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780:真祖コンビ



 いよいよ敵が動きはじめた。

 バハムート世界の代表団体、五色連盟の誇る最新鋭空間戦車、およそ二百輌余りという大軍。


 魔王城のレーダーによる観測では、高度三千メートルほどの上空を、複縦陣とでもいうか、縦長の隊列を組んで、まっすぐ南下してきているという。

 レーダーといっても、もともと魔王城にそんなものはない。ブランシーカーのセンサーを兼務する機神ボルガード、そのセンサー部分のみを、精霊ブランから提供された設計図面をもとに、黒龍クラスカがコピーし、製作したパチもんだ。


 なんでも、複数種類のマイクロ波を連動照射し、半径500km以内の目標物を立体的に探り当てるフェイズド・アレイ・レーダーとしての構造を持つ……とか説明されたが、俺にはよくわからん。わからんが、とにかくスゴイ性能で、非常に精度が高いのだとか。

 そのスゴイレーダーの表示座標に向けて、こちらも迎撃の第一陣を送り出すよう、俺はスーさんを介して指示を下した。


 出撃の人数二十名。敵と比べればずいぶん小勢だが、全員が単独で一都市を壊滅させるだけの魔力を持つアンデッドの上級魔族たちだ。

 さらに、そいつらには新兵器を持たせている。チーが、あの火風青雲扇を趣味でバラして解析し、新たに作り上げた魔力アイテム――量産型スポットエアフリーザー、正式名称「ここぴえ」だ。


 ……なんかどこぞの小型冷風扇みたいな名称だが。その効果は俺が身をもって実証済みだったりする。

 ともあれ、その日の日没と同時に、この量産新兵器のテストを兼ねて、二十名の先発部隊を魔王城のバルコニーから出撃させた。


 わざわざ先陣に上級アンデッドどもを選抜したのは、個々の保有魔力の高さに加えて、全員、人型でありながら背に翼を持っていて飛行可能なことと、夜間は基礎能力が全般に向上し、空間戦車の火力にも耐えうるだけの肉体能力と再生能力を持つこと。

 ようするに殺されても死なないような連中なので、まずは敵へひと当てさせて、様子を見てみよう、というところだ。


 さらに出撃する全員、陛下トレーサーの改良簡易版である小型ヘッドセットを耳にはめている。魔王城の臨時管制室――本来はスーさんの執務室だが、いまは戦時ってことで、通信機材を運び込んで各種指示を出せるように改装した――と繋がっており、全員とリアルタイムでの音声通話が可能になっている。これで戦況把握も万全ってわけだ。





 二十名の上級アンデッド部隊、その指揮官の任にあたるのは、アルバラという魔王城の古参幹部。外見は十歳ぐらいの金髪美少年だが、そんなショタな見た目と裏腹に、ヴァンパイアの真祖たるマスターヴァンパイアロードであり、実年齢は五百歳を超える。口調や性格も偏屈ジジイそのもの。

 補佐役たる副長を務めるのはメイビィという、これまた古参幹部。サキュバスの真祖たるリリムであり、実はサキュバスクィーン・リリスことスーさんの分身体に近い存在。でもって、これも外見十歳ぐらいの金髪美少女で、いわゆる、のじゃロリババア。


 チーにしてもそうだが、この手の上級アンデッドが、わざわざ外見を幼くするのは、普段の肉体維持にかかる魔力消費を節約する意味があるそうで、決して趣味でやっているわけではない……らしい。

 さて、そんなアルバラとメイビィが、星空に黒翼を並べて、アンデッド部隊を引き連れ、悠々と北へ向かって飛行している。


「ふふふ、久しぶりの実戦じゃなぁ。ああもう、ウデが鳴って仕方がないわ!」


 メイビィが楽しげに呟くと、アルバラは溜め息をついた。


「相変わらず、血の気が多いのう……。ワシは、戦いなんぞより、ベランダで盆栽でもいじってるほうが好きなんじゃがな。陛下のご命令とあらば、是非もないが」

「おぬしの盆栽というのは、アレじゃろ。オークどもの手足を切り取って鉢植えにして眺めるというやつじゃろ。どうも、あまり良い趣味とも思えんがのう……」

「あれも、昔は人間の手足を使ったもんじゃが、なんせ人間はすぐ死んでしまうし、せっかくの切り離した手足も日持ちせず、すぐ腐ってしまう。その点、オークは生命力に富み、四肢をバラしても死ぬことはないし、手足のほうも十日ほどは腐らずに原型をとどめておるでな。しかも、切った手足はまた生えてくる。実によい素材じゃよ、あれは」

「わ、妾には理解できん趣味じゃ……」

「何をいう。貴様こそ、水耕栽培とかいうて、人間の美少年から切り落とした(自主規制)を加工し、ガラス瓶に入れて並べておるというではないか。そんなものを眺めて何が楽しいのやら」

「ふむ、球根栽培の楽しさがわからぬか。所詮、ヴァンパイアの感性では理解できんかのう」


 臨時管制室には、この会話が思いっきり筒抜けになっている。

 俺とスーさんは、スピーカーの前で、並んで頭を抱えていた。球根って。そりゃ、そういう解釈ができんでもないが。


 上級魔族といっても、大概は人間とさほど感性は変わらない。あの二人が飛びぬけて猟奇趣味の変態というだけだ。長生きしすぎてどっかおかしくなってるのかもしれん……。

 さいわい、ここには俺とスーさんしかいないが、他の連中に聞かれてたら、上司にして魔王たる俺まで変態扱いされかねん。あの真祖コンビには、ちょっと自重させたほうがいいかもな……。


 ……などとやってる間に、いよいよレーダー上では互いの位置座標が交差しつつある。ここで接敵か。

 さて、相手はどう出てくるのか? まずは様子見だな。



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