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806:戦い終えて日が暮れて


 五十輌もの偵察型空間戦車は、なんだかんだで、わずか十輌足らずまで撃ち減らされて、ほうほうの態で逃げていった。

 あえて深追いしたり全滅させる必要はない。こちらの戦術目標は十分に達成できている。


 ほどなく、デルモンテ隊とハネリンは城へ帰還し、援軍のテルメリアス、カーサ、ダイタニアは、連れ立ってブランシーカーへ戻っていった。

 そのブランシーカー自体も、城下への降下準備に入っている。


 すでに日は暮れかかっていた。

 思えば早朝から、まず北方で新型空間戦車フォルティック四十輌を迎撃。続いて南方からヴリトラの襲撃、魔王城正面にて偵察型空間戦車五十輌の急襲。


 北方はチー特製「頭がおかしくなるホーン一号機」の性能と、ケライノの歌にて、どうにか追い払うことができた。そう、歌には力がある。心の歌を信じることが、人の手と手を繋ぎあわせ、大きな奇跡を呼び起こすのだ。

 だがケライノにだけは、もう二度と歌わせてはなるまい。悲劇を繰り返さないために。


 南方では最強のスケバン竜王アズサが、ヴリトラの小娘どもをきっちりシメて、ナシつけた。

 正面ではハネリンたちとブランシーカーの面々が迎撃にあたり、最終的にデルモンテ率いる上級アンデッド部隊の新型「ここぴえ」でトドメを刺した。


 たった一日で、これだけの出来事。慌ただしいにもほどがある。

 それにしても不思議なのは――。


 魔王城正面に出現した偵察型五十輌。あれは、どこからやって来たのか。

 城の望楼に設置したレーダーが連中を捕捉した頃には、すでに城の真っ正面の上空にまで迫って来ていた。


 バハムートの拠点がある北方とは、まったく逆方向から現れたように見える。

 こちらの探知網に掛からぬように、よほど大きく迂回して来たとでもいうのか。だとしても、連中が、わざわざそんな真似をする理由がわからん。確かにこちらも意表を突かれはしたが、奇襲というほどのことはなく、そこそこ余裕をもって迎撃できている。


「あるいは、我々が把握していない敵拠点が、どこかにあるのやもしれませぬ」


 とはスーさんの推測。それは、確かに考慮すべき話だ。

 すでに指揮所の体制は解除されており、オペレーターズ四人娘は「定時なんで上がりまーっす」「右に同じー」「カフェよってくー?」

「いくっしょー!」とか言い合いながらブランシーカーへ戻っていった。


 定時ってなんだよ。そんな労働規定、うちの城にはねえよ。あと、ここの城下街に、カフェなんてオシャンティーなものはない。町人向けの食堂や居酒屋はあるらしいがな。

 ともあれ、四人娘が立ち去った後、俺は、スーさんをともなって指揮所を出た。


 まずは宮殿前に降下してきたハネリン、デルモンテ、ケライノらを出迎え、それぞれにねぎらいの声をかける。


「任務完了しました」


 と、形通りに報告するデルモンテ。


「おなかすいたー! ゴハン食べてきていい?」


 ハネリンは食欲全開な様子。


「次は、いつ歌えますか? お呼びくだされば、いつでも……」


 もう歌わんでいいから帰れ。

 と、こもごもに応対し、後のことはスーさんに一任して、俺は単身、中庭へ向かった。


 そこは空間戦車のハンガー。黒龍クラスカ、白龍イレーネ、青龍アスピクらが常駐し、旧式空間戦車を、ああでもない、こうでもない、といじくり回しているところ。


「大変だったようだな」

「見てたわよ」


 と、クラスカとイレーネが出迎えてきた。アスピクは……なんか奥のほうで、もぞもぞ作業してる。

 こいつら、空間戦車のモニターを城内の回線と繋いで、城のモニターとブランシーカー側のモニター、両方同時に映し出して、観戦していたらしい。


 俺がこのハンガーを訪れた理由は二つある。

 まず、ヴリトラの襲来と、その顛末についての詳細を二人に伝えた。ヴリトラはバハムート世界の絶滅危惧種なんで、それに関連する出来事については、一応こいつらにも知らせておく必要がある。


「なるほど、また増えたのか。王には苦労をかけるが、保護を頼む。こちらで協力できることがあれば、なんでも言ってくれ」


 という具合に、クラスカは至極真っ当な反応だったが、イレーネは……。


「ねえ、増えたのってメスなんでしょ? ということは、ひょっとして、もう繁殖行動に入ってるのかしら?」


 なんか、えらく鼻息が荒い。


「さっき、なんかおっぱじめてたが」


 と告げると。


「ええっ!? な、なんですぐ教えてくれなかったのっ!?」


 いきなり素っ頓狂な声をあげるイレーネ。


「ヴリトラの繁殖行動なんて、いままで一度も記録されたことないのよ! 生態自体、まだまだ謎が多い生物だし! こんな貴重な機会、逃すわけには……そうだ、こ、こうしちゃいられないわ! すぐにカメラを……!」


 こちらの説明もきかず、イレーネはいそいそとハンガーの奥へ走り去っていった。

 いや、ヴリトラって一応、アズサと意思疎通可能な知的生命体だしなあ。そんな連中のアレな行為を生撮影って、それはちょっとマズいような気がせんでもないんだが……。


「すまない。ああなると、私では彼女は止められない」


 クラスカが、申し訳なさげに述べてくる。

 俺は肩をすくめて答えた。


「ヴリトラたちが撮影を受け入れるなら、問題はないんだがな。交渉はイレーネ自身にやってもらおう。俺からは何も言うことはないな」


 いまやドラゴンキャンプの主たるアズサが、舎弟どものアレな情景の撮影に難色を示す可能性もある。そのあたりはイレーネの話術次第ということになるかな。

 うまくすれば、貴重な学術資料が世にもたらされることになる……んだろうか。



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