表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
792/856

791:性別はボタンひとつで変わるもの


 迎撃準備は整った。

 ただ、今回は本格的な交戦ではない。


 侵攻してくるバハムート側の空間戦車は四十輌。前回の二百輌以上という規模からすれば、ささやかなものだ。

 おそらく魔王軍の戦力について、情報収集や交戦データを取得するために出てきたものであろうと、こちらでは推測している。


 ならばこっちからも、連中の戦力をより深く探ってやろう――というわけで、まずは殺しても死なない連中を選抜し、前面に出して交戦させることとした。

 戦力は、喋る彫像ガーゴイル、約二百体。率いてゆくのは魔王城幹部級のひとり、ハーピー三姉妹の三女「黒い女」ケライノ。


「それでは陛下、吉報をお待ちください。有精卵はその後にでも、じっくりと……」


 早朝。

 ケライノは、穏やかな顔つきでそう微笑みながら、ぎゃあぎゃあ立ち騒ぐガーゴイルどもを引き連れ、魔王城中庭より飛び立っていった。いや有精卵はいらんって。


 ……ところで、もうひとつ、これはスーさんではなく、ブランシーカー船長たるレールから、ある推測を聞いている。

 ケライノたちをを見送りながら、俺は、その時のやりとりを思い出していた。


「ほう。陽動の可能性?」

「相手が小規模なのは、一見、威力偵察とか小手調べ……と、思わせておいて、とんでもない方角から別部隊に急襲させようとしている、そういう可能性もありますよ」

「なるほど、言われてみりゃ、ありうる話だな」

「でしょ? 万一に備えて、なにか対策しておいたほうがいいかも。砲撃の準備とか!」

「なんでそうも砲撃好きなんだよオマエは!」


 現在、レールは性別をまた男の子に切り替えている。まったく、スナック感覚で性別変えやがって。しかもその途端に砲撃の話が口をついて出るあたり、やっぱコイツ砲撃マニアなんじゃねーか? ブランはそうじゃないみたいなこと言ってたけど。


「それにしても、よくその点に気付いたな。俺やスーさんは、そんな可能性、考えもしなかったが」

「いやぁ、陽動と奇襲って、うちの船がよく使う戦法なので」


 そういうことかよ。陸上巡航船ブランシーカーは、暢気なように見えて、様々な国家や武力集団と対峙し、ことごとく打ち破ってきた歴戦の猛者。それくらいの戦術や駆け引きはお手の物ってわけか。外見からは想像もつかんが、実はとんでもない戦闘経験を積んでる連中だったな。

 そのブランシーカーは、当初の予定通り、船長レールの指揮のもと、魔王城前庭から浮上し、先発したケライノ隊の後方について、北方へと飛び立った。


 俺はスーさんとともに指揮所に詰めて、新たに設置した大型モニターごしに、その様子を見守っていた。

 そこへ、俺の腕時計型多機能端末、陛下トレーサーのアラーム音が響く。


『おぉーい、アニキ様ー。きこえてるー?』


 呼びかけてきた声の主は、他でもない、邪竜王アズサ。


「おう、聴こえてるぞ。そっちの準備はどうだ?」

『だいじょーぶ、いつでも出られるぜ! しっかし便利だよなーコレ』


 陛下トレーサーのスピーカーごしに、アズサがしみじみ呟いた。

 いま、アズサは魔王城前庭のキャンプで待機中。アズサの頭部には、黒龍クラスカがわざわざアズサのために製作した特殊な専用ヘッドセットが取り付けられており、陛下トレーサーを通じて、俺と音声通話ができるようになっている。陛下トレーサー自体も、クラスカの技術提供を受けてチーが製作したものだしな。どっちもバハムートの技術ってわけだ。


 そのアズサには、舎弟のヴリトラ二匹とともに、いったん魔王城南方の山岳地帯へ赴き、周辺警戒に当たるよう指図している。

 レールの懸念した状況……思わぬ方角からのバハムートの奇襲攻撃が生じた場合に備えての措置だ。何事もなければ、それはそれで構わないが、もしレールの推測通りの事態になっても、アズサたちならば、まったく問題なく対処するだろう。


「こっちの作戦は始まった。そっちも、そろそろ出てくれ」

『あいよ! あ、それとさ、チビどもも、何匹か付いてきたがってるけど、どうする?』


 ああ、トカゲ竜どもか。あいつらも、ああ見えて強いしな。それにアズサが付いてるなら、特に問題ないか。


「かまわんが、目的は忘れるなよ。遊びに行くわけじゃないからな」

『わかってるよ、任せとけって』

「よし、準備ができたら出発してくれ。所定の場所に着いたら、また連絡を寄越せ。電波は問題なく届くはずだ」

『りょーかいっ!』


 元気な返事とともに、通信は打ち切られた。

 続いて、またも陛下トレーサーのアラームが鳴る。忙しいな。


『勇者さまー。きこえてるぅー?』


 ハネリンだ。送信元は魔王城最上階。バルコニーを突貫工事で改装し、トブリン・ハネリン専用の特設発着場として、そこで警戒待機するよう指示している。

 ハネリンにも陛下トレーサーの簡易量産品であるチー特製の腕時計型通信ガジェットを持たせてあるため、俺と遠隔通信が可能になっていた。マップルウォッチ……というらしい。きわどい。


「位置についたか。役割はわかってるだろうな?」

『もっちろん。もし怪しい奴がお城に近づいて来たら、飛んでいって、ぶちのめすんだよね?』

「まず敵か味方かちゃんと確かめろよ? 判断がつかない場合は、俺に一報を入れろ。わかったな」

『はーいっ! やー、久々の実戦だねー。ウデが鳴るよぉー』


 聞いてねえなコイツ……。

 ハネリンの役割は、魔王城正面の警戒監視。万一、この正面に敵が出現した場合、トブリンを駆って、真っ先に切り込んでいくことになるだろう。後続として、飛行可能なアンデッド部隊も、下の階で待機している。


 実際にこの方面で戦闘になる可能性は低いが、万一ということもある。備えておくに越したことはなかろう。

 こちらで打てる手はすべて打った。


 さて、敵はどう動くか?

 モニタリングについても、果たして想定通りに事が運ぶものかどうか、未知数だ。しかしどんな非常事態にも対処できるよう、あらかじめ対策はほどこしてある。

 しばし、のんびり見物といこう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ