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772:玉座と王様


 ロートゲッツェについては、あらためて頭脳労働者たちに一任する。

 ようは、本格的なバハムートの侵攻開始までに、万全の状態に仕上げてくれれば、それでいい。


 この大陸最高の技術陣が、なんのかのと議論を交わしつつも普通に打ち解けてる様子なのも、俺としては都合がいい。今後も何かとこいつらの技術に頼る局面があるだろうしな。


「ああ、そういえば、魔王ちゃん」


 と、チーが何かに気付いたように声をかけてきた。


「あの気象操作アイテム、一応、まだ稼働させてるんだけど、もう用済みだよねー?」


 あー、火風青雲扇のことか。シャダイが引き起こしていた大陸北方の異常低温から魔王城周辺を保護するため、火風青雲扇の機能で一時的にこの近辺の気温を摂氏二十六度に固定し、それをチーに預けて、維持のための魔力を注いでもらってたんだった。

 現在はむろん、異常低温は解消している。そもそもその原因たるシャダイも、魔力の大半を喪失して、この城内に戻っている。


「ああ、もう停止させていいぞ」


 俺が応えると、チーは、ささっと俺のもとにすり寄ってきた。


「んじゃさー、あれ……アタシがもらっちゃっていい?」


 むむ。そう来るか。

 先日アレを渡したとき、明らかに目の色変わってたしな。もう興味津々って感じで。


 確かに、俺にとっては無用の長物といっていいが、エルフの宝ともいうべき貴重な魔法アイテムを、俺の一存でそうホイホイくれてやっていいものかどうか。絶対コイツ分解して調べる気満々だろうし。

 ……いや、チーならば、それを叩き台に、もっと優れた魔法アイテムを作り出せるかもしれない。


 火風青雲扇の製作者である前々長老や、それに関わった森ちゃんなどには悪いが、ここは思い切ってチーの手に委ねてしまおう。

 あとで森ちゃんには軽く詫びを入れておくかな。


「わかった。好きにしていいぞ」

「ホント? やったー! 魔王ちゃん大好きー! あとでたっぷりイイコトしようねー!」


 チー大喜び。そりゃいいが、他人の目のあるとこで、あまりそういうこと言わんように……。


「あー、ズルいー! ボクもアークとイイコトするー!」


 ほら案の定、リネスが反対側から俺の腰もとにしがみついてきた。なんかもう条件反射みたいだなこれ。いやイイコトはしないけどな。


「ならアタシは、もーっとイイコトしてあげるわっ!」


 ちび妖精ブランが、いきなり俺の顔面に飛びつき、ガシッと全身で貼りついてきた。なんでオマエまで参戦してんだよ! 息苦しいからやめなさい!





 お次の観光案内は――。


「お城といえば、やっぱりあれが見たいですね。玉座の間!」


 と、レールがノリノリで言ってきた。


「たしか、そこには王様がいて、ご挨拶に行くと、次のレベルまでの経験値を教えてくれたり、冒険の記録を取ってくれたりするんですよね?」


 どこの8ビット時代の王様だそりゃ。


「そういえば、王様にも戦闘を仕掛けることはできるけど、絶対倒せないって聞いたことあるよ」


 これはアロアの言。いたなあ、そういうのも。そんな強いんならオマエが冒険行けよ! とツッコミ入りまくりの王様。


「みんな情報が古いわよ」


 横からブランが言う。そうだそうだ。古いとかなんとかそういう次元じゃねえけど。


「王様の前では、きちんと挨拶しないで横柄に振舞うのが正しいのよ。そうすれば、隣りの大臣が『無礼者!』って叱りつけてくるけど、王様は『かまわん、余も堅苦しいのは嫌いじゃ。元気があってよろしい』って褒めてくれるのよ!」


 なんか一時期流行ったなそういうノリ……。本来なら即刻打ち首コースだそんなん。

 どっちにせよ、この城にそんな王様はおらん。勝手に俺をセーブポイントに設定されても困る。


 ともあれ玉座のある場所といえば、謁見の間ってことで、一行を引き連れ、案内してやった。l

 石造りの広々とした大閣。壁や天井には豪奢な金銀の装飾がほどこされ、床には青いカーペットが敷かれている。


 本来、こういう場の敷物は赤にすべきだと俺なんかは思うが……あのミーノくんが、赤いもの見ると興奮しちゃうんで、青に替えたという経緯があるんだよな。そのミーノくんは、もうここにはいないけど。

 そして玉座。


「へえー、これがアークの玉座……!」


 リネスがいきなり興味津々で駆け寄り、ぺたぺたと触りまくる。いや何やってんだリネス。


「くんかくんか」


 嗅ぐな! 玉座を!

 ……一段高い階の上に燦爛と輝く、かなり大きな黄金造りの椅子。かつて魔王時代の俺は、素で身長二メートル越えの巨漢だったので、玉座のサイズもそれに合わせたものになってるわけだ。


 今の俺でも座れないことはないし、実際座ってみたこともあるが、子供が大椅子にちょこんと腰かけるような風情で、あまり格好はつかない。スーさんによれば、いまは俺のサイズに合わせた新玉座を大急ぎで造らせてる最中だという。

 そういえば、そのスーさんはいまどこにいるのか?


 ……と思ったところへ、ちょうど俺の腕時計型端末、陛下トレーサーからアラーム音が聴こえた。


「陛下、いまお時間よろしいでしょうか」


 スーさんの声。それも着ぐるみ美女バージョンの声だ。


「かまわん。どうした?」

「は。ただいま、クラスカどのとイレーネどのから連絡がございまして。燃料輸送の準備ができたと伝えてほしい……と」


 おお、忘れてた。そういやあのバハムート二人には、重水素燃料の準備を頼んでたんだった。


「わかった。すぐに向かう」

「はい。お待ちしております」


 そういうことなら、観光はここで一区切りだ。

 いよいよブランシーカーの再始動の時が近付いてきたな。


「えー? まだ見てないとこ結構あるじゃん」


 事情をきかせ、移動を告げると、ブランが不満げに口をとがらせてきた。


「続きはまた後でな。燃料補給が終わったら、次は食堂に案内してやるよ。ほら行くぞ」

「え、食堂? 行く行く! こんなお城の食堂なら、さぞかし豪華で立派なんでしょうね! 楽しみー!」


 ブラン大はしゃぎ。


 豪華で立派……かどうかは、ちょっと、なんというか。見てのお楽しみってことで。





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