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849:快適インターフェース


 タマの使い方。そのマニュアル。

 内容は。


 ううむ。藁半紙のプリントって、なんか微妙に読みにくいな……。

 しかも全部日本語なんだよこれ。なんでルードが日本語知ってんだよ。いくら大精霊だからって、最近ちょっとやりたい放題すぎんかねアンタら。


『一定期間放置すると、機嫌を損ねることがあります』

『こまめにコミュニケーションを取ってください』

『毎日入浴させてください』

『食後には必ず歯磨きをさせてください』


 なんかペット購入時の注意書きみたいだ……。そりゃタマは人造生命、ナマモノだからな。その養育には、きちんと責任を持たねばなるまい。


『こまめに手足の爪のお手入れをしてください』

『耳掃除は綿棒を用いてやさしく行ってください』


 いちいち書かんでいいわそんなこと。

 マニュアルは三枚に分かれてて、うち二枚は、こんな感じの、割とどうでもいい注意事項しかない。


 問題は三枚目だ。


『プロセスメモリエディタ起動の手続き』

『仮想インターフェース操作方法』

『アドレスサーチの具体的手順』


 チートツールの説明書そのものだこれ。いやこれはありがたいけどな。

 このマニュアルを見る限り、タマが内蔵している完全物質のインターフェースは、これまで俺が触れてきた賢者の石や、俺自身が内蔵しているエロヒムの権能などとも、操作方法が異なっているようだ。自由度が高いというか、より直感的でGUIライクというか……。なんか無駄に技術的進化を遂げてやがる。今更DOSがウィンドウズになったって、やることは変わるまいに。


 そのタマは、ちょっと離れたところで、またツァバトとなにやら語っている。どうも、俺の周辺の魔族、人間、エルフらと、俺自身との関係について、ツァバトからレクチャーを受けているようだ。


「よいかタマよ。当面、われらの最大の好敵手となりうるのは、リネスだ。リネスのワガママなら、どんなことでも聞き入れてしまうくらい、アークはリネスに甘い。我らも、そんなふうにアークに甘やかしてもらえる存在を目指さねばならん」

「ウン、ワカルー。タマ、パパニ、アマエターイ!」


 なんの話をしてんだよオマエらは!

 俺がリネスに甘いのは、自覚してる。ボッサーンから託された子だ。娘みたいなもんだよ。


 一方、タマは俺の分身から生まれた。これも実質、俺の娘といって差し支えない。

 だから、この二人については、今後も大いに甘やかしてしまいそうだ。親心というやつだ。


 ツァバトを甘やかす理由はないけどな。だいたい、数十億年を生きる大精霊、ある意味、究極のおばあちゃんじゃねーか。俺のほうが甘えたいぐらいだよ。

 それはそれとして。


「タマ。ちょっとおいで」

「ハーイ、パパ!」


 タマが、とててっと駆け寄ってきて、俺の胸に飛び込んでくる。


「よしよし」


 その銀髪を撫でてやりながら、マニュアルにある通り、俺の魔力を、タマのうなじ付近に流し込んで、魔力の経路を繋いだ。あれだ、デバイスの無線接続みたいなノリ。

 まずは試運転といこう。マニュアル通りに操作してみて、こちらの望む機能がきちんと備わっているか、正しく動作するか、チェックせねばなるまい。


「ンー……キドウ、スル?」


 タマが、ぴっと表情を消して、俺を見つめた。ユーザー認証中ってとこかな。


「ああ、頼む」

「ワカッター。インターフェース、キドウ」


 途端。

 俺の視界に、仮想のウィンドウが開いた。パソコンのデスクトップそのものといっていい。


 これを思念で操作し、マニュアル通りの手順でプロセスメモリエディタを開く。

 すると……。


 賢者の石にアクセスしたときと同様のメモリエデット画面に切り替わった。データアドレスと、そこに格納された数値。それらの羅列が。

 しかし……。


 接続し、起動させ続けているだけで、俺の体内から、ぐんぐん魔力が吸われていってる。起動からほんの十数秒で、すでに俺の保有魔力の1%ほど、タマに吸われてしまった。これだけでも、魔王時代の俺様の全魔力をも上回る魔力量だ。

 どんだけ燃費悪いんだよこれ。このペースで魔力が減るとなると、一時間も起動してたら魔力切れで死んじまうわ俺様。


 なるほど、大精霊ズをのぞけば、これを俺以外に使いこなせる奴は、この世におるまい。文字通り、必要魔力量の桁が違いすぎるからな。

 エディタを操作し、いくつか、確かめたい部分をチェックしてみた。非常によく練り込まれた画面構成になっていて、痒いところに手が届くというか、使い勝手は素晴らしい。レスポンスも快適だ。


「よし……。今は、これくらいにしとこう」


 いったん、エディタを閉じ、GUIをシャットダウンさせて、タマとの接続を切った。


「シューリョー。パパ、オツカレサマ!」


 タマは、にっこり笑って告げた。いや本当に疲れた……。

 それを眺めてたルードが、穏やかに声をかけてきた。


「どうです、使い心地は。完全物質のGUI化は、前々から構想していたのですよ。今回は丁度よい機会かと思いまして、新設計のOSを組み込んでみたのです」


 そこらへん設計したのオマエかよ。そういや林檎派だったな。ベースはウィンドウズじゃなくてマックか……。


「いい具合だった」


 と、俺はあえて多くは語らなかった。


「ほうほう。そんなにタマの具合がよかったか」


 ツァバトは横で、にこにこ笑いながら、なんか言ってる。微妙に誤解を招きそうな言い草はやめてくれんかね……。

 試運転の結果は上々。プロテクト領域へのアクセスも問題なくこなせた。


 これならば。

 チーの蘇生も、可能なはずだ。



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