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784:異世界錬金術


 空間戦車の襲来を退けた諸戦の翌日午後。

 マスターヴァンパイアロード・アルバラ、サキュバス真祖メイビィ率いる魔王軍先遣隊二十名は、現地調査を終えて魔王城へ帰還してきた。


「地上に墜落した戦車については、ほとんどが内部まで余さず凍りついており、搭乗していた龍人どもも、大半は凍死しておりました。ただいくらか、重傷ながらかろうじて生存していた個体もあり、そのうち傷の浅かった者を一体、捕虜として連行しました。現在は外苑の収容房に繋いでおります」


 帰城後、指揮官アルバラ、副長メイビィの両名は、謁見の間にて、俺とスーさんにそう報告を述べた。

 外苑の収容房というのは、魔族専用の留置所のような場所で、暴力沙汰などの問題行動を起こした者や、城内で秩序を乱す行いをした者などを一時収容している。


 当たり前だが、魔族にも守るべき秩序や最低限の掟はあるし、それを破れば罪にも問われる。大型種である巨人やオーガらを収容するための特大サイズの牢屋もあるので、捕虜のバハムートもそこに収監したのだろう。


「そうか。二人とも大儀だったな」

「お褒めにあずかり恐悦至極」

「陛下の御命とあらば、これしきのこと」


 とかなんとか、型通りのやりとりの後。


「で、連行したのは一人だけか?」


 と、俺が訊くと。


「は。他にも重傷の者を一体、輸送しておりましたが、帰還する前に死んでしまいまして」


 アルバラはそう淡々と述べたが、その横で、やけに落ち着かない様子のロリサキュバス……メイビィが、目をやや斜めに逸らしている。挙措態度にも、いかにも後ろめたい感が滲み出まくっている。

 ……やらかしやがったな、コイツ。たぶん、捕虜の死因に関わるやらかし。


 おおかた、バハムートの肉体の一部……そう、一部を、無理やり切り取った……とかだろうな。

 いちいち咎めるほどのことでもないが、ここは一応――。


「メイビィ」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 あらためて声をかけると、メイビィは細い肩をピクンと震わせ、声を上ずらせつつ、姿勢を正した。


「他の者どもへのしめしもあるからな。特殊な趣味もいいが、あまり大っぴらにやるなよ」

「ひゃああ、ひゃいッ! お、仰せのままにィ!」


 メイビィはたちまち震い恐れ、その場に、がばと平伏した。完璧に図星だったらしい。いやそこまで怖がらんでも。

 あまり変な猟奇趣味を城内に広められても困るんで、ちょいと釘を刺しただけだ。


 ただ……おそらくメイビィが採取したであろうバハムートの「球根」、どんなものだか、実はちょっと興味がないでもない。

 クラスカとか、普段から全裸のはずだが、なぜか外からはそういう部位は見えないんだよな。どんな構造になってるのか。あとでこっそりメイビィに聞いてみるか……。





 緒戦以降数日、バハムート側にこれという新しい動きはまだ見られない。

 さすがにあちらも、第一陣の撤退は想定外の事態だったはずだ。今頃はまだ状況把握でてんやわんやしてるかもな。


 とはいえ、第二波の近々到来は確実、それも前回と比較にならない戦力を繰り出してくることもまた確実。

 当然こちらもしっかり対策をしておかねばならん。


 迎撃の要となるのは、もちろんあの機神、赤い偶像ロートゲッツェ。

 まだ完成には少し時間がかかるということだが、さて現在の進捗は……。


「協議の結果、頭部は最終的にマニュピレーター制御方式からウィッグ方式に変更しました。もう作業は終わっていますよ。どうですか、あの質感、まるで本物の髪みたいでしょ」


 城内のハンガーにて、俺を真っ先に出迎えたのは、女装美少年パッサことパスリーン・エルグラード。今日も今日とで、色鮮やかなピンクと白のエプロンドレスに白タイツ、ちょっと伸びた金髪には大きめのリボンを結わえて、外見だけは非の打ち所のない美少女っぷりだ。男の娘だけど。

 他の技術者連中……チー、ティアックらは、それぞれハシゴでロートゲッツェのボディに取り付き、なにやら作業中のようだ。


 見れば、ロートゲッツェの頭に、ふっさふさの金髪がなびいて、背中にまで伸びている。以前は二十四本の多関節マニュピレーターを植え並べて、頭髪っぽく見えるように自動制御する、いかにもロボっぽい外観だったんだが、だいぶ印象が変わったな。ロボというよりマネキン人形に近い雰囲気。


「ウィッグか……見ためは悪くないが、材質はなんだ? あのサイズじゃ、人毛ってわけじゃないよな。耐熱や強度については問題ないのか? 稼働中にすっぽ抜けたりしないだろうな?」


 ウィッグってことは直接植毛とかじゃなくて、ようは付け髪だしなあ。赤い偶像が、いきなり赤い巨大尼僧とかになったら困るかも。歌じゃなくてお経でも読ませるか。


「材質は、僕が作った新しい繊維素材なんですよ。一本一本はとても細いんですが、熱に強く、鋼線以上の強度と弾性を備えてます」


 俺の質問に、パッサはそう得意げに述べた。

 なんと、新素材? それをパッサが?


「ええ。実は、そちらのティアックさんから、錬金術というものを少し教わりまして」


 ……ん?

 錬金術? この世界にそんなものは……。

 いや、あっちの世界で、いわゆる化学の前身となった錬金術とはまた違うものかもしれん。あれはかなりデタラメな妄想も入り混じってて胡散臭いイメージが強いが、なんせこっちの世界には魔法というものがあり、ティアックは魔法工学の権威というべき天才。ならば、魔法工学の延長として、ガチな錬金術というものをティアックが手がけていたとしても、そう不自然ではないのか?


「なにか毛髪に近い素材をイメージしながら、水と空気と石炭を、教わった術式に従って、なんかいい具合に練成したら、あの新素材ができあがったんですよ」


 パッサの説明に、俺はなんとなく肩の力が抜けた気がした。なんという適当な。やっぱ胡散くせーわ。

 でもって、水と空気と石炭……。それ、ナイロンじゃねーの?


 純粋水爆に続いて、またとんでもないもの作りやがったぞ、この女装子は。



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