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771:機神論議


 魔王城――というものの、その城下のたたずまいについては、人類の一般的な王城街と、そう変わり映えはない。

 転生者たる俺の感覚でいえば、いわゆる西洋中世風というかファンタジー異世界の王城ってこんなんだよなというイメージそのまんまの外観だ。王城の中枢たる王宮にしても、やや威圧感はあるものの、どちらかといえば機能性重視で、そう奇抜なデザインにはなっていない。


 そもそもデザイナーは人間だったしな。旧王国からとある著名な建築デザイナーを拉致ってきて、この王城全体のグランドデザインを任せたという経緯があり、魔族の総本山とはいいつつ、魔王城の外観や建築様式に魔族側の意見や思惑などは一切取り入れられていない。


「へえー。けっこう立派なお城だとは思ったけど、そんな経緯があったのね」


 ブランシーカーの一行を引き連れ、王宮内の広間を適当に案内しながら、雑談がてらそんな話をしてやると、ちび妖精のブランが楽しそうに反応した。


「でも材質の強度なんかは、見たとこ、さほどでもないのかしら。破壊不可属性が付いてないってことは、物理的に破壊可能ってことよね」

「そんな属性、この世界にはねえよ……」


 ゲーム世界じゃねえんだから、そんなもん付与できてたまるか。

 そんな俺の呟きに、ブランは真顔で応えた。


「そう? アタシなら、多分それぐらいの属性、付与できると思うけど」

「え」

「理屈はよくわかんないけどさー、どうもアタシ、この世界の管理データ、いじくれるみたいなのよね」


 なんですと。


「さっき、ちょろっと試しに、パンツの柄を書き換えてみたんだよね。ほら」


 といいつつ、スカートの裾を、ぴらりんとめくってみせるブラン。おお、ついさっきまでイチゴ柄だったのが、水玉になっている。いつの間に。

 ……履き替えたのではなく、自分のパンツのデータが格納されたアドレスを検索して、柄だけ変更してみせたってわけか。なんでよりによってパンツの柄なのか理解できんが。それも妙に可愛らしい水玉模様なのが、またなんとも納得いかない。


 無機物の収納アドレスに干渉する能力。この世界において、それはいわゆる大精霊にのみ許される管理権限、権能の行使に他ならない。

 そういえば……ちび妖精こと「白の賢者」ブランは、あちらのゲーム世界においては、創造主ディーエ・ムエムに作り出された自立型管理プログラムであり、データサーバーのルート管理権限を持つ代理者でもある。こっちの世界における大精霊たちと似たような立場、といえなくもない。


 ようするに、ブランはいま、俺や森ちゃん、ツァバトらと同格の存在として、この世界にいるってわけか。

 外見はアホっぽい妖精さんだが、もはや侮るわけにはいかんな、これは。もし敵に回したら、こっちもタダでは済まない可能性がある。


 今更ながら、こいつらを味方に引き入れたのは、的確な判断だったようだ……。





 広間を抜け、中庭に通じる廊下へさしかかったあたりで、なにやら言い争う声が、彼方からかすかに聴こえてくるようになった。

 この声は……。


「だから、ここの起伏はもうすこし抑え気味にして、空気抵抗を減らすようにしたほうが……」

「いやー、アタシが察するに、これって魔王ちゃんの好みを忖度してリデザインされたものだろうしさー、そこを勝手に変えちゃうのはー……」

「そこまで深く考えてたわけではないんですけどね……でも逆に、ここの隆起をさらに大きくして、その内側に新たに、補助ジェネレーター二基を設置するという手も……」

「ならいっそー、固定武装でもつけてみるー?」


 場所は中庭にほど近い区画。本来は何もない吹き抜けの空間だが、現在は機神ロートゲッツェの格納庫兼整備ハンガーとして使われている。

 そこで言い争ってたのは、天才女装少年パッサことパスリーン・エルグラード、魔王城の技術担当たるリッチーのチー、ルザリク魔法工学研究所長にして機神ロートゲッツェの製作者ティアック・アンプル。


 俺が知る限りにおいて、この世界に現存する最高の頭脳がここに集結しているというも過言でない面々だ。そういや、なんか面倒なことになってると、さっきスーさんから聞かされてたっけな。


「……おまえら、何を揉めてるんだ」


 俺はブランシーカーの一行をぞろぞろ連れたまま、ハンガーへと足を踏み入れ、三人へ声をかけた。

 ハンガー内部は、それはもう雑然たる有様。肝心の機神ロートゲッツェの姿は見えず、かわりに床のあちらこちらに、まるで巨大ロボットの残骸でもあるように赤い装甲材やら骨格部分やら細かいパーツ類やらが、見事にバラバラに散在している。


 一応、チーがロートゲッツェをいきなり分解した……とは、スーさんから事前に聞かされていたが、それにしても、ここまで徹底的にバラしちまうとは。いったい何のためにそんなことを。


「勝手に分解したのは悪かったよー。でもさ、どうしても気になる点があってさ」


 とはチーの弁。


「これってー、歌いながら、ダンスとかするんだよね?」

「そうだが……」


 ロートゲッツェ。赤い偶像。つまり、空中で歌って踊る真紅の巨大アイドルロボ。なんせ搭乗者がルザリクの歌姫ことフルルなんで、それに合わせたコンセプトになっている。


「でもさー、それだったら、この関節系は駄目だよ。剣を持って戦ったり、直線的な動きをするには向いてるんだけど、いろんなポーズを取りながら踊ったりするようには、できてないんだよねー。そこんとこ、手を入れる必要があるんじゃないかと思ってさ」

「……なるほど」


 ロートゲッツェは、もともとフインブルが制作した戦闘用ゴーレムもどき、ヒヒイロアームのボディーを改装し、アイドルっぽいガワを被せたような代物だ。なにせ戦闘用なので、そんな凝ったポーズが取れるような柔軟性のある関節構造にはなっていないと。

 これは迂闊だったな。俺も、実際に改装を施したティアックも、そこまで考えていなかった。


 そこにひと目で気付いたチーの慧眼。さすが魔王城のアンデッドロリババア、年季が違うな。

 ……で、バラした理由はそれでいいとして、いま揉めてたのは、全然別件だったような気もするが。


「ああ、それは気にしないでください」


 と、横からパッサが声をかけてきた。


「僕は、もっと胸は平らなほうがいいと思ったんです。でもチーさんは巨乳じゃないと駄目だろうって……」


 それは別にどっちでもいいわ……。下手に介入すると全面戦争になりかねん話だし。



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