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853:魔王、寝る


 多少、問題は残ったが、ともあれチーは復活した。

 副産物として、色々ややこしい属性てんこ盛りの娘もできてしまった。


 タマは生ける完全物質。最強のチートツールが女子中学生の姿で服着て歩いてるような存在だが、その能力を活かす機会は、当面ないだろう。

 なにせ消費魔力が大きすぎる。俺でも油断してると魔力を使い切って死にかねないほどだ。


 それでも、その出来栄えには大精霊コンビも十分満足したようで。


「よしよし。これにて、我々の仕事もひと段落だな」


 ツァバトが、機嫌よさげにベッドへダイブした。


「ええ。タマの能力は、私の想定以上に仕上がっています。できれば、すぐにも次なる段階へ移りたいところですが、いまはアークさんにも休息が必要でしょうね」


 ルードも、ほくほく微笑を浮かべつつ応えた。

 休息か。


 確かにな。チーを復活させるために、タマと魔力回路を接続している間、それはもう半端ないレベルで魔力を消耗しまくった。

 さっきもナニを切り落とした際、危うく死にかけたが、いまも割とやばいことになっている。魔力不足だろうな。全身、微妙にダルい。意識にも、軽くモヤが掛かったみたいになっている。これは本当に休息が必要な状態みたいだ。


 完全回復には、何日か掛かるかもしれん。

 ツァバトの霊薬ならば……すぐに回復するかもしれんが……いやアレはダメだ。


 アレだけは! アレだけはもう! 本気で! 勘弁してもらいたい!

 すでに俺はアレを一度飲み干すことで大人の階段をひとつ上がった。もう十分ではないか。アレ飲んでまたひとつ大人の階段のぼるぐらいなら、数日寝込んでたほうがよほどマシだ。


 そもそも。もう材料がないだろうしな。世界樹の若木とかいう、エリュシオンにしか生えてない樹木の葉っぱが必要らしいので。


「……すまんが、しばらく休む。そう長くはかからんだろうが」


 と一同へ告げると。


「オヤスミ?」


 まずタマが訊いてきた。


「ああ。パパ、ちょっと疲れちゃってな。寝たいんだ」

「ジャア、タマモー! パパトイッショニ、ネルー!」


 といって、ぴょんと俺の胸もとにしがみついてきた。

 タマって睡眠必要なのかな……いや、たしかルードが作成したマニュアルによれば、肉体的には常人と変わらないという話だったな。さっき食堂で俺と一緒にハンバーグ定食いただいたし。ならば睡眠も必要か。


「ならさ、ここで寝てなよ」


 そういいながら、チーが、ベッドシーツをぽんぽん叩いた。すでにツァバトが端っこのほうで大の字になってやがるんだが、それでも俺とタマが寝転ぶスペースはじゅうぶんあるな。無駄にでっかいベッドだ。


「そうだな。そうさせてもらおう。チー、俺が寝てる間」

「まかせて。スーさんにも、事情は説明しとくからねー」


 チーは、ニッと笑ってみせた。かわいい。

 多少俺が寝こけてようと、チーとスーさんが健在なら、城内は問題なく治まる。なにせ長年、そうして俺の帰りを待ってくれていたわけだしな。


「じゃあ寝るか……ってツァバト、オマエは寝る必要ないだろ?」

「ふっ、確かに、我に睡眠など不要だ。だが汝の眠りを見守る者は必要であろう?」


 なぜか楽しげに微笑むツァバト。なんかよからぬこと考えてんじゃねーだろうな?

 別に見守ってもらう必要もないが、ツァバトがそうしたいというなら、好きにさせておくか。


「ルード、ツァバト」


 と、俺は呼び掛けた。


「はい。どうしました?」

「なんだ、我を抱いて眠りたいのか?」

「ちげーよ! ……感謝している。チーを蘇らせることができたのは、おまえたちのおかげだ」


 一応、眠りにつく前に、礼を言っておきたかった。

 完全物質の研究者であるルード。様々な叡智を駆使するツァバト。こいつらの助力なしには、チーを救うことはできなかったろう。


「なんの。こちらとしても、貴重なデータを数多く得ることができましたからね。お互い様というやつですよ」


 ルードは、爽やかなイケメンスマイルで応えた。くっ、このハイパー超絶美形め。俺が女だったら一撃で惚れてるぞ、こんなん。


「礼はいずれ、目に見える形でな。そう、汝の子でも授けてもらうとしようか」


 ツァバトは真顔で言った。


「できるもんならやってやるが、無理」


 と俺は応えた。絶対無理なのわかってて言ってるのがタチ悪い。オマエの身体、サカエド産の人造人間じゃねーか。


「さあ、もうお休みください。限界近いのでしょう?」


 さすがにルードは俺の状態を把握してるな。まったくその通り。

 俺はタマとともに、ばったり倒れ込むようにして、ベッドへ横たわった。


「では、休ませてもらおう……チー。後のことは任せる」


 そうして、俺は深い眠りに落ちた。





 俺の名前は、悪魔悪男。通称アーク。

 王立学園に通う一年生。


 今朝も、いつものように白ランを颯爽とひるがえし、木刀をひっかついで、校門をくぐった。

 って。


 いやちょっと待て。

 どこだここ。


 俺はチーの部屋のベッドで眠りについたはず。

 ならこれは夢か? 夢のお話なのか?


 白ランに木刀の悪魔悪男。この部分だけは、以前にもあった。昭和の日本そっくりの異世界にリネスとともに迷い込んだときも、俺はこういう名前と扮装だったからな。

 だがここは、あの昭和日本の魔王学院ではないらしい。


 王立学園ってなんだ? どこの学校だ?

 周囲を見回すと、俺とは全然違う格好の……赤と黒、金などを基調とする、上品そうなデザインの制服を着た男女が歩いている。明らかに俺ひとりが異質な姿格好をしてるが、誰も気にしてないみたいだ。


「おや、アークさん」


 やがて、下駄箱の前で、ばったり顔見知りといきあった。黒髪白皙の超絶美形……。


「……ルード?」

「ええ、ルードですよ。ここでは一介の社会科教師ですけどね」

「いや、なんでオマエがここにいるんだ」

「同一存在というやつですよ。ただ、必ずしも、同一人物というわけではないのです。そちらのルードとわたしは、様々な点で一致した存在ですが、わたしはそちらのような大きな力は持っておりません」


 はあ。スターシステムみたいなもんだろうか。


「いま、俺がどういう状況なのか、わかるか?」

「もちろん。アークさん。いま、あなたの意識は幽玄の境を超えて、異次元に迷い込んでいます」


 迷い込んだ? 異次元? ここが?

 たんなる夢じゃないってことか?


「……戻る方法は?」


 と訊くと。


「簡単ですよ。あちらのあなたが回復すれば、勝手に意識を引っ張って、戻してくれます。目が覚めれば、自動的に、もとの世界ですよ」

「なんだ……じゃあ心配はいらんのだな」

「ええ。ですが、そうですね。少し問題があるとすれば」


 ルードは、ふと、空を仰ぎ見た。よく晴れた青空だった。


「こちらとあちらでは、時間の流れがまったく異なります。アークさんが元の世界で目覚められるまで、あちらではほんの数日でしょう。けれど、こちらの次元では、体感で十年ぐらい先のことになるでしょうね」


 え。

 いやそれ大問題なのでは。


 十年も、こんなわけのわからん異世界で過ごす羽目になるのか?



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