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844:泥と林檎


 怪しげな合成作業も、いよいよ佳境というところ。

 なぜか音量アップして、ガンガン響いてくるトッカータとフーガ。


 いやこれ、どっから鳴らしてんだ。いちいち訊ねる気にもならんが。

 床には巨大な魔法陣。そのバックに二本並ぶ巨大ガラスケース。


 片方には、俺様から切り離したアレと、おそらく何千人分にもなるエルフたちから一番絞りした髄液とを超高速魔法合成して出来上がった、赤黒いスイカ大の球体。

 完全物質の一種ということになるが、正式名称は無い。強いて名づけるならば、アーク球とでもいうか。


 もう一方のガラスケースには、かつて二代目勇者の肉体であった、バラバラ凍結物体。

 もともと面影も見えないぐらい真っ白にカチンコチンに凍り付いていたが、瞬間移動の際の衝撃で、原型もとどめないほど崩壊してしまった。


 バラ売り勇者肉とでもいうか、なんというか。ルードがいうには、品質に問題はない、とか……。

 なんともツッコミどころしかない状況だが、これもチーを救うため。


 俺はあえて、黙して状況の推移を見守った。


「いま、材質の読み込みと、予測演算を行っています。こちら側で加える魔力量を最適化し、確実に合成をやりとげるため、必要になる作業です。バイナリデータはこちらのデバイスに出力されるようになっておりまして……」


 いつの間にか、ルードはなんかスマホっぽいものを片手に、画面をちょいちょいタップしては、首を傾げたり、ふんふんうなずいたりしている。

 よくみると、そのスマホっぽいデバイス、背面に欠けた林檎のようなマークが……いや。まさかな。そんなものがこの世界にあるわけが……。


「気になるか? あやつ、林檎大好きだからな。泥派の我とは、そこだけは意見が合わぬ」


 唐突にツァバトが語った。俺の胸にしがみついたまま。いや林檎とか泥とかそのまんまじゃねーかよ! この世界に妙なモン持ち込んでじゃねーよ大精霊ども! きのこたけのこ戦争よりタチ悪い!


「あの林檎のやつを、バイオ演算機や合成装置とWiFi接続して、インターフェース兼モニターとして用いておるのだ。タッチパネルのレスポンスの快適さは認めざるをえん。それでも我は泥を使うがな!」


 とツァバトがなんかギリギリな発言をしている。WiFiて。いつ、どこから、そんな技術を導入したんだこの世界で。

 まさか林檎社も、自分らが作って売ってるデバイスが、異世界の邪●の館でインターフェースとして活用されてるなどとは夢にも思うまい……。


 こいつら、通話料とかモバイルデータ通信料とか払ってんのかな? どこに?





 ふと、ルードがタップする手を止めた。


「条件はすべてクリアされました。最終段階に入ります」


 おごそかに告げる。

 おお。俺様のタマタマ、すなわちアーク球と、先代勇者の冷凍肉。これを合成して、いったい何が出来上がるのか。


 非常に興味深い。ちょっと楽しみですらある。


「ふふふ。汝の出番も近いぞ。準備はよいな?」


 ツァバトが、さっと俺の胸から離れて床に立ち、楽しげに囁いた。

 いや準備といわれても、具体的に俺が何をするのか、まだ聞いてねえんだが……。


 なにをやるにせよ、ここまで来たら細かいことは気にしてられん。もう何でも来やがれってんだ。


「では……行きます」


 いよいよBGMのトッカータとフーガが耳を聾する大音量で鳴り響くなか。

 ルードは、先ほどと同じように、合成装置の脇に突き立っているレバーを、カクンと引き倒した。


 バチバチッ! と、二つのガラスケース内に、激しいプラズマっぽい何かが奔る。おそらく、装置側から添加された魔力の閃きだろう。

 その魔力が、ガラスケース内の素材を分解し、ケース下に据えつけられたケーブル類を通して、床の魔法陣へと転送している様子が見てとれる。


 次第に、その魔法陣が輝き、ぐんぐんと明度を増して、目にも眩い光を、ブシュゥン! と、真上に放った。

 光が収まったとき――。


 ぷしゅうぅ、と、白いモヤが、周囲に漂った。

 そのモヤの只中、魔法陣の上に、小さな人影が見えた。


 ……は?

 人影?


 次第にモヤが晴れてゆく。

 そこに立っていたのは……。


 銀髪赤目の、小柄な少女。当然のごとく、全裸。

 その口がゆっくり開いた。


 たどたどしい声が響く。


「ワタシハ、ゲドウ、ナマエ、マダナイ……コンゴトモヨロー……」


 種族は外道で、名無し……。

 外見は、髪と目の色が異様なことをのぞけば、ほぼ人間。見たところ十四、五歳くらいの女子。


 肌は雪のように白い、でも凍り付いてはいないし、見たとこ無機物のたぐいでもない。

 体毛こそないが人間の素肌と変わりないようだ。


 胸も、きっちり膨らんでいる。

 ふと、その外道名無しちゃんと、目が合った。


 それまで無表情だったのが、ぱぁぁっ、と、花が開くように、満面の笑顔に変わった。

 え? なに? 何が起こってる?


 少女は、いきなり床の魔法陣を蹴って、俺のほうへまっしぐらに駆け寄ってきた。


「パパー!」


 声をあげつつ、心底嬉しそうに、俺の胸へ飛び込んでくる銀髪少女。

 はぁ?


 なんて?

 パパぁ?


 俺様がっ?



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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、種を提供したのは間違いないからパパであってるんでしょうかね? ということは先代勇者がママ?
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