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840:霊をもって霊を切る


 まずは、掌に載せた賢者の石に、魔力を注ぎ込む。

 賢者の石の起動自体は、ごくわずかな魔力を表面に浴びせるだけでいい。


 以前は、神魂の覚醒のために、そこからさらに強いエネルギーを生成する必要があり、デタラメな魔力を石にぶち込む羽目になった。

 また、大雑把な状態改変程度なら、エディタを起動させず、ただ少量の魔力を注ぎながら思念を送るだけでも、およその目的は果たせるようになっている。たとえば漬物に「おいしくなーれ」とかな。


 今回は賢者の石を純粋な生体プロセスメモリエディタとして用いるだけなので、余計な魔力は一切必要ない。

 石が真紅の輝きを帯び、同時に俺の視界に半透明のウィンドウが浮かび上がる。曇りガラスに黒い文字列が並んでいるような。VR……いやスマホのAR? 感覚としては、そういうのに近いかも。


 この画面内の文字列は、他でもない俺自身のありとあらゆる物理・精神データが格納されたデータアドレスと、その現在の状態を示す数値の組み合わせ。これがメモリエディットという、賢者の石のインターフェース機能だ。

 俺自身もエロヒムの権能として、よく似たメモリエディタを脳内に呼び出すことができる。しかし賢者の石のほうが高性能だ。さすが初代魔王のタマタマから作られただけのことはある……。


 一見、膨大かつ、まるで意味不明な文字列が画面を埋め尽くしているようにみえるが、俺は以前にもこのへんを参照して実際にいじくってるんで、扱い方はよくわかっている。

 えーと、俺の肉体強度を示すアドレス……ここだ。


 あ? 破壊不可属性? いつの間にこんなフラグが。俺はダンジョンの壁かなんかか。

 ではまずこのフラグをちょいちょいっと書き換えて消去、っと。


 続いて具体的な最大物理耐久値……つまり最大ヒットポイントだな。16進数で数千桁、ひたすらFFFFが並んでやがるぜ。

 なお、魔王時代の俺様の最大HPはFFFF、つまり65535だった。


 しょぼいようだが、実は普通の人類が極限まで肉体を鍛えても、FF……255にも届かない。あのハネリンで、せいぜい200ぐらい。魔王の最大HPがいかに凄まじい数値か、わかるはずだ。

 でもって現在の俺様のこれ、どんだけあるのか……もう計算するのもアホらしいというか。ここを無理にいじる必要はない。


 次に参照するのは、物理強度。これも膨大な数値だが、特定の部位付近にのみ範囲を限定し、一気に最低近くに書き換える。

 常人レベルの肉体強度……だいたい1Aぐらい?


 うん、これくらいにしとけば、アエリアの刃で特定部位の自傷が可能になるはずだ。書き換えてセーブ。

 続いて、霊体関連のステータス。


 ここも異常な強度と耐久度が書き込まれている。切り出しやすいよう、ざざざっと強度を下げて……と。

 これで準備完了。


 賢者の石のインターフェースを閉じて終了させる。

 どうせ後でまた元の数字を書き込まなきゃならんが、メモリエディタの「元に戻す」機能を使えば簡単に修復可能。いやぁ便利だな賢者の石って。


 ……なんか「思ってたんと違う」感がないでもないが。

 ここ一応ファンタジーっぽい異世界のはずなのに、なんで錬金術の集大成というべき賢者の石が、エディタ内蔵のチートツールみたいになってんだかな。





 いま俺が右手に握るは、魔剣アエリア。

 銘剣ミストルティンに天魔将軍アエリアの霊魂を封入した、おそらく史上最高級の魔剣である。


 魔剣とは、刀剣に魔族の霊魂を封じて、切れ味と耐久性を強化した武具。

 初代魔王がその製法を確立し、自ら鍛造したのが魔剣のはじまりだとされる。


 なんか地味に色々作ってんな初代魔王。実は発明家でもあったのか?

 そういやアンデッドも、もとは初代魔王が命じた特殊な研究の結果として産み落とされた失敗作だと聞いたな。それでアンデッド化した樹木がトレントだとか……。初代魔王、侮れん。


 で、魔剣の特徴として、魔族の霊魂が封入された刃は、ただ切れ味や強度が増すだけでなく、対象を「霊体ごと」切り裂くという特殊な効果を持つ。肉体はただの物理的な刃で切れるが、非物理存在たる霊魂は、そうはいかない。

 ゆえに、霊をもって霊を切る……そういう効果を持たせた武器が魔剣であると。


 初代魔王が魔剣というものを自ら考案、鍛造した理由も、ここにある。

 完全物質の素材となる、自身のアレと、霊魂とを、同時に切り出すために、魔剣をつくりあげたのだ。


 ……てな話を、ついさっきツァバトから聞かされた。

 ショックだった。


 いやだって、魔剣だよ。中二病全開のカッコイイ武器だと思うじゃん。

 まさかそれが、もとは魔王のタマタマを霊魂ごと切るための道具だったとか、真顔で聞かされてみろ。


 こっちはどんな顔すりゃいいのかわかんねーよ。

 ……もういい。


 俺はさっさとアエリアの刃を返して逆手に持ち、さらに刃を真下にかざして、わずかに魔力を流し込んだ。

 そうすることで、霊体を斬る効果を、刃から引き出すことができる。


 ――えー? マジで?マジで切っちゃう? いやーん、えっちー。


 脳内でアエリアがなぜか嬉しそうに囁いてくる。なんでそんな昭和チックな語彙……。

 ともあれ、ちょっと集中して――右手を、すっと真横に振るった。


 ぼとり、と何かが床に落ちた。

 本格的な出血が始まる前に、素早く自分に回復魔法をかける。


 一瞬で傷口はふさがった。痛みもそれなりに感じたが、素早いお手当てでスッキリ回復。

 あとに残されたのは、床に転がる、モザイク必須のグロい物体。


 ……キレイに、すっぱりと、何もなくなった、自分自身の下腹部と、その血まみれのグロ物体を交互に眺めつつ。

 わかっていたことではあるが、実際にそうなってみると、なんとも微妙な心境になった。


 一応、すぐまた生やすことも可能だが……。

 せっかくだから、しばらく女装でもしてみようか? 駄目か?



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