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820:誰も得しない脱衣ショウ


 ウメチカ王を先頭に、ぞろぞろと王宮内の回廊を進む一行。

 俺はその最後尾について歩いた。


 脇から、スーさんが、こそっと声をかけてくる。


「わたくしめは病室前で待機しておりましょう。母御どのとは面識がありませぬゆえ」

「そうしてくれ」


 と、俺は短く応えた。そりゃウメチカの一介の平民女が、こんな動く骸骨と面識あるほうがおかしいし。うっかり不意のご対面なんか果たしたら母親がショックで死にかねん。ただでさえ死にかけてるという話なのに。


「……しかしスーさん、普段からその姿で、ここの王宮に来てたのか?」


 ふと気になったので、訊ねてみると。


「当初は、きちんと着ぐるみを着て、服装やメイクなどもばっちりキメて、おめかしして来ていたのですよ。しかし、何度目かの定期集会のときに……」


 定期集会って。もう何でもありだなこいつら。

 スーさんの説明によれば、その集会には、ある程度、地上の事情に通じている連中も参加していた。サントメールや「虹の組合」の拠点はそもそも地上側だしな。


「魔王城の宰相というのは、高位のアンデッドで、肉体はなく、干からびた骸のような外見と聞いたことがある。であれば、スーどの、そのお姿は……」


 疑惑というほど大袈裟なものではないが、着ぐるみスーさんの容姿があまりに完璧な人間の美女であるため、「なんか聞いてた噂と違う」と不思議に思う者たちが出てきたという。

 魔王城の宰相たり魔王第一の腹心たるスーさんとしては、そんな話を聞き捨てにできるものではなかった。


 いや聞き捨てとけよ、と俺だったら思うが、スーさんとしては、ここらで一度、高位魔族としての威厳と存在感を、この集団内にしっかり植えつけておくべきではないか、と判断したのだという。


「そこで……脱いでみせたのです。本当は、陛下以外の前で、そんな、はしたないこと、したくなかったのですが」


 スーさんは以前、俺の目の前で、着ぐるみの生装着をしてみせたことがある。この俺をして、想像以上にグロいプロセスだったが……。

 よりによって、その逆を、やってみせたらしい……人間たちの面前で。


 まずは背中をばっくりと割って、ずるりと着ぐるみを脱ぎ、体液したたる内臓を、肋骨からぬるり、ぐちゃりと取り出して。さらに顔面をべりりと引っぺがし、露になった白い頭蓋骨、その眼窩から、ずるんっと神経を引いて落っこちる両眼……。

 ショックで失神する者数名。ウメチカ王でさえ泡を噴いて倒れたというから、その情景の凄絶なこと、想像に余りある。


 しかし効果は覿面だった、とスーさんは得々として語る。


「おかげで、もはや私めを疑ったり、侮るような者はいなくなりました。かえって、みな私の同志たることを誓い、以前より熱心に、私の陛下談義に耳を傾けるようになりましたよ」


 そいつら、よほど怖ろしいものを見たのだろうな……。そりゃもう迂闊なことは言えんだろう。

 もちろんスーさんが「本物」であると自ら証明したことで、スーさんが語るところの陛下談義とやらにも、より一層リアリティーが加わり、勇者推しサロンはさらに盛り上がるようになった……とかなんとか。


 以来、スーさんは動く骸骨の姿のままで、けっこう気軽に王宮内をぶらついたりしているらしい。

 こう見てみると、現在のウメチカ王宮は、魔族と人間が、なにやら思わぬ形で共存している、といえる状況なのかもしれん。それが良いことなのか悪いことなのか……今の俺にはどうとも言いようがない。





 王宮内の回廊を経て、一行は、やがて診療所のある一閣へとさしかかる。中庭に面した廊下に扉が並んでおり、診察室、治療室、静養所などに分かれているようだ。

 スーさんのみ静養所の扉の脇に控え、ケーフィルがドアを開いて、「どうぞ、こちらへ」と、入室を促した。


 壁も天井も白一色の大部屋。カーテンのかかった窓のもとに、大きな天蓋付きベッドが据えられている。本来は王族専用の設備らしいが、「他ならぬ勇者AAAどのの母君の大事であるゆえ」という、王様のはからいにより、特別にここに収容されたそうで。


 折しも、ベッドの脇には二人、白衣姿の医者っぽい風貌の中年女たちが佇み、母親の容態を見ている様子だった。


「どうなのだ?」


 王様が女医らにたずねる。

 二人は揃って首を横に振った。


「難しい状況です」

「ずっと意識が戻りません。交代で治療魔法をかけていますが、衰弱の進行を遅くするのが精一杯で……」


 ふと、女医どもが俺へ目を向けた。


「……もしや、ご子息の」


 と、声をかけてきた。


「そうだ」


 俺は短く応えつつ、ずかずかと、ベッドのそばへ歩み寄った。

 俺には医学の知識など皆無だが、母親の容態が非常に厳しいものであることは、一目でわかった。


 あの美しかった顔は、別人のように痩せさらばえている。頬はこけ、肌は青白く、閉ざされた両瞼は落ち窪んで黒ずみ、はっきりと死相が滲み出ていた。

 かろうじて息はあるが、弱々しい。


「これは、一体、どういう病だ?」


 女医どもに訊いてみると。


「皆目わかりません……」

「病気というより、何かの呪いのようなものかもしれません」


 ……呪い?


「私どもがどう調べても、身体のどこにも、なんら異状は見られないのです。しかし生命力は急激に衰えています。こう衰弱が激しいと、延命措置にも限度が――」


 ほう……そりゃ確かにおかしい。

 しかし呪いとすれば、それを掛けた術者とかが、どこかにいるってことだが。


 いったいどこの誰が、そんな真似を?



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