763:魔術接続
他者への魔力注入。
色々と方法はある。そう。色々と。
最も簡単な方法は、そりゃもう決まってるが。言うだけ野暮ってやつで。
しかし相手が相手。
無理だ。
もともとブランシーカーには幼女相手にそういう意味でハッスルできるロリコンは乗っていないというが、俺だって無理だ。
いやこれは性癖の問題ではない。俺はいまだ、あの究極ロリコン大精霊エロヒムの精神汚染の影響下にあり、実のところ、きわめて遺憾ながら、全裸幼女大天使にも、その性癖がきっちりと反応してしまっている。
それでも、この方法だけは無理なのだ。
……おもに、物理的な問題でな。
とはいえ。それならそれで、別の方法を取ればいいだけの話。以前リネスにやった方法を模倣してみよう。多分俺なら可能なはずだ。
となると、また別の問題が生じることになるが――。
「おまえに魔力を供給するのはいいが……」
と、俺はやや表情をあらため、アルカンシエルに問いかけた。
「その後、おまえはどうする。もう正気を取り戻しているんだろう?」
「んー……」
アルカンシエルは、少し困ったような顔をみせたが、すぐにニッコリ微笑んだ。
「よくわかんない。むすかしいことは、あとで考える」
あー。そうか。頭の中まで幼児退行しちゃってて、いまは先のことまで考えられない状態のようだ。
ならばともあれ、アルカンシエルをもとの状態に戻してやろう。
「そんじゃー、さっそく、ずぶっとやってください! あそこで!」
無邪気な笑顔で、機関室の片隅にあるベッドを指差すアルカンシエル。いやだから、それは無理だっての……。
「おまえは、そこに立っていろ。じたばたせずに、じっとしてればいい」
「えー、こんなとこでやるのー?」
キョトンと俺を見上げるアルカンシエル。
俺は、そっとアルカンシエルの前にかがみこみ、つと右手を伸ばして、そのぷっくり突き出た裸のイカっ腹に、掌をあてた。
「あんっ。アーク様ったら、そんないきなり……」
変な声出すなっつーの! 違うんだ誤解だ!
こんな光景、間違っても他人に見せられんな……。
アルカンシエルの腹を軽くぷにぷにしながら、俺は脳内に、ある記憶を呼び起こしていた。
それはきわめて特殊な魔法陣で、術者と他者に見えざる魔力の径路を繋ぎ、魔術的に接続するというもの。
リネスが着ていた白レオタードの生地に織り込まれていた、いわゆる魔術回路の構造だ。製作者は大精霊ツァバト。
以前の俺ならば、そんなものを、目で見ただけで模倣再現するなど到底不可能だったろうが……すでに大精霊化一歩手前な現在の俺ならば可能だ。
それも、たんなるコピーではない。ツァバトの魔術回路の基礎原理にまでさかのぼり、自力で改良を加えて再構築し、触媒無しに発動することができる。
……俺も随分小器用な真似ができるようになったもんだ。成長、と言っていいのかどうかは微妙だが。
まずは、掌に超小型の改良型魔力回路を描き、アルカンシエルの肌と密着させて、俺とアルカンシエルの魔力を結合する――。
「んっ! んんっ! ああ、あったかい……なにこれぇ……!」
アルカンシエルが、細い肩を震わせ、ぷるぷる身悶えはじめた。こら動くなというに。
軽くアルカンシエルのイカっ腹をぷにんっと押さえて、回路の構築接続を急ピッチで進める。
……よし。繋がった。
「気分はどうだ? 痛みなどは感じていないか?」
と聞くと、アルカンシエルは、なぜかうっとり顔で、潤んだ瞳を向けてきた。
「ううん……これっ、とっても、気持ちイイ……あふんっ……」
「そ、そうか」
以前、リネスと魔術接続したときも、こんな反応だったな。正直、こっちは特に何の感触もないんだが。女の子だから……とか?
接続はすでに完了している。あとは、俺の魔力をアルカンシエルに流し込んでやるだけだ。
ではさっそく始め……。
ん?
「あっ、ああああああん! 来るうッ! なっ、なんかっ、わたしの中にぃぃぃー! 入ってくりゅうううううーッッ!」
うわ。こっちから流し込むまでもなく、いきなり勝手に吸い出しはじめやがった。
しかも、とんでもない勢いで。
俺の保有魔力は、おそらくこの世界では最大級。ちょっとやそっとで減るようなことはない。
にも関わらず――。
(減ってる、だとぉ?)
俺は自分の保有魔力量をある程度、感覚的に把握している。近頃では、例の邪神――現在のワン子――を亜空間へ放り出すため、リネスに魔力供給を行ない、一気に最大魔力の半分以上を消費したことがある。
もちろん現在では満タンまで回復してるのだが、あのときに匹敵、下手するとそれ以上の勢いで、いま猛烈に、俺の魔力が吸い上げられているッ……!
アルカンシエルの小さな身体が、ぼうっ……と、薄い燐光に包まれはじめた。
次第に、そのボディーラインが変化をはじめている。
どうやら、魔力のチャージと同時に、成長がはじまったようだ。
既に俺の総魔力量の三分の一が、ほとんど一瞬で吸われていた。
どんだけ大食らいだコイツ。これ下手すると、俺のほうが抜け殻になりかねんぞ……!




