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831:親子点描


 サリスの手を取って瞬間移動。

 メイヤー未亡人は、律儀に俺が戻るのを待っていたようだ。


「サリス! サリスっ!」

「ママ!」


 暗い室内で、二人はしっかと抱擁した。大いに泣き濡れながら、声を交わしあう。


「心配したのよ……! どうしてっ、あなたは……」

「だって……パパのカタキをって……」

「あの人のことは残念だけれど、あなたが無事なら、それでいいのよ。あなたさえいてくれれば、わたしは……!」

「ママっ……! 心配かけて、ご、ごめんなさいっ」


 わんわん泣きあう二人。麗しき母娘の再会……か。

 この母娘ともども、なんというか、こう、既に俺の(自主規制)で(激しく自主規制)して(とても書けないような自主規制)しちゃってるが、それはそれということで。


「で、おまえたち」


 俺は、あえて空気を読まず、二人に声をかけた。


「今後はどうするんだ? ここでひっそり暮らすか?」

「……今後、ですか?」


 メイヤー未亡人は、きょとんとした顔を向けてきた。どうも、先のことなんて何も考えてないって顔だな。

 一応、財産家ではあるし、娘も無事に戻ってきた以上、ことさら、やるべきこともない……ってとこか。


「わ、わたしは」


 一方サリスは、キッと顔をあげて、今後の希望をはっきり述べてきた。


「騎士に、なりたいと思っています。ウメチカの騎士になって……父の罪を償いたい」


 たぶん、ルザリクでの拘留中から考えていたことなんだろう。

 もし、もう一度自由の身に戻れたら、父親の跡を継ごう、とかなんとか、そんなところか。


 どうもサリスは相当なファザコンみたいだしな。敵討ちは諦めるとしても、せめて父の生前を偲ぶような仕事をしたいと。


「……そうか。なら、後日、王宮に来い。必ず採用されるよう、軍には、俺が話をつけといてやる」


 現在、ウメチカの武官トップは、あの聖戦士アクシードだ。俺の口ききとなれば、嫌とはいうまい。


「ほ、ほんとですか!」


 サリスは、母親と抱擁したまま、目を輝かせて俺を見上げた。


「ああ、いつでもかまわんぞ。だが今は、母親のそばにいてやれ」

「はっ、はい……!」


 サリスは、涙を流してうなずいた。おうおう、なんか全力で感激しとる。

 おかげで、すっかり時代劇のラストシーンみたいな雰囲気になってしまった。


 せっかくの再会、これ以上、水を差すこともあるまい。俺も、ここでやるべきことは、もう済んだしな。


「では、またな」


 俺は瞬間移動を発動させ、メイヤー邸を去った。





 転移先は、ウメチカ王宮内の回廊、病室前。

 黒髪美女のスーさんが、すでにドア脇の床に拝跪して、静かに待ち受けていた。


「お帰りなさいませ、陛下」

「うむ」


 俺は短くうなずき、訊いた。


「容態は」


 スーさんが応えた。


「どえりゃあ元気です」


 そうか。どえりゃあ元気か。そりゃよかった。どこの方言やそれ。

 無論、俺の肉体上の母親、アナスタシアのことだ。


 目の前のドアを開き、病室内へ踏み込むと――。

 ケーフィル、アクシード、さらに医者どもまで、一斉にざざっと拝跪して、俺を迎えた。


「さすがは勇者AAAどの。噂にたがわぬご活躍、しかと見届けましたぞ」


 ウメチカ王が上機嫌で歩み寄ってくる。さすがに拝跪こそしないが、やけに恭しく一礼をしてみせた。


「よもや、あれほど重態の病を、一夜にして癒されるとは。まさに英雄の御業であらせられる」


 やけに感激たっぷりに述べるウメチカ王。なんでコイツがそこまで喜んでるのか、ようわからんが……。


「アーク!」


 病室の奥から、がばと身を起こし、声をかけてくる金髪熟女。いうまでもなく母親だ。

 ベッドを飛び降り、いきなり全力で俺の胸もとへ飛び込んできた。


「ああ、ああ、アーク、話は聞きました、あなたが私を救ってくれたのね。アーク……愛してるわ……!」


 もう嬉し涙に頬を濡らしながら、がっしと俺の腰もとにしがみつく母親。うお、けっこう腕力あるな。なるほどこりゃ、どえりゃあ元気だわ。

 ……実はこの母親、若い頃はウメチカ王宮勤務の近衛騎士だったという。同僚と結婚し、寿退職で専業主婦になったという経歴の持ち主。その同僚こそが、俺の肉体上の父親にあたるわけだ。アクシードやケーフィルとの付き合いも古く、王様とも顔馴染み。

 さらにあのルミエルとも、姉妹のように付き合っていたという。


「元気そうでなによりだ」


 俺は、ちょい引き気味に応えた。

 ついでに――。


「……いまの俺は、貴様が知っているアークではない。肉体はそうでも、中身はな」


 と、告げてやった。

 なにせ、中身は別人格の魔王だからな。とはいえアークの記憶を引き継いでるので、まったくの別人ともいえんが。


 このへん、ウヤムヤにしておいてもよかったのだが、ちょうどいい機会だ。ここにいる他の連中は、もう俺の事情も正体も知っている。アナスタシアだけ仲間外れにする法もなかろう。

 たとえそれが……親子の永遠の訣別を意味するものであったとしても。


 息子になったおぼえがないわけではないにせよ、アナスタシアはまだ三十台半ば。俺の目からすれば、まだまだ若い娘さんだ。これを母親と呼ぶのは、正直キッツいものがある。

 対して、アナスタシアの反応は。


「……そう。あなたも、そんな年頃になったのね。カッコつけて親離れしたがるのって、あなたぐらいの男の子には、ありがちだものね」


 なんか盛大に誤解されていた。誰が反抗期の中学生やねん。



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