁ、そうだ。一応蒼に電話しとくか」
「何で?」
「性別が戻らなかった場合に備えてだよ」
蒼は優秀を超えて優秀だ。きっと何かしら解決策を。
一応言うと、俺は元の地区よりかなり離れた高校に通っているため、日帰りは難しい。まあ、当たり前だが。近かったら家にいるしな、普通に。
『……もしもし』
「ああ、俺だ」
『ああ、そういえばお兄ちゃんたちは明日から夏休みですね』
「ああ、そうなんだがちょっと問題が」
『メイド服、巫女服、チャイナ服、ナース服、婦人警官、動物耳、白ワンピース、ゴスロリ、シスター服他いろいろ取り揃えたんですけど、こっちに泊まったら何着ます?』
あ、ありのまま起こった事を話すぜ!
本来男である俺に、妹は女性用の服を用意していた。
な……何を言ってるかわからねーと思うが、俺も何が起こっているのかわからなかった……。
『あ、すいません。浴衣の方が良かったですか?』
「いや、ちょっと待て。何で俺が女性用の服を着る方向で決まっている」
『やだなーお兄ちゃん。……私がお兄ちゃんの事で知らない事なんて、あるわけないじゃないですか』
お巡りさーん!!!
『ええ、もしかしなくても知ってますよ。両親も私の催み……説得でお兄ちゃんの事情を理解してくれました』
「ま、待て。ツッコミどころが多過ぎる……」
『何ならプ◯グスーツでも』
「普通の服を用意しろおおおおおおおおおお!!」
『じゃ、待ってますねお兄ちゃん♪』
「………………墓参り、諦めよっかな」
『そんなに!?』
俺たちの夏は、まだ始まったばかりだ。




