778:平行存在たち
ブランシーカーの燃料補給は完了した。
で、約束通り、レール一行を魔王城食堂へご案内することに。
もう真夜中なんだが、畑中さんにはスーさんを介してあらかじめ話を通してある。
燃料補給の実作業をやってくれたクラスカたちに礼を述べ、あらためて瞬間移動魔法を行使……しようとしたところ。
「ねえねえ、わたしたちも連れてってー!」
「外出禁止、飽きた……」
「食堂だと? おい、肉はあるか? 肉くわせろ!」
とか口々に言いつつ、いきなり甲板から飛び降りてきた連中がいる。見たとこ、ブランシーカーの乗員たちのようだが……なんか、いままでの奴らと雰囲気が違うな?
「あっ、わたし、池上美佳っていいます! 魔法少女やってます!」
まるで火の化身のような、真っ赤な髪と、ちょっとチャイナ風なスリットドレスの美少女が、礼儀正しく、ぺこりと挨拶してきた。
……どうも日本人らしいが、外見は全然そう見えんな。
(コラボイベント配布SSR)魔法の熾天使ミカ
職業:魔法少女(日本海軍魔法艦隊所属:軍属少佐)
種族:人間(9・女)
戦闘力:14000
二身合体:不可
コラボ作品:ななまほ ~魔法の魂、ここに在り~
備考:異世界からの来訪者。「たたかう魔法少女たち」が各国軍の戦争代理者として熾烈な闘争を繰り広げる「ななまほ」世界のトップエース級魔法少女。普段は何の変哲もない小学三年生の女の子だが、魔法の宝杖「プリンセス・バーナー」の力で戦闘形態に変身する。火炎魔法の威力は世界に並ぶ者がないといわれ、天翔ける火薬庫、歩く絨毯爆撃などと称される爆炎の女王。本名、池上美佳。
「高宮鈴……魔法少女よ。一応」
ぽそりと語る、まるで市松人形みたいな雰囲気の黒髪少女。こちらは白小袖に黒袴に白鉢巻という、どっからどう見ても日本人。
(コラボイベント配布SSR)魔法の剣豪リン
職業:辻斬り(日本海軍魔法艦隊所属:軍属少佐)
種族:女神(人化済・10・女)
戦闘力:18500
二神合体:不可
コラボ作品:ななまほ ~魔法の魂、ここに在り~
備考:異世界からの来訪者。「たたかう魔法少女たち」が各国軍の戦争代理者として熾烈な闘争を繰り広げる「ななまほ」世界のトップエース級魔法少女……に擬態している女神。普段は何の変哲も無いダウナー系小学四年生女子、高宮鈴……と見せかけて、その正体は高宮鈴音姫命という太古の女神そのもの。ただ、当人はそんな記憶はとうに忘れており、すっかり人間の女の子になりきって生きている。自分が厳密には魔法少女ではなく、何か別物らしいとは勘付いているものの、細かいことは気にしない。あくまで魔法少女として海軍に入り、太古の悪霊の集合体たる霊刀「荒光」を手に、戦場を縦横無尽に暴れ回り斬りまくっている。人呼んで魔法の辻斬り。
「ん? なんだ、自己紹介な流れか? ……しゃーねえな。アタシはレダ。エベッカ村のレダだ。見ての通り、本物の魔女さ!」
金髪碧眼の五歳ぐらいの幼女。真っ赤なショートドレスに黒いブーツを履き、頭にはこれも漆黒の三角帽子を乗っけている。なるほど、見た目は魔女っぽい。で、赤いドレスの裾からは白いドロワースがちらちらと……。
いかん、どこを見てるんだ俺は。
で、外見はちょいクソガキムーブだが、中身は……なんだろう。えらい懐が広いというか。眩い光に満ちあふれた、果ての見えぬ、広大無辺の純粋なる精神……それこそ造物主とか万物の母とか名乗ってもおかしくない大スケールの神々しさ。
こりゃ多分、俺やワン子あたりとは真逆の性質の持ち主だな。無闇に刺激すると、思わぬ火傷を負わされそうだ。
(コラボイベント配布SSR)レダ・エベッカ
職業:魔女(自称)
種族:うわようじょつよい(5・女)
戦闘力:11000
二神合体:不可
コラボ作品:リトルウィッチ・レダ ~火刑台から始まる、小さな魔女(自称)の物語~
備考:異世界からの来訪者。とある宗教国家にて、幼くして魔女狩りに遭い、火刑に処された悲劇の子……のはずが、焼け死ぬどころか、炎の中で平然と枷と鉄鎖を自力で引きちぎり、その場で教会騎士団を返り討ちにした自称「本物の魔女」。小さな身体に様々な超常能力を備え、当人がその気になれば、天候すら操ることができる。魔女はあくまで自称にすぎず、実態は謎に包まれている。ただし身体そのものは外見通りな人間の幼女。肉料理が大好物。
で……こいつら、コラボイベの配布キャラだと。
そんなのもあるのか。しかもSSRとは。それもどっかで見たような連中……。SSRの割に戦闘力が抑えめなのは、所詮は無料配布キャラだからだろうな。コラボ元の内容とかは、別にどうでもいいが。
いやでも、俺とリネスも、あっちの世界ではコラボイベント扱いだったが、配布じゃなくて期間限定のお助けキャラだったような。実際、俺らは二週間ほどで元の世界に帰ってるし。
じゃあ、あの三人はどういうことだ? まさか元の世界に帰らずにブランシーカーに居座ってるとか?
「あの娘たち、もとは異世界人だけど、厳密には違う……ともいえるわね」
俺の内心を察したか、ブランが横から答えた。
「違うって、どういうことだ」
「以前、次元交錯線の混乱によって、こちらの世界から、あちこちの異世界への干渉現象が起きたことがあってね。そのとき、あの娘たちは時空嵐に巻き込まれ、次元断層へ吸い込まれて、こっちの世界に来るはずだった。でもそうならなかった」
「……ん?」
「こっちに吸い込まれたのは、彼女たちの実体ではなく、そこから取得された『データ』だったのよ。そのデータだけが、実体からコピーされて、こっちに吸い込まれ、実体化したもの。分身というか、平行存在というか……」
……ははあ。
データ云々はともかく、平行存在だといわれれば、少しは理解できる。元の世界のオリジナルは元のまま健在で、今ここにいるのはオリジナルからデジタルコピーされ、異世界の平行存在と化したものだと。
取得されたデータから復号された際、いくつかの要因から、オリジナルとは異なる部分も生じているらしい。記憶や人格にはとくに欠損や変化はないものの、肩書きの割に戦闘力が控えめだったり、職業や種族の欄がバグってたりするのはそういう理由のようだ。
で、あの三人はいわゆるコラボイベント期間終了後も、元の世界には戻れない……というか、それぞれ理由を付け、自分の意思で、あえて戻らない選択をして、パラレル存在と化した……ということらしい。
その個々の理由については、また聞く機会もあるだろう。
ともあれ今は、ブランシーカー一行の腹ごしらえ――ということで、ブランたちに飛び入り連中をも引き連れ、魔王食堂へと瞬間移動を行なった。
……既に晩メシを済ませている俺とリネスを除く全員に、畑中さん渾身のサバ味噌定食を提供したところ、大好評を博した。例の小さな魔女も、これうめぇ! 肉よりうめぇ! とかいって喜んで食ってた。
どうやらサバ味噌の旨さは、次元や世界をも超えて、全人類に通じるものであるらしい……。




