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092:蘇生、死亡、また蘇生

 死体は九人分。それぞれ胴体と生首に分かれてしまっている。まだルミエルの魔法でカチコチに凍ったままのそれらを、三人で一箇所に拾い集め、一気に蘇生させてやる。

 例によって例のごとく、蘇生魔法の白濁光が俺の掌からほとばしり、九つの首と胴体を包み込んだ。


「はぇ……?」

「んな……なにがあったん……」

「おおぅ……」

「……ほへー」


 この蘇生直後の様子ってのは、何度見ても間抜けで面白い。スーさんがいうには、俺がはじめて魔王としてこの世界に召喚されたときも、こんな状態だったらしい。でもよく憶えてないんだよな。なんか意識が混濁してて、気がついたらそこにいた、って感じで。今のこいつらも、当時の俺と同じような感覚を味わっているんだろう。


「みんなぁ!」


 フルルが嬉し泣きに震えながら声をかける。


「よ、よかったね! みんな、生き返れて、よかったね……! ほんとに、よかった……!」


 泣き笑いに頬を濡らしながら、しみじみ呟くフルル。当の仲間たちは、みな困惑気味。一人だけ、白髪の年寄りがまじってるが、あとは全員、そこそこ若い男たちだ。


「おお、嬢ちゃん。これは、いったい何が……?」


 その白髪のじじいが尋ねる。


「わたしたち、みんな、いっぺん死んじゃったんだよ。この伝説の勇者さまに、返り討ちにされて」

「な、なんと?」


 九人が一斉に俺に注目した。


「この少年が、勇者……?」

「そんな風には、とても」

「い、いや、たしかに、それだけの品位と風格と美貌は備えているようだが……」

「いわれてみれば」

「うむ。見れば見るほど、夢のような美少年だ。眼福眼福」


 いや待ておまえら。なんかズレてきてるぞ。眼福ってなんだ。それに、美少年とかいう響きは気色悪いから勘弁してくれ。


「しかし、死んだ、といわれましても……いま我々は、こうピンピンしておるではありませんか」

「勇者さまが、魔法でみんなを生き返らせてくれたんだよ」

「はあ? 魔法で?」


 じじいが、ちょっと胡散くさそうな眼差しを向けてくる。


「ほう。信用できんか」


 俺が問うと、じじいは、こっくりとうなずいた。うたぐり深い奴め。


「では、その目で見るがいい」


 俺はアエリアを抜き放つと、問答無用とばかり、たまたま手近なところにいた若いエルフ──仮に、盗賊Aと呼ぼう──の胸もとを、さくっと突き通した。

 アエリアの刃は寸分あやまたず盗賊A(仮名)の心臓を貫いている。むろん即死だ。


 驚愕にざわめくエルフたち。そこへ、ぴしゃりと叱声を浴びせる。


「──騒ぐなッ!」


 俺の厳しい眼光を前にして、全員、おとなしく黙りこくった。素直でよろしい。

 おもむろに、地に伏す盗賊A(仮名)の死体へ、詠唱もそこそこに蘇生魔法を叩き込む。


 輝く白濁光がその身体を包み──ほどなく、盗賊A(仮名)は、むっくりと起き上がった。

 たちまち駅亭の屋根を揺るがす驚嘆のどよめき。


「……これで信じないというなら、今度は貴様で試してやろう」


 言いつつ、俺がアエリアの切っ先をシャキィィンと向けると、じじいは「はうぅっ」と奇声をあげつつ平伏し、半泣きで許しを請うた。

 まったく、余計な手間を取らせおって。





「もう。おじいったら。勇者さまが嘘なんてつくわけないでしょ」

「いや、その。重ねがさねのご無礼。本当に申し訳ござらん……」


 フルルになじられて、ひたすら平身低頭するじじい。どういう関係だ。

 少し事情を聞いてみたところ、じじいの名はベギスとかいうらしい。フルルの母親の代から、盗賊団の参謀格をつとめてきた古株だとか。現在のベギスはフルルの後見人のような立場で、フルルにとっては母親と同じくらい愛着のある存在のようだ。だからこそフルルとしても、ベギスを死なせたままにしておけなかったのだろう。


「勇者さま。おじいと……みんなを、生き返らせてくれて、本当にありがとう」


 フルルが、あらたまった顔つきで、ぺこりと頭をさげる。


「ほら、みんな、お詫びをなさい」


 そう促されて、盗賊たちは一斉に平伏した。こいつらの使い道は、もう決めている。この様子なら、どんな指図にも素直に従うだろう。その前に一応、最低限のケジメはつけておかんと。


「貴様らを生き返らせてやったのは、フルルとの取引きの結果だ。これにより、フルルも含め、貴様ら全員、たった今から俺の奴隷となる。不満のある奴は申し出ろ」


 あえて居丈高に宣告しつつ、アエリアの剣環をキンッと鳴らす。

 むろん、誰一人として、否やをとなえる者はなかった。とはいえ、それぞれの顔には、戸惑いや怯みの色がありありと滲み出している。フルルと同じく、奴隷といえば過酷な虐待を受けるもの、という先入観のせいだろう。


「ルミエル。紙とペンとインクを」

「あ、はい!」


 ルミエルが大急ぎで馬車に向かい、羊皮紙とペンとインク瓶を掴んで持ってきた。さすがにもう全裸ではない。

 俺はその場でサラサラッと一筆したため、折りたたんでベギスに手渡した。


「これは……?」

「いいか。フルルを除いて、貴様ら全員、ただちに緑林軍の砦へ向かえ。緑林の首領のハッジスという男に、その手紙を届けるのが、貴様らの初仕事だ」


 手紙の内容は、ハッジスへの紹介状。こいつらはケチな追い剥ぎとはいえ、俺が見たところ、野戦集団としてはそこそこ使い物になりそうだ。そのへんをを見込んで、今後当面、こいつらは緑林の兵隊兼雑用係として働かせる。むろんタダで。

 俺がこいつらを送り込むことは、勇者が緑林に強く肩入れしている、という情報の裏付けにも繋がる。ハッジスならば、俺の意図を汲んで、この情報も赤眉、浮水との交渉材料に活用しようとするだろう。


 ただ、フルルだけは手許に置いておく。なかなかの美少女だし、ルミエルもフルルを気に入ったようだ。ルザリクへの道すがら、二人がかりでじっくり可愛がってやろう。


「では、出立の準備だ。緑林の砦の場所は知っているな? 間違っても、途中でトンズラしようなどと考えるなよ。そんな悪党は、地の果てまでも追いかけ追い詰め、俺じきじきに手討ちにしてくれるぞ」


 たっぷりドスをきかせて言い放つ。九人全員、雷鳴に怯える子羊のごとく深々とひれ伏し、違背なきことを誓った。

 これでいい。連中はベギスに引率させ、緑林の砦へ向かわせる。到着後はハッジスのもとで死ぬほどコキ使われることになるだろうが、もはや知ったことではない。俺たちはルザリクを目指して先を急ぐことにしよう。



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