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769:スケバン竜王


 ドラゴキャプチャーの再組み上げを済ますと、メルはパンツ一丁の半裸で酒をあおりはじめ、たちまち上機嫌になってしまった。

 ……で結局、ここでもしばし、ご休憩する羽目になった。まあこうなるんじゃないかとは思ったんだが。


 お肌ツヤツヤになったメルに見送られ、後日に瞬間移動の術式を教えることを約して、俺はドラゴキャプチャーを抱え、再び魔王城前庭、ブランシーカーの舷側下へと、瞬間移動を行なった。


「あ、帰ってきたー!」


 まず第一声をあげたのはリネス。ついで他の連中……レールやアロア、アズサたちが一斉にこちらへ顔を向けてきた。

 ここを離れてから、なんだかんだで一時間ぐらい経っている。状況に変化はあっただろうか。


(アニキ様、遅かったじゃんか。なにやってたんだ?)

「いや……色々あってな」


 アズサに訊かれて、俺は苦笑した。ドラゴキャプチャーを回収するついでに、女どもとご休憩してた……とは、ちょっとこの場では言えんな。


「それで、いまどうなってるんだ?」

「まだ追いかけっこしてるよ」


 と、応えたのはリネス。


「でもボク、そろそろ飽きてきたかなー」


 そりゃ一時間も見物してりゃ、そうだろうな。

 見上げれば、確かに状況はほぼ変わっていない。相変わらず、黒い巨竜と緑のヴリトラが、月光を浴びて、追いつ追われつやっている。


 ただ追われる側のヴリトラのほうは、かなり動きが鈍くなっているようだ。さすがに疲れてるんだろう。いっぽうマルティナはまだまだ元気一杯の様子。あのまま放っておけば、ヴリトラが捕捉され、強制交尾に持ち込まれるのも、もう時間の問題だな。それはそれでちょっと見てみたい気も……。

 ……一応、アズサの舎弟だしな。それが嫌がってるものを、面白がって見物してるわけにもいかんか。


「アズサ。ちょっと先に出て、マルティナの気を引いてくれんか」

(おっ。アタシの出番か? いいぜ!)


 威勢のいい念声が返ってきた。


「ああ、だが、危害は加えんようにな。あれでも一応、レールたちの仲間だそうだから」

(わかってるよ。ようは、あれの邪魔になるように飛べばいいんだろ?)

「頼むぞ」

(おー、任せなー!)


 アズサは力強く請け負うや、紅蓮の翼を羽ばたかせ、夜空へと翔け上がっていった。


「ねえ、アークさん、それは?」


 俺が右手に抱える大型電気炊飯器っぽい物体……ドラゴキャプチャーを指して、レールが訊いてきた。

 そのレールの肩では、ちび妖精ブランが、相変わらずひっくり返ったまま動かない。それもイチゴぱんつ全開のあられもない姿で。まだ気絶してたのかコイツ……。そんなに怖かったかアズサの顔。怖かったよな。やっぱ。


「なに、ちょいと特殊な虫カゴみたいなもんさ。ドラゴン用のな」

「虫カゴ……ですか?」


 と、レールとアロアが揃って首をかしげた。さすが主人公とヒロイン、息ぴったりだな。


「まあ、見てな。ちゃんと、八方丸く収めてやるから」


 応えつつ、俺はドラゴキャプチャーを抱えて、アズサの後を追い、夜空へと舞い上がった。





 上空では、既にアズサとマルティナが対峙していた。

 紅と黒、二頭の巨竜が、ピギャアピギャアと喚きつつ飛び交い、人語やら念話やらで応酬している。


「おのれ小娘、なにゆえ妾の恋路を妨げる! 妾を幻想界の女王と知っての狼藉かや!」

(知らねーな。とにかく、これ以上、アタシのシマで好き勝手はさせねーよ)

「ぬうう、なんという速さじゃ! おのれ、只者ではないな!?」

(鷲ノ羽高校二年B組、高宮アズサ。またの名をスケバン竜王」

「……ぬ?」

(スケバンまで張ったこの高宮アズサが、何の因果か落ちぶれて、いまじゃアニキ様の第二夫人。笑いたければ笑うがいいさ――)

「い、意味がわからぬ……」


 いや、ここは魔王城であって、スケ番アズサ一家のシマじゃないんだが……ていうか、いつの間にアズサは俺の第二夫人になったのか? しかも落ちぶれて?

 アズサの念話による精神攻撃……いや精神攻撃だよなこれは。まさか素で自己紹介してるだけってわけじゃないよな?


 ともあれ、そのおかげで、マルティナの移動速度が大幅に低下し、注意も完全にアズサのほうに向いている。

 なお、さっきまでマルティナに散々追い回されてわれてた舎弟は、よろよろと東のほうの区画に飛び逃れていった。そっちには舎弟コンビの片割れがいるので、合流するつもりなんだろう。


 マルティナも、なおそれを追おうとしているが、アズサはマルティナの動作を見切り、巧みに進路をブロックし続けていた。さすが邪竜王というべきか、スピードでも立ち回りでも、マルティナより一段上手のようだ。


「ぬうう、小娘っ! 邪魔をするでない!」

(へん、悔しかったらここを抜けてみな!)

「なんの、猪口才!」


 猪口才って今日日聞かねえな……。

 ギャアギャアと空中で喚きあう巨龍たちの背後から、俺は音もなく近付き、十分に接近するや、そっとドラゴキャプチャーの蓋を開いた。


 たちまち、当社独自の空間歪曲技術による強烈な吸引作用が発動し――。


「ぬっ!?」

(おわっ!?)


 二頭のドラゴンたちは、あっという間に電気炊飯器の内側へ、にゅるんっと吸い込まれていった。

 急いで蓋を閉める。


 ……いかん。

 ちょっと手許が狂って、マルティナと一緒にアズサまで吸い込んでしまった。


 特に問題はないだろうが、一応、後で謝っておくかな……。





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― 新着の感想 ―
[一言] 聞き覚えのある自己紹介だなー、と思ったらスケバン刑事ですね。なんとも懐かしい
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