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848:保護者へのお知らせ



 よし完成!

 っと、タマに服を着せ終えた。


 白ブラウスに紺のジャンパースカート、白ソックスに青いローファー。

 銀髪に赤い髪留めでワンポイント。


 ってな感じだが、少々野暮ったい印象もなくはない。

 俺のセンスがどうこうっていうより、まともな状態の服が少なくて、あまり選択肢がなかった。


 先日の魔王城凍結事件の際に、当然この部屋も丸ごと凍り付いており、タンスやクローゼットの中まできっちり凍って、相当数の衣服にダメージがあったようだ。

 それでも、そもそもこの後宮に現状、子供なんていないから問題なかったんだよな。今はたまたま緊急事態というか。


「パパ、ドウ? ニアウ?」


 鏡の前に立って、ちょっぴり嬉しそうなタマ。


「よく似合ってる。かわいいぞ」


 と、頭を撫でてやると、「タマ、カワイイ!」と、おおはしゃぎ。

 ううむ。髪色や瞳の色がちょっと常人離れしているが、それ以外は普通に可愛らしい娘だ。


 外見は女子中学生、中身は二歳か三歳ぐらい。

 ただ、タマは、ほんのついさっき生まれたばかりの人造生命だ。そう思えば、知能や情緒はすでに相当なものが備わってる。


 タマに人間と同じような学習能力があるなら、外見と中身のギャップは早々に埋まりそうだ。


「アークよ! 見るがよい!」


 さっきまで部屋の隅でモソモソやってたツァバトが、鼻息荒く声をかけてきた。

 で、見てみると。


 部屋のど真ん中で、ものすっごいドヤ顔で腰に手を当て、両足を張って立っている、青いスモックの幼女がひとり。

 ご丁寧に、頭には黄色い帽子、肩から腰へ、斜めに黄色い紐付きバッグをかけ、スモックの下からは赤いスカートがのぞいている。たぶん吊りスカートのたぐい。


 細い両足には、白いハイソックスに、茶色スリッパ。

 これは園児だ。


 どこに出しても恥ずかしくない、立派な幼稚園児が、そこにいた。


「どうだ? アークよ。我、可愛いだろう?」


 自信満々に問いかけてくるツァバト。

 うん。確かに可愛い。


 スモックの胸には「シァバト」と書かれた花形の名札がついてる。なんで日本語のカタカナ。しかもシとツを間違っている。たぶん自分で書いたんだろうなこれ。ガイジンにはシとツの区別が難しいと聞くが、そういうことだろうか。


「我のお色気に魅了されたか? 興奮したか? なんならこの場で襲ってくれてもよいのだぞ? ほれほれ、汝の思うがままに、存分に蹂躙されてやろうではないか」


 蹂躙されるほうが言う台詞じゃねえぞそれ。スカートぴらぴらさせるのやめなさい。はいてるのは変わらず、かぼパンか。いやそれも可愛いとは思うけどさ。

 もちろん色気なんて皆無だ。いかにも幼児らしい、微笑ましい仕草にしか見えん。


 だが、ほんの少し気を緩めれば、こんな園児にすら本当にダイブしかねないのが今の俺様だ。エロヒムの怨念おそるべし。

 それを百も承知でスカートぴらぴらしてやがるツァバトもタチが悪い。どこまで俺が耐えられるか、試してるフシすら見られる。


「ネエ、パパ? アノオバサン、ダアレ?」


 タマが今更ながらに訊いてくる。さっきからずっと一緒にいたのに、本当に今更だ。

 ツァバトは、肉体的外見だけはタマよりずっと年下だが、中身は数十億年という悠久の時を経てきた大精霊様だからな。園児コスプレしてても、やはりこう、隠しきれない加齢臭っぽいものが滲み出ているのかもしれん。


「タマよ。我は、この世のあまねく知識を司る者、ツァバトである。オバサンではないぞ。お嬢様と呼ぶがよい」


 なんでお嬢様やねん。


「ンー……?」


 タマは、ちょっと困惑顔を浮かべたが、すぐに何か思いついたようだ。


「オバアチャン!」


 さらに年増感アップした。

 その後しばらく、二人で何か言い合ってたが、最終的に「ツァバトオネーチャン」で結論が出たようだ。


 姉って感じでもないけどなツァバトは。タマがそれで納得してるなら、俺は何も言うまい。






 おめかしを済ませた二人を引き連れ、再びルードの研究室へ転移。

 冷凍室はすっかり片付けが終わって、謎の二身合体装置は、ぴかぴかにお掃除されていた。トッカータとフーガの演奏も止んでいた。なんだったんだあのBGM。


「やあ、すっかり見違えましたね」


 爽やかなイケメン微笑で出迎えるルード。

 ひた、と足を止めるタマ。


 しばし、じっとルードの姿を見上げて。


「オジチャン?」


 ぽそりと呟いた。

 ルードはイケメンスマイルを張り付かせたまま、俺のほうへ顔を向けた。


「あの、アークさん。こちらのタマさんですが、視覚か言語野に何らかの異常があると思われますので、いますぐ肉片レベルまで徹底的に解体して細部を調査したいのですがよろしいでしょうか」

「よろしいわけあるかい」


 俺は即座に突っ込みを入れつつ。


「タマよ。こういうときは、嘘でも、おにいちゃんと呼んであげるんだ。男を喜ばせる基本テクニックだ」


 そっと、タマに諭してやった。


「ウン、ワカッタ。エット……オニーチャン!」


 このうえなくわざとらしい声、しかし悪意ゼロの無邪気な笑顔で、そう呼ばわるタマ。


「……なるほど、異常は気のせいのようです。解体はやめておきましょう」


 ルードは、穏やかに微笑みながら、うなずいてみせた。

 こいつ、意外に大人気ないな? なんか非常に珍しい反応を見た気がするぞ。おじさん呼びくらい、広い心で受け流してやればよかろうに。


「ルードよ。マニュアルは作成しておるな? アークに渡してやるがよい」


 園児ツァバトが横から声をかける。


「ええ、さきほど印刷しておきました。どうぞ、アークさん」


 ルードは、紙をひと束、ざざっと取り出して、俺へ手渡してきた。

 これは……。


 昔懐かしい、藁半紙! それに黒インクの活字印刷!

 いわゆる、藁半紙のプリントだ! どこの小学校の保護者へのお知らせだ?


 しかもそれを三枚、きっちり端を揃えて、右上でホチキスで止めてある! なぜホチキスがここに?

 懐かしくて、つい感動すらおぼえかけたが、ツッコミどころしかない。


 あとマニュアルって何の? と見てみると。


「万能有機生体完全物質インターフェース・ユニット『タマ』使用上のご注意」


 ってタイトルが付いてる。

 タマの使い方、ってことか?



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