805:空に咲く氷花
熾烈な空中戦はなおも続いている。
『くらうがよい! 天仙術・騎手飛翔蹴!』
赤ブルマ少女カーサの右足が業火を帯びる。そのまま空間戦車の側面へと、豪快な右足飛び蹴りを炸裂させた。
あのポーズ、どこかで……。
騎手はライダー。蹴りはキック……なるほど。それ以上いけない。
『乙女くらーっしゅ!』
カーサの飛び蹴りで大穴があいた空間戦車の装甲に、ダイタニアが、なにやら叫びつつ、普通の蹴りをぶちかます。
ぐにゃりと、空間戦車のシルエットが大きく歪んだかと見えるや――。
大爆発。あっさり撃墜した。乙女とはいったい。
『宇宙忍法、火星ビーム!』
テルメリアスが、またどこから取り出したか、いかにも60~70年代SF映画に出てきそうな銀色の光線銃っぽいものを右手に構え、発射した。
パワワワワァー……と、妙な擬音とともに、ピンク色のリング状の光線……リップルレーザー? が広がりながら空間戦車の前方側面に直撃する。
なるほどH・G・ウェルズのタコ型火星人が持ってそうな光線銃。
見ためはアレだが威力はあるようで、命中箇所の装甲が、ばっくりと裂けた。さすが火星ビーム、侮れん。
当然のごとく、ハネリンの魔弓一閃、損傷箇所を撃ち貫く。
たちまち爆発四散。
こうしてまた一輌、空間戦車が大空に散華した。おそるべし宇宙忍法……忍法?
五十輌という大軍のうち、まだわずか数輌を破壊したに過ぎない。とはいえバハムート側にしてみれば想定以上の損害だったようだ。
当初、バハムート側は、魔王城への直接攻撃を第一目標として、主砲射程内への強引な接近を試みたようだが、ハネリンとブランシーカー組の奮迅によって前進を阻まれている。
このまま事態が推移すれば、目的を達する前に、さらなる大損害を蒙りかねない――とでも判断したのか、空間戦車の隊列は、乱戦状態から一転、一斉に後退をはじめた。
これぞ、こちらが待っていた好機。
「ハネリン、追うな。テルメリアスたちも、退がって距離を取れ」
と、俺は急いで指示を下した。
ここまでは、ハネリンたちに、いわば時間稼ぎをさせていたにすぎない。
すでに、準備は完了している。
俺はスーさんにうなずきかけた。
スーさんは、カッ、と頚骨を鳴らして応え、マイクへ向かった。
「デルモンテ隊、いまです。一斉攻撃を!」
やや後方に待機していた上級アンデッド部隊二十名、リーダーがヴァンパイアロードのデルモンテなので便宜上デルモンテ隊と呼ぶ――が、一斉に、青い立方体の器物を前方へ掲げた。あの「ここぴえ」だ。
猛烈な冷気が、後退中の空間戦車の隊列全体を、ピンポイントですっぽり覆い包む。狙いは完璧だ。あいつら、もしかして事前に練習でもしてたのか?
見る間に、青空の一角に、真っ白い氷花が咲き乱れはじめた。陽光に照り映える無数の氷片、その輝きのもとに、凍てついた鋼鉄の巨体が、一輌、また一輌、ばらばらと影を没して消えてゆく。
やはり偵察型でも弱点は変わらなかったようだ。「ここぴえ」が作り出す摂氏マイナス90度のフィールドは、空間戦車だろうがなんだろうが凍り付かせずにはおかない。
今回デルモンテたちが使用しているのは、前回の出撃で真祖コンビ隊が使用したものからさらに改良が進み、魔力を冷気へ変換する効率を向上させつつ製造コストを大幅に抑えた量産普及モデル。新型コンバーター搭載により出力の安定化がはかられ、さらに前面ルーパーの形状も改良されており風量がアップしている。
この新型量産「ここぴえ」、お値段は、このお話を読み終えてから三十分以内に魔王城通販部へご念話いただいたお客様に限り、特別に1980円の超お値打ち価格にてご提供いたします。
と、怪しい通信販売はさておき。前回の「ここぴえ」は、真祖コンビのアルバラとメイビィ、またそれに次ぐクラスの最上級アンデッドでなければ、少々使いこなすのが難しいレベルの魔力消費を要求されたが、今回の「ここぴえ」は、チーがさらなる改良を施し、そこらの中級以下の魔族でもそこそこ使えるようになっている。その試運転と実証試験を兼ねての出撃だったわけだ。
『ふわー……すっごい綺麗……!』
後退したハネリンが、前方の光景を眺めつつ感嘆の声をあげた。同時に、ピキー……という、トブリンの声も聞こえてきたが、こっちはどうも、冷気を感じ取って、ちょっと寒い……とか呟いてるようだ。
『おお、凄いものじゃな。あんな鉄の塊が、真っ白に凍りつくとは』
『ほへー。どれもこれも、アタシの筋肉よりカッチカチになってんじゃん』
ハネリンの隣りで、カーサらも、手をかざして歎声をもらした。
『ふぅん。あれほどの冷気を人工的に作り出すなんて、この世界の魔法も、なかなかやるわね』
『おぬしの宇宙忍法ではできぬのか?』
『一応、冷凍ビームっていう宇宙忍法があるけど……」
できるんかい。というかそれは忍法なのか?
『でも、あんな広範囲を一度に凍らせるのは、ちょっと大変ね』
『そうじゃろうな。わしの仙術でも、わずかな時間であれば再現可能であろうが、それでもかなり骨が折れそうじゃ。この世界の技術も、意外に侮れんものがあるのう』
うんうんとうなずくカーサ。
いや、あれは上級アンデッド二十体分の魔力をさらに増幅して変換したものだからな? 単独でホイホイあんな真似できる奴が、そうごろごろいてたまるかってんだ。
それを実際やってのけそうなテルメリアスやカーサが異常なんだが、ソシャゲの上位連中ってのは強さがインフレしまくってて、そのへんの感覚がおかしくなってるんだろう。
だが、あいつらより遥かに強いSSRキャラが、ブランシーカーには大勢乗り込んでるという。どんな連中だか想像つかん……。




