表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
853/856

852:死を超越せしもの


 チーが、目覚めた。

 ぱちんと瞼を開くや、がば、と半身を起こして、なぜか自分の胸元へ視線を落とす。


「……ない! アタシのムネがっ! 部位欠損してるっ!?」


 いや、最初から無いからそれ。ぺたーんと平坦だから。


「チー」


 と、俺は静かに声をかけた。


「あー、うん」


 チーは、少し気まずそうに、うなずいてみせた。

 なんだろう。この局面で見せる態度ではないような気がするが。普通はもっとこう、「え? あれ? どーなってんの?」みたいな反応をするもんだろうが。


「いやー、状況は把握してるよ。実は、ずっと見てたからねー」


 ……なんですと?


「思念体化して、ずっと魔王ちゃんの行動を眺めてたからねー。あ、でも、自力じゃどうにもできない状況ではあったんだ。こうやって肉体を復活させてくれなきゃ、未来永劫、魔王ちゃんを追いかけるだけの悪い思念体と化してたかも」


 そんな! ずっと見られてたとは!

 ではまさか、俺様が自分のタマをすっぱり切り落として、そのタマがこのタマになり、このタマとあんなことやこんなことをしてたのも! 全部まるっと見られてたというのか!


 いやチーに何をいくら見られてようがそりゃ今更だけどな……付き合いも長いし。

 ていうか思念体ってなんだ? 幽霊ってわけではないみたいだが。


 もし死んで幽霊になってた場合、チーのデータを参照すれば、それはそういう状態だと俺にはわかる。なぜならほんの少し前、そういう幽霊を実際に見てるからな。魔術師レンドルという。

 だがチーのデータに、そういうフラグは見えなかった。


 説明がほしいところだが……いまは、それは後として。


「どうも、あちこち迷惑かけちゃったみたいだねー。とくに魔王ちゃんには、なんといって詫びればいいのやら」

「なにを水くさいことを。気にせんでいい」


 俺は鷹揚にうなずいてみせたが、チーは。


「いやいや、そんな簡単に許されるようなことじゃないから! なんせ魔王ちゃんのアレがアレしてアレになったんだからね! アタシのせいで!」


 いやまあ、確かにチーを目覚めさせるために苦労したのは事実だが。なんせ俺がナニをナニしてナニにしたわけだから。チーのために。


「だからっ! お詫びとしてー、この場でアタシの純潔を魔王ちゃんに捧げて、魔王ちゃんのお嫁さんになるよ! それなら魔王ちゃんも納得だよねー?」

「それはもうとっくに全部貰ってるから」

「うん、そうだったねー」


 チーは、にへっと笑った。どういう会話だこれ。全力でイチャついてるカップルか何かか。


「……説明を求めたいのですが。よろしいでしょうか」


 しばし黙って見ていたルードが、後ろから声をかけてきた。

「もちろん、我も聞かせてもらうぞ。此度の一件、我の叡智をもってしても、いささか測りかねる状況だったのでな」

「うんうん。そうだね、アンタらにも苦労かけちゃったしねー。事情を知る権利は当然あるよねー」


 チーがうなずくと、俺の脇に抱えられたままのタマが、くわっと目を見開いた。


「ギリノハハ! ハジメマシテ! タマダヨー!」


 ん? なんて?

 ギリメカテ……じゃなくて、義理の母?


 すなわち義母? チーが?

 どういう意味だ?


 一瞬悩んだが、ついさきほど、俺がタマに告げた説明……。


「タマと同じくらい大事な人」


 という言葉から類推し、そういう解釈に至ったらしい。

 タマは一応、俺の娘である。でもってチーは俺の婚約者……いずれは嫁となる。ならばタマにとっては、義母になるわけだな……。


「アタシはチーだよー。初めまして、タマちゃん」


 チーも瞬時に理解して、もう受け入れてる様子。

「さっすが、魔王ちゃんの分身と先代勇者の融合体だけのことはあるねー。知能が高い、察しがいい。こんな子なら、母と呼ばれるのも悪くないねー」


 なんか、ほくほく顔になっとる……。確かにタマは可愛いからな。チーさえ問題ないなら、親子として仲良くやっていきたいところだ。


「タマ。チーと仲良くやっていけるか?」

「ウン! タマ、ハハ、スキ! ハハ! ヨロシクネ!」


 満面の笑顔で言い切るタマ。もうチーのことは母と呼ぶことに決めたらしい。双方それで納得できるならば、俺に否やはない。むしろなんでタマが、いきなりそんなにチーに懐くのか、謎だが。

 あと、見ためな。タマが女子中学生くらい、チーはもっと幼い姿なんで、傍目には変な組み合わせっぽく見えるかもしれん……まあ些細なことか。





 リッチーのチー。

 もとは人間でありながら、自らの魔力で不死身のリッチーと化した、最上位アンデッド。


 と、俺は理解していたし、当人もそう言っていた。かつての魔族も、ごく当然のように、チーを高位の魔族とみなし、受け入れた。

 だが実際のところ、ここ最近のチーは、厳密にはリッチーではなくなっていたらしい。


「こないだ、久々に会った魔王ちゃんと、その……(自主規制)したじゃん? 城の地下で」


 あー、あのときね。カチンコチンに凍ってたこの城を解放して、地下に避難中だったチーと再会。思わず全力ダイヴをかまして(激しく自主規制)しまった、あれね。

 うん、若気の至りだったね。俺も若かったから。つい先日のことだけどな!


「あのとき、アタシ、以前とは違う魔王ちゃんの魔力を、モロに貰っちゃってさ……なんか、進化しちゃったんだよね。アタシの存在自体が。一気に二段階ぐらい、駆けあがったっていうかさ」


 ……存在進化?

 以前とは違う俺……そうか。いまの俺は勇者、それも大精霊化待ったなしの上位存在と化しつつある。昔の、一介の魔王だったころとは、魔力からなにから、そりゃ別物レベルだろう。


 で、そんな俺の魔力を注がれたことで、チーも上位存在に進化してしまった、と?


「いまのあたしは、もうリッチーじゃなくて……死を超越せし者。オーバーロードのさらに先。種族名なんて無いから、そこは好きに呼んでほしいねー」


 ははあ。死を超越せし者。

 いやでも、たった今まで、普通に死んでたような……。


「いまのアタシは、実体をともなわない思念体のほうが本体。この肉体は、思念体が物理世界に干渉するためのアバターみたいなもん。でも、もとが人間の肉体だから、脆いんだよねー。ちょっと気合い入れて維持してないと、あっさり活動停止しちゃうんだよ」


 ほう。

 それが謎の突然死の理由なのか……。


 上位存在に進化してしまって、逆に肉体が枷になってる状況、みたいな?

 知らん間に、なかなか面倒くさいことになってるな。だがチーがそうなった原因が俺様の魔力だというなら、他人事とはいえん。


 これ、対処法とかあるんだろうか?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ