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847:魔王城の子供部屋


 後始末といっても、シーツのアレについては、一瞬でカタがつく。

 どこぞの転生者みたいに、その部分を四角に切り取って神棚に飾って拝んだりはせん。どこからそんな発想が出てくるんだ。凄すぎる。


 俺は、生活魔法「分解促進」を発動させた。たちまちシーツは真っ白に浄化された。これでよし。

 問題はだな。アフターケアというか、なんというか。


 二人、全裸でベッドに並んで腰掛け、身を寄せつつ。


「パパー……」


 俺の腕にしがみつきながら、ちょっと恨みがましい目を向けてくるタマ。


「イタカッタ……」


 うん。まあ。そうだろうな。だいぶこう、なるべく優しめに、頑張って工夫したんだがな。それでもこう。


「すまなかったな。もうしないから」


 と、タマの頭を撫でてやると。

 タマは、たちまち機嫌を直して微笑んだ。


「ウン。ユルス! パパダカラ!」


 許されたらしい。俺がパパだから。

 どんな理屈かさっぱりわからんが、当人がそれでいいのなら、俺も気にしないでおこう。


「アノネ、パパ。トウロク、デキタヨ」


 タマは、ふと表情をあらため、告げてきた。


「コレデ、タマ、パパノモノ。ズーット!」


 遺伝子情報の登録とやらが完了した、というお知らせらしい。スマホのユーザー登録みたいなもんだろうか……。

 といっても、タマの何をどうすれば、完全物質として「使用」可能なのか、皆目見当がつかん。見ためはただの可愛い女子中学生だしなあ。


 結局、そのへんはルードとツァバトに訊くしかないな。なんなら説明書とか作ってもらおうか。


「よし。タマ、さっきのところに戻るぞ」

「ン、ワカッター」


 俺が立ち上がると、タマは、ぴょんと跳ねて、俺の胸にしがみついた。

 転移魔法を発動させ、研究所の冷凍室へ。


「おや、お早いお帰りですね」


 ルードは、がちゃがちゃと機材を片付けていたが、俺たちの姿を見ると、手を止めて声をかけてきた。


「もう少し、ゆっくりされるかと思っていましたが」


 そのルードの脇では、かぼパン一丁半裸幼女大精霊ことツァバトが、なぜか嬉しげな顔を向けてきている。

 おいおい、どこをそんなに興味深げに……。


「アークよ、全裸で戻ってくるとは、いかなる了見だ。そんなに我に見せびらかしたいか、ご立派なやつを。うむ、いや、いくらでも見せてくれてよいぞ」


 あ。しまった。

 服着るの忘れてた。


「だが、汝は全裸でもよいか知らぬが、そろそろタマに服を着せてやったらどうだ。そういうところだぞ。まったく女への気遣いがなっておらぬ」


 かぼパン一丁の幼女にいわれたくないわ! オマエこそいい加減服着ろや!






 結局、また魔王城の後宮へ戻った。今度はツァバトも一緒だ。

 まず先刻のダブルベッド部屋に戻って、床に脱ぎ散らかしてた服を、ささっと着なおした。


 続いて、ちょっと広い空き部屋に、三人で転移。

 ……かつて人間の王国を滅ぼした際、連行した貴族らのなかには、まだほんの小さな幼児も少なくなかった。


 この部屋は、そういう子供ら、とくに女児のために用意した雑居部屋だ。なんと六十年も前の話である。

 ところで男児については、全員、城のサキュバスどもに玩具として与えたため、その後どうなったかは俺も知らん。なにせそれから六十年も経ってるし、たぶん全員死んでるはずだが、いちいち報告など求めておらんので把握しとらん。


 一方、ここには、まだ夜伽どころか女官見習いすらさせられない、年端いかぬ幼女少女らを放り込んで、食事、衣服、寝具など、それなりの贅沢品をふんだんに与えて、割と好きなようにさせていた。内装は完璧に幼稚園だった。

 やがて成人し、正式に後宮に入った娘は半数ほど。あと半数は残念ながら病死や事故死などで失われた。


 この雑居部屋出身の娘たちで、今なお健在なのは三人しかいない。

 もちろん三人とも、すっかりいい歳のばーさんになっちまってるが、先日の魔王城凍結事件でもしぶとく生き残っていた。よほど生命力が強いんだろうな。この先も、相当長生きしそうだ。


 空き部屋となった現在でも、内装などは当時のまま。箪笥やクローゼットに、相当数の子供服が残ってるはずだ。


「ツァバト、おまえは勝手に好きなのを探して着ろ。タマの服は、俺が見繕ってやる」

「ふっ、よかろう。我のファッションセンスで、汝を悩殺してくれるわ」


 ツァバトは、意味不明な言を吐きながら、嬉々として箪笥を漁りはじめた。そこ、幼児用のシンプルなスモックくらいしか入ってないはずだが……まあいいや、放っとこう。


「パパ、ナニスルノ?」


 タマが、不思議そうな顔つきで、俺の後をついてくる。

 大きめのクローゼットを、ばかん! と左右に開くと、少女用のワンピースやブラウス、ジャンパースカートなどが、ハンガーに吊られて並んでいた。


 経年劣化か、色褪せてしまってるものも多いが、どうにか着られそうなものをいくつか見繕ってやる。

 肌着にソックス、あと、下着……ドロワーズでいいよな。もしサージャがこの場いれば、色々解説してくれるだろうが、俺にはドロワの細かい違いなんてわからん。とりあえず箪笥から、サイズが合いそうなのを引っ張りだした。


 それと靴も。可愛らしいローファーがいくつかシューズボックスに並んでいるので、ここからサイズが合うのを選ばせよう。


「タマ。これを着てみようか」

「ンー。ドウヤルノ?」


 ふむ、そこからか。

 仕方ない、俺が着せてやるか。


 俺は、ドロワを手に、タマの前にしゃがみこんだ。


「はい、片足あげて」

「コウ?」

「よし、そのまま」


 まずは、パンツをはかせて、と。

 なんか傍目には、倫理的に完全アウトな状況になっちまってるが、他にどうしようもねえしなあ。


 子供のお世話って大変だな……。



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