777:モバイルデータプラン
白龍イレーネとちび妖精ブランは、そのまま腐女子トークに突入してしまった。
もっとも、ブランのほうはイケメン天使、イレーネはショタ龍人……と、愛でる対象が全然違うんだが、BLという一点だけで次元も種族も突き抜けて通じあえるものらしい。俺にはついていけん。というか龍人にもショタBLとか存在するのか。カップリングとか受け攻めとかドラゴンカーセックスとかもあるんだろうか。業が深い。
そうこうやってるうち、ブランシーカーへの燃料補給が完了したようだ。
「終ったぞ。これから撤収準備に入るが……」
黒龍クラスカが、手許の端末をポチポチやりながら声をかけてきた。
「この船の管理AI……ブランだったか。きみに少し、頼みたいことがある」
「んー? アタシ?」
「ああ。この船の動力炉の原理や構造について、教えてくれないか。現物を直接見るのは、我々のサイズでは難しいだろうが、図面などがあれば……」
確かにバハムートの巨体では、この船の動力室に入るのは無理だな。巡洋艦クラスの大型船とはいえ、人間が運用する前提での内部構造になってるだろうし。
クラスカがいうには――いま、魔王城の中庭で整備中の、旧型空間戦車のカスタマイズに活用したい、と。
五色連盟は、いまこうしている間にも、最新型の空間戦車を続々とこちらの世界へ送り込んできている。クラスカたちの所有する旧型は、あちらの新型と比べて、最高速度や主砲出力は半分程度、航続距離に至っては三分の一程度の性能でしかない。
で、ブランシーカーに用いられている異世界技術を活用すれば、この差を埋められるかもしれない、と思いついたのだとか。
俺にしてみりゃ、どうでもイイ事だがな。これも技術屋ならではのメンタルなのかね。
「ああ、それなら設計図があるわよ。だって、この船作ったの、アタシだもん。いくらでも見せてあげるわ。燃料補給のお礼ってことで」
あっさりとブランは快諾した。そういやさっきの話の中でも、自前の船だって言ってたな。
「アロア、ボルガード呼んでくれる?」
と、ブランはアロアに声をかけた。
そのアロアは、リネスを胸にがっちりハグして、ご満悦な様子。どんだけリネス好きなのか。リネスも楽しそうだから別にいいけど。
「うん、いいよー。ボルちゃん、おいでー」
と、アロアが船へ向かって呼びかけると、なぜかの俺の直上から、直径二十センチほどの鉄球が凄まじい速度で降ってきた――というか俺の脳天めがけて殺意を込めてダイブしてきたというか。
俺は右手を上げて、間一髪のところで鉄球をガッシと受け止めた。
「あっぶねーだろが。おまえ、俺になにか思うとこでもあんのか?」
「イエイエ、タマタマデスヨ?」
響くマシンボイス。鉄球だけにタマタマってか?
当然、落ちてきた鉄球とは機神ボルガードのオブジェクト形態。アロアの意思で、どこからでも転送で呼び出すことができるとか。それはいいが、コイツは以前にも俺の頭めがけてダイブしてきたことがある。あっちの世界では、俺はこれといってボルガードに恨まれるようなことはやってない気がするんだが……。
「ボルガード、動力炉の関連データを、そこの龍人の彼に開示して」
ブランが指示を出す。ボルガードの自律AIは、基本的にアロアの指示にしか従わないが、例外として、アロアの事前同意が確認できている場合に限り、レールやブランの指示も聞くそうだ。
「開示方法ヲ選択シテクダサイ。ホログラフモニター出力、モシクハ、ソチラノ端末ヘノ、データ転送ガ可能デス」
ボルガードは、鉄球の姿のまま、ふよふよと浮遊し、クラスカのそばへ近付いていった。
「……ふむ、これは、S202型FAドローンか? ずいぶん懐しい型をしている。ああ、データはこちらに転送してくれ」
クラスカは応えつつ、ボルガードをまじまじと観察した。
その様子に、なぜかブランが得々と胸を張る。
「あら、よくわかるわね。ボルガードたち自律AIロボの原型は、あなたたちの世界のFAドローンよ。もっとも、あくまで外観上の話で、中身はほぼ別物なんだけどね。シンクロンシステムによる三段変形なんて、そっちのFAドローンには不可能な芸当でしょう?」
「モバイルデータ接続ヲ確認。データ転送ヲ開始イタシマス」
「なんと、シンクロンシステム? まだ我々の世界では基礎理論すらできていない、机上のエネルギー理論だというのに……」
「こっちの世界ではまだ変形は試していないけど、たぶんできるはずよ。その場合、取り出すエネルギーは、おそらくバハムートの世界から借りることになるでしょうけど」
「それは凄い、今度ぜひ研究を……!」
「タダイマ、データ転送中デス。残52%……」
なんだこいつら。やけに盛り上がってるのはわかるが、会話内容はもうカオスもいいとこ。ついていけん。というかなんでモバイルデータ接続なんだよ。どこの回線使ってんだよ。後で料金とか請求されねえだろうな?
「……転送ヲ完了シマシタ」
ほう、もう終ったのか。速いな。
「今月ノデータ使用量ガ7Gヲ超過シマシタ。以後、帯域制限ヲ実施イタシマス」
いまどき月7G制限だとぉ? もう少しマシなプランで契約しとけよ!




