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767:竜捕獲器の行方


 瞬間移動でルザリクの中庭に出ると、そこは夜の豪雨の真っ只中だった。

 魔王城付近は晴天だったが、こっちは大荒れ中のようだ。あっという間に、全身ずぶ濡れになってしまった……。


 で、中庭のど真ん中に放置していたはずのドラゴキャプチャーは……。

 無い。


 目指すブツがあったはずの場所には、ただ緑の芝生があるだけ。誰か移動させやがったな?

 一応、蓋にロックは掛けてあるから、悪用とかは、されてないと思うが。


 とにかくドラゴキャプチャーが無い以上、中庭にとどまる意味もない。俺は全身濡れネズミになりながら、慌てて庁舎の回廊の屋根の下へと駆け込んだ。

 ドラゴキャプチャーは俺の私物扱いなので、そこらの木っ端職員どもが勝手にどうこうすることはあるまい。


 とすれば、ルミエルあたりか? なんか理由があって移動させたんだろう。


「えっ……あれ? 勇者さま?」


 そこへ、ローラースケートをシャーッシャーッと滑らせながら回廊を通りかかる少女。

 ファミレス風制服姿で、片手に小さなトレイを掲げている。ルザリク市庁舎が誇る出前迅速巨乳少女、ユニだ。


 トレイにはコーヒーカップが載っている。ちょうど出前中だったようだな。


「ちょいと忘れ物があって、俺だけ戻ってきた。ルミエルは助役室にいるかな?」

「はい、ちょうどこれから、コーヒーをお届けするところだったので」

「ならば一緒に行くか」

「でも勇者さま、そんなに濡れてちゃ、風邪引いちゃいますよ?」

「なーに、馬鹿と勇者は風邪を引かんのさ」

「あ、それ聞いたことあります、昔からあるエルフの森の格言ですよね!」


 昔からある格言なのかよ!? いや俺はなんとなくテキトーに言ってただけなんだがな。

 そりゃ確かに勇者はあらゆるバッドステータス無効で風邪どころかあらゆる病気と無縁だけど。


 なお、この世界の魔王は普通に風邪を引く。俺も魔王やってた頃は熱出して静養してたことがあるし。先代魔王なんて、気性は荒いが病弱な少年だったとも聞く。

 魔王はこの世界の天然物で、勇者は大精霊シャダイによって設計された魔王絶対殺すシステムってことで、そのへんの違いかね。今となってはどうでもいいことだが。


 ……助役室では、ルミエルが執務中だった。

 以前よりはだいぶ減っているが、相変わらずデスク上には未決済と思しき書類の束が積まれている。俺もここの市長になって結構経つが、事務はずっとルミエルに頼りっきりだな。


 本来、ルミエルの本職はウメチカ教会のシスターなんだが……多分、本人も、もうそんなことは忘れてるんじゃなかろうか。公務のかたわら、怪しい新興宗教の教主なんてのもやってるし。


「まあ、アーク様、どうなさったんですか? そんなに濡れて……」


 ルミエルは俺を見るや、仕事を放り出して迎えた。そのかたわら、ユニがコーヒーをデスクに置いて、ぺこりと一礼し、退出する。もう日も暮れてるというのに忙しそうだ。


「そんな濡れたままではいけませんよ、風邪などひいては大変ですから。さぁ脱いでください」


 ユニが立ち去るや、そう言いつつ、なぜかルミエルがいそいそと服を脱ぎ始めた。おまえが脱ぐんかーい!


「ほら、わたしが暖めてさしあげますから……さぁ、さぁ、こちらへ」


 艶っぽい微笑とともに、嬉々として胸もとをはだけてくるルミエル。

 あー。そうか。そういや最近、あまり構ってやってなかったな……。


 本当はこんなことやってる場合じゃない。でもせっかくだから、誘惑に乗っておこう。

 ……ついさっきアルカンシエルにサービスしてもらったばっかだが、これはまた別腹っていうか、なんというか。





 さて、ひと息ついて――着替えを終え、俺はあらためてルミエルにドラゴキャプチャーの所在を尋ねた。


「あれでしたら、メル様が荷車に積んで、運んで行かれましたが……」

「メルが?」

「ええ。なにか新しい研究の参考にするといって……アーク様には後で承諾を取るとおっしゃられてましたが」


 事後承諾ってか……まだ何も聞いちゃいねえが、いかにも万事強引なあいつらしい。

 エルフの森の前長老メルことメルザース・レムン・エルザンド。外見は小柄な女子中学生くらいだが、中身は八百歳超というスーパーレジェンド級ロリババア。


 どっかの要介護ドラゴンと似たような年齢ながら、メルの場合はガチの不老不死なので、加齢による衰えなどは一切無い。言動は年寄りでも、身体のほうはピッチピチだ。

 そのメルは、たしか森ちゃんこと森の大精霊様の呼び出しに応じるべく、中央霊府へ向かっているはず。


 常識的な移動速度からいえば、まだ街道をのんびり進んでいるはずだが……あの短気なロリババアのことだ。全力で馬車をかっ飛ばして、今頃はもう目的地に到着しているに違いない。


「では、行って来る。またしばらく留守にするが、後のことは任せたぞ」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 すっかりツヤツヤお肌なルミエルの微笑みに見送られ、俺は瞬間移動魔法を発動させた。

 今度の転移先は中央霊府の街はずれ。


 こちらは雨は降っていないようだが、あたりは暗い。貧相な木門の彼方に、そこそこ大きめの木造平屋が建っている。南側のいくつかの窓から、皓々と灯火が洩れていた。

 ここはメルが長老引退後に隠棲していた屋敷だ。もしメルが中央霊府に戻っているなら、ここか、もしくは長老公邸、そのどちらかにいるはず。


 森ちゃんに呼び出されているにせよ、まさかドラゴキャプチャーを抱えたまま公邸まで行くことはないだろう。であれば、ドラゴキャプチャーはここに置いてある可能性が高い……と推測して、見に来たわけだが。


「よっしゃー、成功じゃあ! これで例の研究にも、いよいよ本格的に着手できるわ!」


 いきなり窓の外にまで響き渡る、聞き覚えのある声。


「おおい、酒持ってこい酒を! 祝い酒じゃあ! 三丁目の佐藤酒店から、ありったけ買ってくるのじゃー! カネの心配はいらぬぞ、ツケは全部、勇者どののところに回せばよい!」


 ビンゴだ。やっぱここにいやがった。他にも数名、従者がいるようだ。

 そういや、もともとメルに仕えてた従僕の兄妹が、今でもここに住んでるんだったな。


 というか、あのロリババア……勝手に俺のツケで呑んでんじゃねえ。





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