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839:ご立派なやつ


 俺は魔王ではあるが、トラックに轢かれて転生し、勇者となった。

 ゆえに、この肉体は人間の勇者。霊魂はいまも変わらず魔王であるため、問題はない……とルードは言う。


「触媒に用いる肉体部位は、魔王でも勇者でも、どちらでもいいんですよ。ただし霊魂は、魔王のほうが適しています」


 だそうで。

 かつて初代魔王は、自らの肉体と霊魂の一部をすっぱり切り出し、完全物質の素材とした。


 用いた部位は……自身のアレと、玉。

 ただし文献によれば、、初代魔王は常時身長二十メートルを超える巨体。かつて俺が魔王時代に使用した巨大化モードが、初代魔王にとってはむしろデフォルトの姿だったようだ。


 当然アレや玉のサイズも、少なく見積もっても常人の十倍以上にご立派なものであったろう。三大完全物質の素材として、必要十分な量のはずだ。

 つまり現在でも地下で稼働中のエリクサーや、森ちゃんの依り代となっている仙丹は、もとは初代魔王の……。


 あまり深く考えるのはやめよう。とくに森ちゃんについて。

 いやべつに森ちゃんが実は初代魔王のご立派なアレに憑り付いてる猟奇的変態だったなんて全然思ってないよホントに。いやもう全然。


「あやつも昔の魔王と、色々あったのだ。あまりそのへんには触れてやるでない」


 ツァバトが俺の思考を勝手に読み取り、しみじみと呟いた。

 えっ森ちゃんて初代魔王となんか因縁が? てことは本当に、委細承知のうえで仙丹に憑り付いてるわけ?


 それってやっぱ……いや。

 深く考えるのはやめておこう。なにせここは中央霊府のエリュシオンにもほど近い場所。森ちゃんにも俺の思考が筒抜けな可能性がある。森ちゃんはそういうことする。


 下手なことを考えて、時空間を操る精霊を怒らせるわけにはいかん……。

 いや、でもなあ。初代魔王のなあ。ご立派だったのだろうな、とか……。


「いやいや、汝のも、なかなかご立派であるぞ。胸を張るがよい」


 ふとツァバトが、優しくささやいてきた。


「いやオマエに見せた憶えはないが」

「なに、我がその気になれば、どうとでもできる。入浴時にコッソリ覗くぐらいはお手の物よ」


 叡智の大精霊様が俺様の風呂覗いてんじゃねえ!

 なんでちょっと頬染めて微笑んでんだよツァバト! 思い出してニヤニヤすんじゃねえ!


「……冗談はこれくらいにしてと」


 ツァバトは、俺の腕から飛び降り、ちょこんと床に着地した。俺にしがみつくのも、ようやく飽きたか。

 俺はなんとなくそんなツァバトの頭に手を置き、髪をわしゃわしゃ撫でてやりつつ、疑問を口にした。


「んで、具体的に、どうやって俺の肉と霊を切り出すんだ? 生半可なことじゃ無理だぞ?」

「そうですね。なにせアークさんのお体は、刃物なんて一切通しませんし」


 俺の疑問に、ルードがうなずいてみせた。


「おぉー……そうそう、そのへん、もっと撫でるがよい」


 俺に髪をくしゃくしゃ撫でられて、ツァバトは心底気持ちよさげに息をついた。床屋の客かおまえは。可愛い。


「ぁー……そこらへんは、心配いらん。賢者の石を持ってきておるのでな」


 いきなり、とんでもないことをツァバトが告げてきた。


「なにぃ? あれは、俺が壊しちまったはずだが……」

「賢者の石のオリジナルは、本来、二個一対になっておってな。なにせ大元の素材が、魔王の……その、タマタマなのでな」


 あー……そうか。タマとタマ。うん。なるほど。そりゃ二個一対だよな。

 それにしちゃ小さい石だったが……めちゃくちゃ圧縮されてたとか? あるいはガワを削りまくって、あえてコンパクトに仕上げた可能性もあるか。


「魔王は、完成した二個の賢者の石のオリジナルのうち、ひとつを自分の手元に置いて、いまひとつを我に預けおったのだ。万一、片方のタマが失われた際のバックアップということでな」


 なるほど。そんな魔王の片タマを、よりによって俺が砕いてしまったと……。

 ……そういえば、邪神ワン子との戦い――いまでこそJKの皮を被ってるが、あのときは極大質量で何でも呑み込む化け物だった――の直前に、ツァバトが言っていた。完全物質は持っていると。あれはそういうことだったんだな。


 ともあれ、ここに賢者の石があるなら、それを用いて俺様の生体データに介入することが可能だ。

 俺の肉体を大幅に弱体化させ、刃物が通るようにしてしまえばいい。


 似たようなことを以前、「プリンセス・バーナー」という仙丹の模造品でやっている。

 あのときはボッサーンの罠に嵌まって進退窮まっていた。そこで自殺して、ウメチカの教会にワープ復活するという対処法を思いつき、やむなく、そういうことをやったものだ。


「ならば、切り出すのは、俺が自分でやる」


 なんせ切り離すのは俺様の大事な大事な分身だ。治癒魔法を使えば、すぐまた生えてくるだろうが、さすがに余人の手を借りるわけにはいかん。


「いやいや、我がやってやろう。それはそれはもうスパッと、キレイに切り離してやるぞ?」


 ツァバトがニヤニヤしながら提案する。


「おまえにそんな技術無いだろ?」


 にべなく拒絶するや、ルードが横から言う。


「ならば、わたしにお任せを。人体を切り刻むのは得意中の得意ですよ」

「物騒にも程があるわ!」


 ルードに任せたら、ついでとかいって、余計なもんまでザクザク切り落としかねん。十二指腸とか。


「さっさとやってしまおう。賢者の石を貸せ」

「仕方ないな。ほれ、大事に使うのだぞ? 貴重なタマタマだからな」


 そう言いつつ、ツァバトは懐中から赤い宝石を取り出すと、まったく無造作に、俺に放って寄越した。

 言ってることとやってることが違うじゃねーか! もっと大事に扱ってやれよ魔王のタマタマ!


「じゃあ、ちょっと切ってくる。おまえら、そこで待ってろ」

「ん? 見物させてくれぬのか?」

「誰が見せるか! いいからおとなしく待ってろ」


 俺は二人を置いて冷凍室を出た。

 スパコンもどきの大型演算装置が居並ぶ、体育館のような大空間。


 その片隅で、俺はさっさと服を脱ぎ捨て、全裸となった。

 アエリアを抜いて右手に握り、左手に賢者の石。


 傍から見たら……変態だこれ。

 仕方ねーじゃねーか、服が血まみれになっちまうからな。


 気を取り直し。

 さあ、セルフ宮刑の始まりだ。


 チーの蘇生のためとはいえ、こんなとこで何やってんだろう俺……。



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