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830:燃焼系外道式ダイエット


 すでに人払いは済ませてある。

 いまこの面会室は、俺とサリスの二人っきりだ。


 俺は手早く術式を組み上げ、詠唱を行った。

 具体的には、サリスの主要な臓器……おもに消化器系を中心に、激しい炎症を引き起こす、というもの。


 たちまちサリスは「へぐぅっ」と奇声をあげて、そのままぶっ倒れてしまった。

 体内で湧きあがる猛烈な発熱と激痛が、一瞬の間にサリスの全身に燃え上がり、意識野をも灼き切って、あまりのショックに耐えられず失神してしまったものと推測できる。


 病毒魔法は、外側から攻撃するのではく、体内に異常を惹起するという点が重要だ。

 キッカケは魔法によって外部からもたらされるにせよ、一度、体内各部に炎症を引き起こしてしまえば、あとは放っておいても高熱を発し続け、猛烈に体力を消耗させる。


 激しい体力の消耗は、溜め込んだ体脂肪を一気に分解する。

 急激な発汗によって、体内の水分も一気に失われる……おお、もうサリスの全身から汗が噴き出てきた。気絶してはいるが、まだ一応生きている。


 苦しげな呼吸。四肢が、びくびく痙攣している。大量の汗がとめどなく溢れ出て、もう床までびしょびしょだ。

 そして……もう見るから、全身、次第に痩せ細りはじめた。


 炎症による高熱で代謝がバグり、まず全身に蓄積されているグリコーゲンが発熱のエネルギー源として消耗される。

 それが無くなると、今度は体脂肪が分解され、そこからグリコーゲンが取り出される。これが脂肪の燃焼といわれる現象だ。まずは皮下脂肪、続いて内臓脂肪と消費されてゆき……。


 それらがすべて失われる頃には、急上昇した血圧によって全身の血管が破れて穴という穴から血を噴き、細胞も崩壊して、内臓はぐしゃぐしゃに溶け、もはや生命維持は不可能。

 つまり死ぬわけだが――。


 その直前。

 自ら噴き散らした血溜まりに転がり、痙攣を続けるサリス。


 まさに、あとひと息にて絶命、というところで。

 俺は慌てず騒がず、治癒魔法を叩き込んだ。


 癒しの白い燐光が、巨大な光の玉となって、サリスの全身を包み込む……。





 光がおさまると。


「……うう」


 と、呻きつつ、サリスが起き上がった。

 続いて。


「ぴゃああああー! なっ、なになに! どうなってるのこれぇー!」


 奇声を発するサリス。

 なんせ全身血まみれ、床にも真っ赤な血溜まりができている。髪も服も血でぐしゃぐしゃだ。なんともホラーな見た目になってしまっている。


「体調はどうだ? どこか痛みなどは?」


 と、俺が訊くと。


「え? あ……うん、調子は悪くない……みたい」


 きょとんとした顔で応えるサリス。どうやら後遺症などはないようだ。


「そうか。なら」


 俺は再び呪文を唱えた。

 サリスの全身、およびその周囲を、青白い光が覆い包み――。


「よし。これで後始末も済んだと」

「えっ……あ、あれ?」


 一瞬にして、サリスの血液体液その他の汚物はキレイに消え去り、まるで湯上がりのような艶姿に。

 分解促進の魔法……本来はエルフのみが使う、いわゆる生活魔法というやつ。基本はトイレなんかの浄化や、入浴できないときに身体を清めるのに使うものらしい。


 人体由来、かつ体外に排出済みの有機物を、きれいに分解してしまう働きがあるとのことで、ならばと、いま試しに使ってみた。効果は覿面だったようだ。

 昔からエルフは、生活に密着した魔法を使いこなしている種族だからな。こういう便利な魔法もお手の物ってわけだ。病毒魔法にせよ、そのバリエーションといえないこともない。


 そして、いま。

 ぷっくぷくに太っていたサリスが、全身すっきり痩せて、もとの美少女に戻っている。


「うまくいったな」


 俺は莞爾とうなずき、サリスの肢体を眺めやった。とくに、ちょっとスカートからはだけた太腿のあたりを。

 若くみずみずしい褐色肌が、健康的に艶めいて、これはまたなんとも素晴らしい光景。


「ほぁ……や、痩せてる、わたし……! す、すごいっ」


 サリスも驚きつつ、自分の腕や腹を、喜んで観察している。


「……でも、いま、いったいわたしに、何をしたんですか。なんだか物凄くヒドい目にあったような気がするんですけど」


 サリスは、少々見咎めるような目を向けてきた。すぐさま失神したとはいえ、やっぱり少しは病毒魔法の苦痛が記憶に残ったか。

 はっきりいって、いまのは酷いどころの騒ぎじゃなかったが、あえて詳しく説明する必要もなかろう。本人の精神衛生のために。


 俺はしれっと応えた。


「痩せる魔法を使っただけさ。ダイエットに苦痛はつきものというだろう? おかげですっかり痩せたじゃないか」

「はあ。それは、そうかもしれませんけど」

「ほれ、おまえの母親のところに行くぞ」


 テキトーに煙に巻いておき、サリスの手を取る。

 べつに間違ったことは言ってないぞ。痩せる魔法というか、痩せ細って死ぬ魔法だけどな。


 ……などと考えつつ、俺はあらためて瞬間移動の魔法を唱えた。

 ちょっとばかり手間取ったが、これで母娘を再会させられる。どうやら一件落着となりそうだ。


 事のついでに、まったく新しいダイエット法も完成させてしまった。

 少々荒療治ではあるが……案外、今後もなにか使い道があるかもしれん。


 魔王城に戻ったら、誰か適当に犠牲者……いや希望者でも募ってみようか。



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