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799:あっちもこっちも


 魔王軍特製試作兵器「頭がおかしくなるホーン一号機」の稼動実験、さらにこの試作機に搭載された魔法精神波の効力についての実証実験。

 それらは、ほぼ成功といっていい。少々アクシデントもあったが。


 北方から襲来したバハムート側の空間戦車隊は既に壊滅し、ケライノは生き残りのガーゴイルどもを引きつれて帰投の途についている。ブランシーカーも一時は危うい状況に陥ったものの。現在は態勢を立て直している。

 こちらの方面では、やるべきことはすべて済んだのだが――。


 実は、ちょうどケライノが「頭がおかしくなるホーン一号機」を取り出したあたりで、別方面から、俺の「陛下トレーサー」に連絡が入っていた。


『アニキ様。なんか、こっちの方に近付いてくる連中がいるんだけど。上空から』


 魔王城の南側の山岳地帯に待機中の邪竜王アズサからの通信だ。

 いま、あそこにはアズサの他に、舎弟のヴリトラ二頭、トカゲ竜ども五匹が同行している。合計八頭のドラゴンが山腹にとどまり、周辺監視を行ってたわけだ。


「監視を続けてくれ。こちらから手出しする必要はないが、必要と判断したら動いていいぞ」


 と、その時点では、ごく大雑把な指示を出しておくにとどめた。

 ――で、現在。


『おー? どうもあれ、アタシと同じ、ヴリトラみたいだぜ? 四匹くらい、こっちにゆっくり近づいてきてやがる。……ヤル気みたいだぜ、あっちは』


 という新たな報告が。

 ああ、なるほど、ヴリトラね。バハムートの不意打ちに備えてたら、そっちが来るか。世の中、何が起こるかわからんもんだ。


 すっかり忘れてたが、近頃はヴリトラどもがこの近辺を飛び回ってやがるんだったな。総数十二頭のうち半数以上が現在こっちの世界に来てると、黒龍クラスカからは聞かされている。

 ヴリトラといえば、バハムート世界最強の荒くれドラゴン。そのパワーは単独で空間戦車を叩き落とすという。ほとんど魔王クラスの戦闘能力といっていい。それが四頭か。


 一方、こちらはアズサと舎弟二匹。頭数だけでいえば、こちらのほうが不利ということになるが……アズサなら問題ないだろう。


「数字は所詮、目安でしかない。足りないぶんは勇気で補えばいい」

『……よくわかんねーけど、ブチのめして来いってことだよな?』

「そうだな。あ、殺しちゃいかんぞ。ほどほどに痛めつけて、追っ払えばいい」

『承知っ! ……おいおまえら、行くぞ!』


 陛下トレーサーごしに、ぶわさっ! と風音が聴こえてきた。アズサが翼を広げて飛び立ったんだろう。舎弟どもを引き連れて。

 ヴリトラは危険生物ではあるが、同時にバハムート世界の絶滅危惧種でもあり、特別天然記念物レベルの保護動物に指定されてるんだとか。実際のところ、ぶっ殺してしまったところで大した問題はない気もするが、白龍イレーネあたりがキャンキャン抗議してくるだろうからな。生かしておけるなら、それに越したことはなかろう。






 アズサたちが飛び立って、ほどなく、再び陛下トレーサーに通信が入った。


『まおうさま、あのね、飛んでくるの、前のほうで、きらきら光ってて』


 城内バルコニー発着場で待機中のハネリンだ……。城の正面を監視させてたんだが、珍しく慌ててる様子。ワケがわからん。


「落ち着け。なにか城に近づいてるのか?」

『あ、うん、えーっと……そうだ、お城のなかにある、食う感染者……ってやつ? あれにそっくりなのがね』


 ひどい誤変換だ。空間戦車ね。それに似た物体が、魔王城正面に接近中だと?


「数はどれくらいだ?」

『んーとぉ。ひい、ふう……んー、いっぱいいるよ』


 せめて三ぐらいまでは数えてほしかったな……。

 整理すると、魔王城正面上空に空間戦車の一群を目視。数は正確にはわからんが、こちらに接近中だと。速度は、ハネリンの見立てだと「カラスの群れが森に帰るときと同じぐらい」って、無駄に文芸的表現! ようするに、さほどの速度でもなく、比較的ゆっくり近づいてきていると。


『おーい魔王ちゃん! こっちのレーダーに、なんか引っかかってるよー!』


 今度はチーからの連絡だ。おそらくハネリンがいま目視中の対象が、魔王城のレーダー索敵範囲に侵入してきたんだろう。


「詳細を教えてくれ」

『んー。お城の正面、距離五千、高度八百、数は……五十。個々の反応はちょい小さめ。偵察型のやつに近い反応だねー』


 ……つまり主力戦車のフォルティックではなく、小型で速度とステルス性に優れた偵察型空間戦車、もしくはその改装版ってとこか。強襲型とか?

 ヴリトラの来襲とほぼ同時に、真正面から空間戦車が来るか。これは単なる偶然なのか。まさか両者が連携してるなんてことは考えにくいが……。


 ともあれ、空間戦車が直近まで出て来たとなると、待つのは下策。あんなものを地上から迎撃なんて、やってられんし。早めに打って出て、鼻面を叩き、空中戦の先手を取るべきだろう。


「ハネリン、出られるか?」

『うん、いつでもいけるよ。トブリンも、はやく飛びたいって』

「なら、一番槍は任せる。後続も出してやるから、背中は気にせず、思いっきりやれ」

『わかったー! いくよぉ、トブリン!』


 ぶわささぁっ……と、慌ただしい羽ばたきが響く。

 そのままハネリンは、トブリンに乗って、魔王城正面の空へと元気よく飛び出していった。


 とはいえ、さすがにハネリン単独では少々心許ない。すぐに待機中の上級アンデッド軍団も出撃させよう。出し惜しみはなしだ。



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