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836:発明者


 大型有機魔力演算装置――スパコンに倣った構造を擁する、巨大な生体コンピューター。

 その演算能力は秒間四十京。俺が知る時代のスパコンより処理能力は高いようだ。


 それで具体的に何をやってるのか?

 ツァバトの説明によれば……。


 現在、ツァバトとルードは、この世界における真の神様……いまはまだ眠りについている「創造主」の復活の可能性、その時期、復活の前後に発生するであろう各種の影響などの予測を、共同で行おうとしているのだとか。

 そういやほんの十日ほど前、ルードと、神魂ことシャダイが、創造主の復活がどうとか言ってたっけな。もう何年も前のことのような気がするが十日前である。


 このスパコンもどきは、その少し前くらいにツァバトが完成させ、ルードが管理を行っている。目的はむろん、創造主に関わる予測演算。本格的な稼動はまだ先のことらしい。

 ようするにチーの現状と直接関係があるものではなく、本来まったく別の目的のために開発され、現在は試運転中というわけだ。


「この生体演算機の処理能力を用いて、近頃、とあるアプリを開発した」

「アプリ?」


 アプリって……そんな技術、この世界にあったのか?

 どれほど処理能力の高い演算機であろうと、それ自体はコア部分でしかない。


 演算能力を活用するための入出力機器、作業領域、記憶領域などのハードウェアと、それらを制御するオペレーティングシステムなど、色々と乗り越えるべき壁があると思うんだが。

 そのへん全部あっさりクリアして、アプリの開発だと?


「最も大きなヒントをくれたのは、かの白い船……ブランシーカーだったか。あれがこの世界に出現したことで、本来、我が知るべくもない異世界の技術が、この世界のものとして認識できるようになったのだ。一度そうなってしまえば、我はいかなる技術も叡智も、居乍らにして閲覧観象し、把握することができる。あの巨大な船体を制御するメインコンピューター、それを制御するOS、ユーザーインターフェース、アプリケーション製作。もはや我に理解しえぬことなど何も無い」


 なんか、買ってきたスマホの使い方を学んで色々わかってきた年寄りみたいな言い草になっとる……。

 ブランシーカーは、あのゲーム異世界の技術の結晶みたいなものだ。それを詳細まで把握したなら、そりゃ得るものは大きかろう。


 で……そんな外来の新技術を駆使して、ツァバトが作ったアプリって?


「完全物質高速生成プログラムだ」


 さらっと、ツァバトは答えた。





 現状、この世界に本来の姿で現存している完全物質は、エリクサーと仙丹の二つのみ。

 賢者の石は俺が消滅させてしまったからな。


 エリクサーはこの世界の地下にあって、現在も自律稼動を保ちながら、膨大な魔力を供給し続けている。大陸南部を網羅する地下通路から、超古代地下都市サカエドに至るまで、きわめて広い範囲のエネルギー源として稼動している。

 ゆえに、あれを下手に動かしたり壊したりはできん。もしエリクサーがなくなれば、地下からあらゆる照明が消え、動力は停止し、サカエドも滅亡必至の大惨事となるだろう。


 そういやエリクサーの設置場所にはアンデッドの番人がいるんだったな……いろいろ忙しいせいで、すっかり忘れてたが、あれもぼちぼち迎えに行ってやらねば。

 仙丹のほうは、エルフの森の中枢、中央霊府の地下神殿エリュシオンに安置されている。長老に選ばれしエルフへ、不老不死を付与する能力があり、なぜだか事情は不明だが、エルフの始祖たる森ちゃん……森の大精霊の依り代ともなっている。


 森ちゃんは大精霊といっても、ツァバトら四分霊と違って、生まれながらの精霊ではなく、太古、肉体を捨てて精霊化した存在のようだ。今の俺も、徐々にそうなりつつあるようだがな。

 完全物質とは、一言でいえばチートツールである。この世界のあらゆる事象をデジタルデータに変換して介入し、データアドレスをサーチし、その格納数値をいじくり回すことができる。


 たとえば、いまそのへんに転がってる石のデータを書き換えて、天まで聳える岩山にしてしまうことも可能だ。北霊府の政庁のデータを書き換えて犬小屋にするも自在。完全に無から有を生み出すことも可能。

 真空から対価無しで山吹色の菓子を生み出して、悪いお奉行に渡すこともできる。これで今日から俺も越後屋だ。おぬしも悪よのう。いえいえお奉行様ほどでは。


 ……本来、このようなデータアドレス介入というチートは、ツァバトら四分霊だけが持つ権能、いわば神の力だった。

 しかし、この世界の生命体のデータは、基本的にプロテクト領域と呼ばれる不可侵のデータアドレス領域に収まっており、四分霊でも直接介入することはできない。


 閲覧は可能なんだが、勝手に書き換える権限は与えられていないのだ。その点は四分霊エロヒムの権能を引き継いだ俺も同じである。

 無機物は割と好き勝手にいじくれるが、有機生命体のデータは触れない。そういう制限が四分霊にはある。


 はるかな過去、このプロテクト領域を突破しようと、とある人物が四分霊の能力を解析して、チートツールの開発研究を始めた。

 千年近い膨大な時間と、果てしない試行錯誤のすえ、その人物はついにチートツール製造に成功した。それが賢者の石をはじめとする、三つの完全物質である。


 その三大完全物質の産みの親というのが。


「我ら外来の霊的存在と異なり、この世界に自然発生した、いわば土着の神霊というべき存在。すなわち、初代魔王。彼こそが、完全物質の発明者です」


 と、いきなりルードが告げてきた。

 完全物質って、実は、初代魔王が作った物だったのか?


 ……なんとなく、俺がここに呼ばれた理由、見えてきた気がする。

 大型演算装置。完全物質高速生成アプリ。魔王。


 導き出される答えは――。



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