795:どこかで聞いたあの技名
こんにちは。アークです。
今日は魔王城の管制室でケライノ隊の観戦をしています。
……と、どっかの無駄に爽やかな骸骨みたいな挨拶はおいといて。
いまは、そのケライノ隊が、なにやら仕掛けようとしているところ。
金属製ガーゴイルどもが空中にフォーメーションを組み、その中心でケライノが、ぐっと気合を込めて、魔力を溜めている。
そうする間にも、こちらのモニターでは、新たな高速飛行物体の接近を感知していた。
「接近する物体の総数十八、弾速……いずれも計測限界値を超えています! リニア・レールガンの第二射と思われます!」
と、オペレーターズの報告。
バハムート側は、どうやらリニアレール・ガンが有効な攻撃になりうると見て、急いで再充填して撃ってきたと。
オペレーターズがモニターしているのはブランシーカーの偵察ドローンのセンサーだが、これが計測しうる物理速度上限は、およそ音速の十七倍くらいまでらしい。それ以上は機神ボルガードのセンサーでないと詳細な計測はできないのだとか。
ようは少なく見積もってもマッハ17以上の金属質量弾が十八発、ケライノ隊めがけて飛んできてるってことだな。
さらに、あれは一撃で石像のガーゴイルを跡形なく粉砕する程度の威力がある。いくら上級魔族といえど、直撃を食られば、無事には済むまい。下手すりゃ死にかねんが……さて。
「いきますよ! チャージ開始ッ!」
ケライノは、絶叫とともに、溜め込んだ魔力を蒼い雷と化して、四方へ放出した。周囲の金属製ガーゴイルどもが、その雷を吸い寄せ、おのおの保有魔力を上乗せして増幅し、そのエネルギーを上下左右に放って、互いに魔力を接続してゆく。
こうして……空にまばゆく輝く、さながら巨大な六芒星のごときエネルギー方陣が完成した。
「ほほう……これは見事な」
スーさんが顎をカタカタいわせて感心している。
「かつて天魔族が用いた空中戦闘用の攻撃魔法陣ですな。いまではハーピー三姉妹にのみ、その技術が継承されておるとか」
「そうか、あれが噂の……」
天魔族とは、かつて先代魔王に仕え、人間に近い容姿ながら背中に大きな黒翼を持ち、空を自在に飛翔したという最上級魔族。先の大戦でも活躍したものの、色々あって絶滅してしまった。
ことにエルフの先代長老メルが作り出した魔弓カシュナバル、聖弓パリューバルという凶悪な魔法アイテムでバタバタ撃ち落とされまくったとか。現在では、その両方とも俺の管理下にあるが……。
現在この世に確認できる天魔族は、魔剣に封印されしアエリアただ一人。そのアエリアもとっくに死んで悪霊になっており、現世に生身で顕現することはできない。亜空間ではその姿を見ることができるが、すごい美女なのに触れることもできんからな。惜しい。
……それはともかく、この世界におけるハーピー三姉妹は、実はギリシャ神話のそれとはあまり関係ないらしい。いまはなき天魔族の血を断片的に受け継ぐ遠い眷属で、天魔族の基本魔力や空中戦法を現代に継承している唯一の存在なんだとか。
「チャージ完了! いきますよ――」
空に浮かぶ大六芒星が、まるで電荷を帯びたかのように、無数の蒼い雷光を激しく周囲に閃かせる。
その中心に浮かび立つケライノが、両手をずばっ、と前方へ差し出し――。
「撃ち砕け! 冥闇の銀雷!」
響き渡るケライノの声。それに呼応するがごとく、猛然たる雷電のエネルギーが収束し、空中魔法陣より放射された。
蒼い雷光が、直径数十メートルという極太のエネルギーの束と化して碧空を切り裂き、ここまで飛来してきた金属弾群を瞬時に蒸発させつつ、まっすぐバハムートの空間戦車隊の方向へ伸びてゆく。
……冥闇の銀雷って、どっかで聞いたような。誰かの必殺技だっけ? ケライノの独創ってわけじゃなさそう。それにしてもダッセー響きだ。さすがにセンスなさすぎだろ。どこの誰だよこんなださい技名考えた奴。馬鹿じゃねーの?
いや、いまはそれよりも――。
ケライノとガーゴイル隊の合作ともいうべき渾身の攻撃魔法陣からの特大の一閃は、見事に空間戦車隊の横列陣のど真ん中に直撃した。
「敵空間戦車の反応、三十七から三十四に減少しました」
「後退を開始した反応、三」
「残る三十一輌は、なお速度を保ち、前進を続けている模様」
オペレーターズが淡々と報告をあげてくる。
さっきのケライノの攻撃は、単純にみても小山ひとつ吹っ飛ばすくらいの物理威力はあったんだが、それでもフォルティック三輌を仕留めるのがやっとか。後退を始めた車輌もあるってことは、それらにも相応のダメージはあったんだろうが……大半は、ほぼ無傷。やはりとんでもねえな、バハムートの兵器技術は。
当然ながら、ここまでの戦況は、すべて後方にいるブランシーカーが詳細にモニタリングし、記録に収めている。
ようするに、魔族の攻撃手段のひとつである雷撃の魔法……これに対して、フォルティックはどの程度耐性があるか。というモニター実験を、ケライノにやらせてたわけだ。ゆえにここまで、一応事前の予定通りに進行していることになる。
……まさか、ケライノが、ああまで大袈裟な技を使うとは思ってなかったけどな。




